「小学生が自分で考えたロボットを商品化する話【後編】」
自作の手洗いロボット「シャルくん」を商品化しようと奔走している、小学五年生の根木あやみちゃんの挑戦ストーリーを2回に分けてお届けしています。
前編では、コロナ禍で見つけた「手洗いを楽しくする」という、身近な課題の解決法としてのシャルくんのアイデアを商品化するために動き出し、「自分の手で出来ること」に懸命に取り組んできた道のりをお伝えしました。
▼前編はこちらからお読みください。
https://note.com/tanq_unofficial/n/n94688442c6f1
製品化を頼んだ会社から「もう少し自分で作ってみたらどうなんですか?」と言われたことをきっかけに、スクラッチや3Dプリンターに挑戦し、自分でシャルくんの試作品を製作したあやみちゃんは、卒園した幼稚園でのモニター調査を経て「この手洗いロボットは世の中の役に立つ」と強い確信と自信を得ました。
しかし、「シャルくんをロボットという形にする」という一つの壁を超えられたあやみちゃんの前には、更に大きな壁が立ちはだかっていました。
「うちだけじゃなくて、他の会社もそういうの無理だと思いますよ」
モニター利用を終えて、シャルくんには抜群のニーズがあることがわかりました。試作品制作からここに至るまで、自分の力でできることを粛々とやってきたあやみちゃんですが、そろそろ限界を感じるようになりました。ここから先、シャルくんをさらに改善し製品化するにはやっぱり企業の力が必要。そこで、シャルくんを製品化してくれる企業を探すことにしました。カッキーと相談しながら、幼児向けの製品を制作している企業をリストアップし分析。中でも企業理念や取り組んでいる事業に共感できる企業や、知り合いに紹介してもらった企業・投資家など、5つに企業・投資家にアプローチすることにしました。この企業探しは難航。シャルくんのようなロボットを扱うのは専門外であったり、手紙を送っても音沙汰がなかったり。手紙を送った企業に電話をかけると、「こういう連絡は沢山来ているから、もうこれで終わりにしてください」と、手紙は読まれてすらいない様子でした。手紙作戦がダメなら、直接アタックしよう!と資料とシャルくんを持って有力候補の企業へは直接訪問しました。しかし、待っていたのは思わしくない態度と言葉でした。「YouTuberさんですか?」と怪訝そうな態度と共に「個人の製品化希望は受け付けていない」と。そして「うちだけじゃなくて、他の会社もそういうの無理だと思いますよ」と、想像以上に冷たい言葉を続けられました。あまりの冷ややかな態度に、その場で泣き出してしまいそうだったお母さんに反して、あやみちゃんは丁寧にお礼を言って会社を後にしたと言います。それでも、ここまで努力を続け、多くの人から応援を受けてきたあやみちゃんにとって、この出来事は耐えられるものではありません。悔しさと悲しさが込み上げてきて、会社を出た後には見えないところで号泣したと言います。
できることはなんでもやろう!
けれども、ここまでいくつもの苦難を乗り越えてきたあやみちゃん母娘。ひとしきり苦い気持ちを味わった後、すぐに次の行動を検討し始めました。シャルくんの製品化につながるかもしれないことは、シャルくんを認めてくれる機会があればなんでもやろう!と、その頃募集がかかっていた発明協会「東京都発明くふう展」に応募。これは後に「発明協会会長奨励賞」を受賞しています。
企業探し、辛いことばかりではなく…
号泣した企業探しでしたが、辛いことばかりではありませんでした。実は、手紙を送った企業は、8月に手紙を読んだ社長から改めて連絡があり、オンラインで話す場が設けられたそうです。そこで、協力こそできないけれども、シャルくんやあやみちゃんの取り組んでいることを高く評価し応援してもらいました。他にも、製品化の協力は断られたけれど、シャルくんをすごく良いと同じように評価と応援をしてくれた企業がありました。企業に評価してもらえたことは、学校主催の「SDGsフェスティバル」本選を控えていたあやみちゃんの更なる自信に繋がりました。
「SDGsフェスティバル」でグランプリ受賞、企業と結ばれる
幼稚園でのモニター利用を実施した1ヶ月後、6月に学校で「SDGsフェスティバル」の募集が始まりました。シャルくん製品化に向けて奔走していたタイミングでの出来事。あやみちゃんは手洗いロボットで応募を決め、7月に予選を突破、9月の本選へ出場することになりました。準備に向け手洗いについて調べていく過程で、世界には様々な手洗いに関連した問題があることを知ります。きれいな水を使うことができない、家に手洗いの設備がない人々がいること、もしも正しい手洗いができれば約100万人の命を救うことができること。そして、寄付をすれば手洗い設備を作れることを知ったあやみちゃんは、寄付をしたいという想いを募らせます。じゃあ具体的にどうやって寄付するのか?問題があることはよく分かったけれど、SDGsとどう繋げたら良いだろう?カッキーと相談しながら、見知った事実とアイデアを繋げていきました。そして、「シャルくんの利益で水を引いて、寄付で手洗い設備を設置したら良い!」ということに思い至ります。本選では、SDGsの課題目標の達成に手洗いが有効であることだけでなく、自分が作ったシャルくんを製品化する企業を探していることを熱烈に訴えました。小学生がプレゼンで企業探しをしていると言うことはなかなかありません。多くの校友が集う会場には一瞬ざわめきが起こりました。結果、見事グランプリを受賞。このフェスティバルがきっかけで、付属の大学で改めてプレゼンをすることになりました。そこには同窓会の方々が訪れており、あやみちゃんのプロジェクトを応援してくださることになりました。そして同窓会全面支援の下、高い技術力でモノ作りをしている企業がシャルくんの商品化に向けて一緒に歩んでくれることになりました。約一年かけて、色んな苦難を乗り越えて、あやみちゃんは遂に商品化のチャンスを手にしました。
「想いがあやみの1番の武器になる」
さて、時はプログラミング教室での優秀賞受賞の直後に遡ります。実は、ロボット作りをしている会社への訪問をする少し前、あやみちゃん母娘は探究学舎の講師であるカッキーに「どうやったら商品として世に売り出せるのか」相談を持ちかけていました。その頃から、今日に至るまで、カッキーはあやみちゃんのプレゼンのスライド・資料作成や方法などに伴走しています。幼稚園の説明会での様子から、「小学五年生でそんなに凄いプレゼンができるの??」と驚いた方もいるのではないでしょうか。お気づきの方もいると思いますが、あのプレゼンはまさに探究学舎スタイル。毎週オンラインで探究学舎の授業を受けていたあやみちゃんは、聞き手を惹きつけるスライドの作り方や話し方を学んでいました。また、お父さんからTEDを参考にすることを提案され、TEDでも話し方など演出を学びました。
それでも、最初に作ったスライドと実際に使用したスライドは全然違うものでした。最初のスライドは今振り返ってみると文字だらけ。アドバイスをもらいながら、学びながら、洗練されたスライド作りの技を習得しました。スライド作りをする前に作った数枚の資料は、カッキーに見せたところ「すごくサラッとしている」と言われたといいます。そして、続けて「もっとあやみの想いを書いた方が良い。想いがあやみの1番の武器になる」と声をかけられたあやみちゃんは、その後幼稚園の説明会でも、SDGsフェスティバルでも、自分の想いを強く訴えるプレゼンをしています。プロジェクトに向けて奔走するほど強まっていく想いが、プレゼンに大きな力を与えていました。同窓会へ向けたプレゼンのタイトルは『手洗いロボットの紹介と私の思い』でした。このプレゼンは、お母さんに「親から見ていても、プレゼンの最中は何かが降りてきていた」と言わせしめた圧巻のものでした。最後、チャンスを勝ち取ったのはまさにあやみちゃんの「想い」だったのです。
「ロボットを作ったらお金持ちになれる!」もう一つのきっかけ
この記事の最初、商品化を決意したのはお母さんから「こんな商品があったら、ママだったら買いたい!売れるよ!」と言われたことがきっかけだとお伝えしました。実は、お母さんがかけた言葉はそれだけではなかったのです。
「このロボットを商品化したら社長になれるんじゃない?」
この一言が、あやみちゃんを商品化へと強く駆り立てました。
実はあやみちゃん、2018年の夏、初めて探究学舎に訪れた際に受けた「経済金融編」で、お金持ちになるための1つの方法は社長になることだと学んでいました。
「最初はSDGsのこととか全然知らなかった。単純に、お金儲けのことを考えてて。あ、このロボットを作って売れたらお金持ちになれる!と思った」と、商品化を決意した時のことを振り返ってくれました。お母さんも「最初は社長になれるとかお金持ちになれるとか、内的なことがチャレンジの動機だったんです。だからノリノリで会社名とかを考えていて、その時間がとても楽しそうだった」と。ちなみに、あやみちゃんの考えた会社名は「FDS Kids」。FDSはFun Dream Success の頭文字をとったものです。
「でも、だんだん変わって、外に向いていくようになったんです」と続けるお母さん。商品化するためにコンセプトを詰めていく過程や、たまたま開催されたSDGsフェスティバルに向いて準備をする過程で、あやみちゃんは手洗いの重要性と、手洗いの問題の解決がSDGsの課題目標の達成につながることを知りました。気づけば、お金儲けのための手洗いロボットから、世界の問題を解決するための手洗いロボットへと目指すものが変わっていました。内的な動機から始まった挑戦は、社会、世界に繋がる動機と合わさったことで、大きく力強い歩みを進めていったのでした。
編集後記
あやみちゃんの心に火をつけ、辛いことも嬉しいことも常に一緒に分かち合ってきたお母さん。このプロジェクトを通して、あやみちゃんは「できるかな?」は努力次第で「できる」ことを身をもって経験し、沢山の人からの賞賛と応援を受け、自信という大きな収穫を得ているように思うと語ってくださいました。
それにしても、我が子のアイデアに対して「商品化したら」なんて自然に思い浮かぶことでしょうか?「直接の知り合いというわけではないけれど、同じ回に経済金融編を受けていた子が中学生で起業家になっていたり、通塾生が企業とコラボして商品化していたり、あやみと歳の近い子が先を走っていたから」と、同世代の子がロールモデルとして存在していたことの影響の大きさを語ってくださいました。
学校の同窓会全面支援のもと、企業に商品化まで導いてもらえることが決まったあやみちゃん。同窓会に向けてプロジェクトの概要を伝える場では「“夢を信じて努力すれば、必ず成功できる!”ということを同年代の子どもたちにも伝えたい」と言葉を残しています。知り合いではなくても、「同世代の子が挑戦をしている」「何かを成し遂げている」という事実が人を勇気づけ、挑戦に駆り立てます。あやみちゃんが受け取った挑戦のバトンは、きっとあやみちゃんの知らない同世代の子へと繋がれていくのだと思います。
それに、あやみちゃんは知らないことばかりの状態から挑戦を始めました。商品化までのプロセス、企業分析・訪問、プログラミング、3Dプリンター、プレゼンテーション。商品化という大きな挑戦には、このような小さい挑戦の数々が詰まっていました。学びながら、辛いことや悲しいことを乗り越えながら、等身大でこの挑戦に挑んでいました。そして、あやみちゃんはたった1人で挑戦していたわけではありません。挑戦の過程は、同時に、お母さん、カッキー、プログラミング教室の先生、学校、幼稚園、企業…沢山の人を巻き込む過程でもありました。知らないなら学べば良いし、失敗したらまた挑戦すれば良いし、1人で出来ないことは誰かを巻き込めば良い。今回の記事が、「アイデアを形にしたい」と願う誰かの背中を押すことができたなら、望外の喜びです。
また、現在あやみちゃんは「シャルくんを世の中に広く広げ、販売してくれる会社を探す」という次の課題に挑んでいます。これまで多くの課題を達成してきましたが、まだ道半ばです。この記事を読んであやみちゃんの挑戦を応援し、ご協力してくださる方が更に増えることを願っています。
記事を書いた人:ちひろ
今は実践探究でメンターをしたり、文章を書いたりしています。
感動したことや葛藤したこと。感じたことを言葉にすることで認識できる自分の世界は広がると信じて、子どもたちの心の中を言葉にするお手伝いに努めています。
企画・写真・編集:あい
探究学舎広報担当。【価値ある接点の最大化をデザインする広報】を目指し、日々楽しく奮闘中。趣味はドライブと朝活。
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★探究学舎の1-2月テーマは「ロボット編」★
▼詳細はこちら!
https://bit.ly/3GL233P
『ロボット編』のコンセプト
「いいロボットをつくるには?」
人類ははるか昔からこのような問いをかかげてロボット開発に挑戦してきました。
探究学舎のロボット編では、「ロボットを実際につくること」や「プログラミング」のみにフォーカスしません。
なぜなら、実はロボットは、物理学や数学といった科学分野だけでなく、生物学や心理学、文学にいたるまで、多分野にわたる知恵が結集してつくられているものだからです。
ロボットはいわば、”人類の叡智の結晶”なのです。
授業ではヒューマノイド(人型)ロボットを主に取り上げて、小学生に向けて、ロボットに結集している様々な知恵を、驚きや葛藤と共にお届けします。
「ロボット」にもともと興味があるお子さんはもちろん、
いきものが好きなお子さんは、いきものとロボットのつながりから、
物語が好きなお子さんは、文学とロボットのつながりから、
自分の「好き」と「ロボット」とのつながりを見つけることができるでしょう。
ロボットやプログラミングなどの知識が全くなくても楽しく、見る・知るだけでも驚きがあり、理解すればするほど色んな経験や知識と結びつき学び味が深くなる、そんな2ヶ月間を一緒に過ごしませんか?
これから先、ロボットと私たちとの関わりはますます深くなっていきます。
その先にはどんな世界が広がっているのか・・・
わたしたちと一緒に未来をのぞきにいきましょう!