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高尿酸血症と腸内細菌叢(1)
ガチョウも痛風発作をおこす‼ そしてガチョウ由来乳酸菌が尿酸値を下げる!
今回は、ガチョウから単離した乳酸菌がガチョウおよびマウスモデルで尿酸値を低下させたという、私がとても面白いと感じた論文について紹介します。
この中国の研究グループはわざわざガチョウで高尿酸血症モデルを作っています。なんでガチョウ?!と思いましたが、読んでいくとなるほど~と思いました。
まずは、要約です。
宿主由来のラクトバチルス・プランタラムは腸内微生物群集の改善とプリンヌクレオシドのヒドロラーゼを介した分解により高尿酸血症を緩和する Host-derived Lactobacillus plantarum alleviates hyperuricemia by improving gut microbial community and hydrolase-mediated degradation of purine nucleosides
高尿酸血症(HUA)は、血中の尿酸値が高くなる状態で、痛風や腎臓病のリスクを高めます。近年、腸内細菌がHUAの発症に関与していることが示唆されています。この研究では、ガチョウの盲腸から分離されたLactobacillus plantarum SQ001という乳酸菌が、HUAの改善に有効であることが明らかにされました。
研究の概要:HUAを発症したガチョウの盲腸からL. plantarum SQ001を分離し、尿酸やヌクレオシド(核酸の構成成分)との共培養実験を行いました。その結果、この菌株がヌクレオシドの取り込みと分解を促進することが示されました。
HUAモデルの構築:ガチョウに高プリン体食を与えることで、高尿酸血症(HUA)を発症させる動物モデルを構築しました。これは、ガチョウがプリン体代謝の特性を持ち、人間のHUAモデルとして適しているためです。ガチョウから単離したL. plantarum SQ001メタボロミクス(代謝産物の網羅的解析)とゲノム解析により、この菌株がiunHというヌクレオシドヒドロラーゼ遺伝子を持ち、これがヌクレオシドの分解に関与していることが判明しました。さらに、異種発現(他の生物での遺伝子発現)や遺伝子ノックアウト(特定の遺伝子を無効化)実験により、iunH遺伝子の機能が確認されました。
L. plantarum SQ001をガチョウに経口投与した結果、以下の効果が確認されました。
①血清尿酸値が有意に低下しました。
②糞中プリン体代謝産物が増加しました。つまりプリンヌクレオシドが糞中で効率的に分解され、腸内環境が改善されていることが確認されました。
③腸内細菌の多様性が増加し、HUA発症時にみられる不均衡が是正されました。
④遺伝子(iunH)を欠損させたL. plantarum SQ001を同様に投与した場合、これらの効果は観察されませんでした。これにより、iunH遺伝子がプリン体代謝とHUA改善において中心的な役割を果たすことが証明されました。
動物実験による効果検証:HUAモデルマウスにL. plantarum SQ001を経口投与したところ、ガチョウと同様に血中尿酸値の低下、腸内細菌叢の改善、腸内でのプリンヌクレオシドの分解促進が観察されました。これらの効果は、iunH遺伝子を欠損した菌株では見られなかったことから、iunH遺伝子が重要な役割を果たしていることが示されました。
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研究の意義:この研究は、腸内に生息するプロバイオティクス(有益な微生物)である乳酸菌の1種であるLactobacillus plantarumが、腸内環境を改善し、プリンヌクレオシドの分解を促進することで、高尿酸血症の予防や治療に寄与する可能性を示しています。特に、iunH遺伝子がこのプロセスにおいて重要であることが明らかになりました。これにより、プロバイオティクスを活用した新たなHUA治療法の開発や、腸内細菌叢をターゲットとした健康管理の可能性が広がります。さらに、腸内細菌と代謝性疾患との関連性を理解することで、個々の腸内環境に合わせた個別化予防・医療の実現にも貢献する研究といえます。
所感:ガチョウにおいて関節内の痛風発作を起こすだけでなく、内臓痛風(visceral gout)を起こすそうです。鳥類の場合、窒素代謝の最終産物として難溶解性の尿酸を直接排泄することができます(ヒトの場合は尿素)。鳥の糞のあの白い塊ですね。鳥の場合、尿酸を産生する酵素活性が高く、ヒトよりも血清尿酸値が高いのですが、腎機能が低下すると高尿酸血症になりやすく、さらに体内で尿酸の結晶化が進み痛風発作や臓器障害を起こしているようです。インコなどを飼われている方はご存知かもしれませんね。
知られざる鳥の痛風・高尿酸血症
https://kininaru-nyousanchi.jp/trivia/vol_04.html
中国ではガチョウは鶏、アヒルに次いで多い重要な家禽のようです。痛風発作によって死んでしまうこともあり経済的な損失の原因にもなります。フォアグラはアヒルやガチョウを太らせて脂肪肝にしてフォアグラの食材にします。ヒトでは脂肪肝と言えば尿酸産生亢進と排泄低下の要因です。もしかしたら鳥も脂肪肝になることで尿酸値が上がっているかもしれません。これからフォアグラを食べたら尿酸値のことを思い出してしまいそうです。
この論文の成果から、単離した乳酸菌 L. plantarum SQ001は鳥類に給餌することで尿酸値を下げ内臓痛風を防ぎ、家禽産業としての経済損失を抑制することができるかもしれないことを示唆しています。また、いまはまだマウス実験の過程ですが、ヒトの尿酸値を下げるサプリメントになるかもしれません。日本においても、すでにLactobacillus gasseri PA-3株が製品化されていますが、まだまだスクリーニングによっては有効な菌株が見つかりそうです。
また、この研究が素晴らしいのは、腸内菌叢を簡便に調べる16S-rRNA解析という手法から、菌株の単離と全ゲノム分析そして個別の遺伝子機能の同定、動物試験による検証まで通貫して行っていることです。研究開発の総合力が非常に高く、他の疾患領域についても同じ手法で成果につなげることが期待できます。
弊社でも、痛風・尿酸領域で展開していきますので、今後の研究開発へのアドバイス、フィードバックがありましたらよろしくお願いします。