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「新しい組み合わせで走るひと」に導かれて走る " 旅先で『日常』を走る ~Spin-off①~ "

ここ数ヶ月、出張で京都に滞在することが多い。
生まれも育ちも東京で、関西にはあまり縁のない人生を送ってきたが、せっかくなので業務の合間を縫っては、京都をはじめ関西のさまざまな街に訪れ、その街を走ることが無上の楽しみとなった。

その一方で、仕事がらみでない楽しみも充実している。
PLANETSCLUBという勉強会要素が強いオンラインサロンに、2年半ほど前から参加する様になった。最近では書くことについて講義を受けている。しかし、講義をただ聞いているだけでは、文章は一向に上手くならない。講師である宇野常寛さんの添削はあるのだが、それに飽き足らず有志でnoteに『WE Run』という名の共同運営マガジンを立ち上げた。クラブ内の分科会であるランニング部がこれを立ち上げたので、エピソードは自然と『走る』にまつわるテーマになる。

そのマガジンにあるメンバーがアップしたnoteが、興味深く私の頭の片隅にずっと残っていた。

執筆メンバーの一人である井田さんが、スピッツのライブを観るために大阪城ホールまで遠征し、翌朝に大阪城公園を走るという内容だ。

“ 見っけ、MIKKE、エウレカ!!前向き要素な発見だ。私も走るなかで、いろんな見っけをしていきたいと思ってる。まずは風景の中に。走るそのものの中で楽しいを。そして走り続けていく中で。あらたに出会う世界観、あるのかな。”

私も一時期48グループにハマって全国の劇場まで足繁く通っていたので、遠征先での思いがけない出会いや発見がある感覚が自分の経験知とリンクして、お気に入りの記事になっていた。そして、いつかは大阪城公園を走ってみたいなと思っていたが、時が経つごとにその思いは霧散しつつあった。
ところがあるきっかけで、その思いが再燃することになったのである。

つい最近、クラブ内で『突発!DJ30munites』というイベントが立ち上がった。

内容は単純. 誰かがDJ役として,YOUTUBEや,spoitfy等にアップされている音源を,ZOOMの音声共有機能で流しつつ,自分の思い入れと共に,軽く解説する...と云う,イベントと呼べるかどうかも解らない催しだ.

この企画の一環として、私は井田さんに「スピッツでセトリを組んでください」と依頼した。単純な興味からであった。私のリクエストに応えてくれた井田さんは、なんと『ランニングspitz☆』というコンセプトで30分のセトリを組んでくれたのだ。

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この企画はDJイベントが始まって以来最高の視聴者数を記録し、ランニング部メンバーの間では、このセトリを掛けながら走る行為が大流行した。
私もスピッツをきっかけに新しい組み合わせで走るひとを体感してみようではないか。そう考えた。では、どこを走るか? 考えるまでもない。


『大阪城×スピッツ』

いつもながらの京都出張から京阪電車に小一時間揺られ、京橋で乗り換え環状線で一駅行けば、そこはもう大阪城なのだ。私は11月のある日曜日に、この試みを決行した。

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5年ぶりに足を踏み入れた大阪城公園は再開発が進んでおり、すっかり様変わりしていた。なにしろランステまで出来ていたのだ! 駅のトイレで着替え、コインロッカーに荷物をぶち込む気満々だった私は、初っ端から出鼻をくじかれた気分になる。しかしここは気を取り直して行こう。
いかにも「このランステ、使い慣れてます。」的なキャラを脳内で作り上げて、スマートにチェックインし、スマートに身支度を整えた。

さあ、準備は万端だ。スマホのApple Music を起動させ、スタートした。
さっそく聴覚がスピッツの奏でる音楽にハックされた。五感のチューニングが普段のランニングとは違った感触になった。

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M1 『日曜日 』

日曜日の昼下がりに公園を走るなど、飲食業を生業とする私にはほんの数年前まで想像できなかったことだ。日曜は書き入れ時なので楽しみもあるが。それ以上に緊張感がつきものだった。日曜日の休みを緊張感なく受け入れられるようになったのは、つい最近のことなのだ。など考えながら進むと、目の前に大阪城ホールが見えた。ここを左折する。

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M2 『8823』

軽快なリズムとドラマティックな曲調に後押しされて、心なしかペースアップする。前半でオーバーペースになると後半がグダグダになるので、落ち着いていこう。周囲を見回すと、向かい側の空をその壁に映し出している騙し絵のようなビルが鎮座していた。

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M3 『恋する凡人』

引き続き早いリズムで、今度は曲の主人公が土砂降りの中を走っている!わたしもここらでちょっとペースを上げていこうか。周囲のランナーと追っかけっこ的に抜きつ抜かれつをしつつ、しばし堀端を進む。

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M4 『点と点』

相変わらず早いリズムの曲が続く。曲中ではまだ雨模様だ。一方こちらは秋とは思えないほどのポカポカ陽気、しかもこの時期特有の低角度な、刺すような陽射しだ。これは日焼け間違いなしだな。

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M5 『野生のポルカ』

ここでリズムがポルカに変わる。先ほど左手に見えた天守閣につながる門をスルーし、なおも道なりに進む。推進力を前に向けるよりも、一旦落ち着いて跳ねるように縦ノリで走ってみる。

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M6 『潮騒ちゃん』

沿道に紅葉が見えるようになった。曲のリズムはやや緩やかになった。「風の匂い」という歌詞が耳に入る。この辺りはけっこう風が強く、すでに汗だくの身体には心地良く感じる。左手にまた天守閣に向かう道が現れた。今度は入ってみよう。

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M7 『優しいあの子』

大阪城の天守閣を正面から見るのは生まれて初めてだ。さすがにこのあたりは人が多い。観光客というよりは地元の人たちっぽい雰囲気だ。写真を撮っているタイミングで、草野マサムネの声が「やさしいあの娘にも教えたい♪」と歌っていた。そういえば、この曲が主題歌だったドラマ『なつぞら』は私が今までの人生で唯一完走した朝ドラだった。

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M8 『ヤマブキ』

天守閣からさっきはスルーした方の門を出て、再度同じ道を進む。さっきよりは風は弱まっている。そして、今度の曲はだいぶリズムが落ち着いている。少しペースダウンしよう。

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En 『花泥棒』

さっき曲がった角をスルーし、直進する。日陰に入った。道の両側にそびえるは銀杏並木だ。このあたり、落ち葉のボリュームが尋常ではない。再度ペースアップして進もう。

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広場の噴水のあたりを走ったところで、井田さん渾身のセトリを一通り聴き終えた。気分は最高だ。大阪城公園の風景が、まるでスピッツのミュージックビデオの一場面のように、現れては視界から消えていく。
楽曲を引き立てるかのように存在する木々や堀川、そして石垣や天守閣。いままで身近ではなかった場所が、スピッツを通すことで一気に親しみやすくなるのだ。これも一つの『見っけ』なのだろう。

さあ、この場所からランステに戻るまでは1kmちょっとだ。ここからはAirPods Proを外して走ろう。聴覚を復活させて五感のバランスを整え、物語化されていない風景を味わうとしよう。
走り出すと、さっそく鳥たちのさえずりや木々のさざめきを聴覚がキャッチする。続いて、さっきまでは意識しなかった銀杏独特の刺激臭が鼻をついた。

私は多くの家族連れがくつろぐ公演の芝生の間をすり抜けるように、帰路を急ぐ。今日見つけられた『新しい組み合わせ』に感謝しながら。

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蒲公英
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