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命のスープ~28章~

何年も経って気付かされることがある。

沖縄では魂を『マブイ』と呼び、ひどく驚いたりショックなことがあると体から離れてしまう。
マブイは生命の源であり、再び戻さなければ元気のない状態が続くとされる。
そのため、例えば交通事故に遭った場合には、現地までいき、マブイグミ、魂を身体に戻す儀式をする。

こどもが夜、外を出歩くようなときにはマブイを落とすのを防ぐため『サン』と呼ばれるお守りをもつ。
ロンのお母さんが帰省するとおかずをたくさん帰りに持たせてくれるが、それにも『サン』が添えられている。
魔物が途中で食べてしまわないようにという意味らしい。
お守りというと、袋に入ったものを想像するが、サンはススキの葉を結んだものである。
その辺の草木の葉でも良いし、紙でも良い。

うちなーんちゅは、誰かがくしゃみをすると『クスケー』と声をかける。
くしゃみをした隙に、悪霊がマブイに入ろうとするのをとめるために言うらしい。
雰囲気でいうと、英語圏の「Bless you」のような感じだ。

沖縄のローカルヒーロー『龍神マブヤー」は9つのマブイストーンを集めるべく、闘う。

…マブイはいくつあるのか?


私のイメージでは魂は硝子でできており、
彼が亡くなり納骨され、お墓が閉じられた瞬間、
そして離縁を告げられた瞬間、
何かがパリンっと音をたてて割れたような気がしている。

離縁を告げられた時、私と彼の7年がなくなったと思った。
すこんと抜け落ちたという表現が近い。

先日、再びヨガにいき、エアリストラティブヨガというものを体験した。
ハンモックに体を委ね、心と体を最大限リラックスさせることを目的とする。
ハンモックに揺られ、妖精と化した先生が適宜クッションを置いたりブランケットを掛けたりしてくれる。

リーン……リーン……リーン……
鐘の音が鳴る。
終わりの合図だ。
先生が声をかける。
「目覚めの時間です。月が頭上からあなたを見守っています。」

ぱっと私の頭に情景が浮かんだ。
彼のベッドから見える光景だ。

彼のベッドはシングルサイズだが、そこに二人ぎゅーぎゅーに詰めて眠っていた。
彼は暑がりでいつも窓を開けている。
隣接した建物には居酒屋が入っており、毎日賑やかな声や音が聞こえていた。
快適とはいえない空間だが、実はあのベッドに寝そべると月を覗くことができる。
二人並んで月を眺めているのを思い出すと、気付いたら頬を涙が1滴伝っていた。
びっくりした。
先生が追い討ちをかける。
「目の前に笑顔のあなたがいます。…同じように笑えていますか?」と。

必死にこらえ、涙を拭い、リラックスして垂れたよだれを拭い、身支度をした。

確かにそこに二人の時間があった。

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