映画『コンクリート・ユートピア』感想
2024年1月10日 グランドシネマサンシャインにて観賞。
※ネタバレ注意
あらすじ
非常に面白かった。
韓国・ソウルで未曾有の大災害が発生し、舞台となるアパート以外全て倒壊のだが、そんなことある?ってくらいアパートだけほぼ無傷。
極限状態の中、アパートの住人で力を合わせて食料調達や治安維持などに励むのだけど、その過程で生まれる異常な連帯感には怖さを感じる。
端的に言うと「全体主義的な組織」に変貌して、アパートとそこに住む住人全体の存続が最優先とされ、非協力的な者や貢献できない者は白い目で見られることになる。
まるで戦時中かなと思ってしまうが、それだけ団結しないと生き残れないほどの非常事態だから、まあ仕方ないかとも思える自分。
案の定、この組織はどんどんエスカレートしていくんだけど、私が明らかに「一線越えたな」と感じるところは、物語中盤に男手集めて周辺探索に出発した時のこと。
無事そうな商店を見つけて中に入ろうとした頃、店主と思しき男性が「俺の店に近寄るな!」と銃を突きつけながら出てくる。
この男性をどうしたかというと、主人公の一人であるミンソンが後ろからバールのようなもので不意打ちし、大人数でボコボコにしてしまう。
店内はペットショップ(多分)だったようで、食料と生きている犬をありったけ持って帰ることになるのだが…。
いや、怖~。何こいつら、もう山賊やろ。
とは言いつつも、そんなことが起こってもおかしくないほどの状況というのは嫌というほど分かる。もう都市一体が完全に崩壊しているわけで、もはや北斗の拳とかマッドマックスのような無法地帯と言っても差し支えない。
アパートの存続のためなら、極端な話、何を犠牲にしても構わない、その極地まで到達してしまっている。
その行き着く先は監視社会。
住民以外をこっそり匿っていた者が摘発された事をきっかけに、次々と密告でアパートに紛れ込んだゴキブリ(実際に作中で言ってる)をあぶり出してく。
最初は同じアパートの仲間として一致団結していたのだが、一度歯車が狂いだすと、人間、ひいては組織はどんどん狂気に飲まれていく。
その変貌ぶりを描くことこそが、本作の魅力だと感じる。
ただ、個人的にあまりしっくりこなかったところも一応ある。
それは主人公の一人であるヨンタク。
彼は我先に火の中に飛び込んで消火活動するほどの献身性を買われ、アパートの主導者として音頭を取っていくことになるのだが、終盤、彼の素性が明らかになる。
結論、彼は本当の住民ではなく、本当の住民は彼が殺してしまって、成り代わっていたのだ。
本来の住民もきな臭い奴で、ヨンタクは彼に詐欺被害にあったらしく復讐しに来ていた模様。
丁度そのタイミングで大災害が発生し、ついでに住民になりすましていたのだが、正直この設定…そんないるか?ってほど核心には触れない。
たしかに中盤、このヨンタクは何か闇があるやつだというほのめかしがあって、本当の住民じゃないことが判明した時はゾゾゾとなったけど、それ以上はあんまり無いのよ。
最終的に住民にこのことがバレて、ヨンタクは追求を受けることになるんだけど、この最中、アパートに恨みを持った集団に一斉襲撃されてしまい、アパート自体が完全に崩壊してしまう。
この素性バレ事件は起承転結の”転”にあたる部分だと想うのだが、この件がアパートの崩壊には直接繋がらないので、この設定なくても通るなぁという感想を持ってしまった。
とはいえ、このなりすまし事件が中盤~終盤のひりつき要素でもあるので、それ自体は問題ないのだが、もう少しアパートの崩壊に絡めて欲しかったなと。
最後に
少ししっくりこない点もあったけど、全体を通して非常に面白く、満足。
1月5日公開ということで、ご存じの通り能登半島地震の直後ということもあり、直接的な災害描写のある本作は、公開にあたって注意喚起がなされた。
こればっかりは仕方ないというか、作品自体は悪くないので、映画関係者の方々は宣伝もしづらくて気の毒に思う。
災害描写に抵抗が無いなら、ぜひ見てほしい一作。