命のスープ~27章~
彼の最期は急だった。
しかし、彼はきっとわかっていた。
病院に運ばれる数日前に『死』についてブログを書いていた。
死ぬのは怖くない。遺された皆がどう思うかを懸念していた。
その日は、友人3人を引き連れて映画を観に行った。
車いす席から、横の席をずらりと陣取った。
ゾンビ映画で、ハロウィンのゾンビコスプレが気に入った彼は、「これ絶対続編あるから、その時はコスプレして来ようよ!」と言っていた。
映画の後半から痰が多くなった。
友人との別れの挨拶もそこそこに、帰路についた。
身体が熱くなっていた。
帰るとすぐベッドに横になった。
汗で濡れた服を脱がせ、新しいものと交換する。
深夜3時過ぎまで帰らせてくれなかった。
あとは夜勤のヘルパーさんに委ね、自宅に帰り風呂に入り、仕事に備え少しでも仮眠をとベッドに横になった。
出勤し、携帯を見ると彼の妹から着信があった。
明け方に救急車で病院に運んだと。
LINEに既読がつかないわけだ…。
仕事が終わり、彼が持ってくるよう頼んだ荷物を持ち、病院へと急いだ。
iPadや衣類…まだ彼は生きるつもりだと思った。
いつものように、少しだけ入院してすぐに復活するだろうと。
病院に着き、妹と代わり付き添った。
普段と変わりなかった。
バカ話をし、時間が過ぎた。
深夜2時過ぎに仮眠をとった妹と交替し、後ろ髪を引かれながら帰路についた。
少しだけ休み、出勤をしたところで、携帯に着信があった。
危篤を知らせるものだった。
上司に事情を説明し、病院へ急いだ。
どしゃ降りだった。
ワイパーでかいてもかいても視界は良くならない。
病院の前にKさんがいるのを見つけ、乱暴に横付けして、車を預けた。
彼の目にもう光がなかった。
15時すぎ、心電図がピーっと音をたてた。
離島にいる親族も皆そろったところだった。
おじいが大声で呼ぶ。おじさんが大声で呼ぶ。
そのたびに、心電図が動き始めた。
やがてそれはぴくりとも動かなくなった。
おじいがすぐに言った。
「うちに連れて帰る。」
…ようやく故郷に帰れるんだねと彼に声をかけた。
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