いつか息子と、どこか遠くへ
この夏は3歳になる息子が大好きな電車に乗ってよく小旅行に出かけた。
たとえば近所の駅から各駅停車に乗って唐津まで行き、そこから唐津線に乗り換えて初めてディーゼルの気動車に乗ったし、地下鉄と西鉄大牟田線を乗り継いで高架記念のお祭りに参加したりもした。
また、よく調べもせず終点の駅まで行ってしまい、見渡す限り何もない駅で1時間ほど途方に暮れたり、別の日には電車から降りてバスに乗りたいという突然のリクエストで、駅まで戻ってくるバスに1時間揺られたりもした。
夏だから暑かったしどれもこれも最初はあまり乗り気ではなかったけど、息子と二人で乗る電車はハプニング満載で、でも息子はいつでもニコニコと機嫌よくしてくれるものだから、私も「まあ、いいか」とのんきに構えられたし、待っている時間などもずっと楽しく過ごせたと思う。
唐津線の気動車は2両編成の小さな列車で、私たち以外にお客さんはなく、私は下から上に引き上げる固い窓を15センチほど開けた。
ぶわっと涼しい風と大きな車輪の音が車内に飛び込んできて、向かいの席に座った息子が手を叩いて喜ぶ。
鉄道橋の上を通ると車輪の音は一層大きくなり、息子は思わず身を引いて、それを見た私は大笑い。
夏の日。きらきらと輝く川の水面が流れていく窓の外に少しだけ手を出して風を楽しむ息子を見ていると、なぜだか急に泣きたくなって、このまま息子と行けるところまで行って、家に帰らないでもいいんじゃないかなという気持ちが湧き上がってきた。
深刻な話じゃない。ただ二人で知らない場所にいるこの瞬間にずっといたくて、ここではないどこかへ、このまま列車に乗ってどこに行けたら。
息子は「いいね、行こっか」と言ってくれるだろうか。
予定通りの駅で降りて、しばらく待ったのち引き返す電車に乗り込む。
ここではないどこかの湧き上がる気持ちは泡のように溶けてコップの下の方に残ってる、くらいになった。
でも、と思う。
今度もしこの気持ちが湧き上がってきたら、本当に行ってしまおうか。
予定にない、ここではないどこかへ。