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デジタル化がもたらした完璧なプレイリスト

#デジタルで変わったこと

家も貧しくCDコンポもMDコンポも買ってもらえなかった中学の頃、わたしは音楽をカセットテープにダビングして聴いていた。カセットテープはTDKのハイポジテープ(DJ-2  60)がお気に入りだった。当時好きだったGLAYというバンドがCMしていた。お小遣いの大半をレンタルCDショップに費やした。予算不足のときには友達とショップにいき、ひそかに借りてほしい音楽の良さを力説し、音源をシェアしたりもした。その友達の家にあるコンポは、MDとカセットとに同時進行でダビングができた。

MDは良かった。ケースの付録シートに曲番と曲名を書いておけば、瞬時に聴きたい曲を聴くことができた。しかしカセットは違う。1曲目のあとに5曲目を聴きたいときは、3回早送りをしないといけない。長渕剛の曲なんかが合間に入っているとなかなかに大変だ。それに面が同じときはまだ良い。ときにはA面とB面を裏返す必要があったりもした。さらにきちんと停止を押して早送りしないとテープが伸びたりして音質が落ちるため、極力早送りはできないものだった。

ウォークマンのときなんかは早送り巻き戻し機能がラジカセに比べると格段に落ちるため、捨て曲のないカセットを作り上げることがとくに重要だった。
無計画に曲をダビングしていくと、どうしてもボツ曲が合間に入ったり曲順がイマイチで気分が滅入ることがよくあった。
そのため、来月のおこづかいでレンタルする予定のCDと曲のリストを授業中に一生懸命考えることもよくあった。プレイリスト入り確定の曲がアルバム曲の場合にはレンタル料金がかさむので、そのアルバムを持ってる友達に頭を下げて借りたりもして大変だった。
まあやっとできた奇跡の一枚をラジカセにガチャリとセットする瞬間はなんとも言えない最高の気分だったが。

しかし時は進みデジタル社会の現在、あれだけ苦労した中学時代が嘘のように便利になった。今やかける予算はレンタルショップに費やすお金の半分以下も以下。しかもそのコストで当時の1000倍以上の音源にアプローチでき、曲順や曲リストも自由自在に組むことができるようになった。どんなにスキップしようが何回聴こうが音質は落ちないし、プレイリストに何曲入れようが録音可能時間などのリミットがないため何曲でも組むことができる。曲と曲の合間に新しい曲をねじ込むなんて造作もないことだ。こんなふうに書き換え組み替えそういう概念もなくサクサクとリストを組むことができるため、曲を厳選するために何日も頭を悩ませる必要などなく、プレイリストを作成する時間も格段に浮いた。

こうやってデジタル化が音楽のフリーアクセス、フリータイム、デバイスフリーすらも実現した。スマホがあれば仕事中のトイレ休憩ですらリストを作成できる時代だ。しかし不思議なことに音楽を聴く時間がめっきり減ってしまったように思う。代わりにイヤホンから聴こえてくるのは有識者のタメになる情報の数々。無意識でも無計画でも重要な情報を次から次にキャッチできる現在は、完璧なプレイリストをつくるためにあくせく汗を流した頃よりも有意義な日々が続いていると感じる。いまやプレイリストはYouTubeの「後から見る」をポチポチと押すだけで完成する。


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