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番外地で体力の限界まで走る " 旅先で『日常』を走る ~spin-of㉗~ "
【あらすじ】
3泊4日の道東旅に出た私は、釧路空港からレンタカーで鶴センター・阿寒湖・根室・宗谷岬・知床(観光船欠航)・北見と移動した。
↓ 前編はコチラ ↓
*
2024年9月29日、日曜日。
北見の宿を朝6:30にチェックアウトし、向かう先は網走。今日は『オホーツク網走マラソン』を走るのだ。しかもフルマラソンを!
ナビを頼りにしてレンタカーを走らせる。日曜日の早朝で車がほとんど走っていない北見駅前を抜けてしばらく進むと、信号待ちでいかにも「これからマラソンに向かいます」といういで立ちの方が運転している車が隣に停車した。
この車に付いていくのが得策だと判断し、その後40分ほどひたすら後を追って進むと、巻かれることなく無事に参加者用の駐車場に到着した。
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ここからバスに乗り換え、さらに10分ほどで会場に到着した。
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曇天模様で今にも雨が降りそうだが、日差しがない分だけスタミナを奪われることなく走れそうだ。
スタート地点は網走刑務所前。元々の建物が移設され博物館になっていてるので、そこからスタートだと思い込んでいたのだが、まさかの現役刑務所の方だった。
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荷物を預けて、スタートまでの時間を手持ち不沙汰で過ごす。早めにスタート地点に移動し、周囲の参加者を見渡す。
参加者は全国各地から集まってはいるようだが、道内に住んでいる人が多数を占めているようだ。普段はあまりレースにエントリーしないような雰囲気の若者たちが、友人同士で参加しているパターンのようだ。
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今回は記念すべき第10回大会であり、また「Run Net」というマラソンサイトで去年の本大会の口コミ評価がなんと全国1位だったこともあって、私の中での期待値が跳ね上がっている。最近あまり普段から走り込めていないのでフルマラソンを完走できるかだけが心配だ。
さあ、時刻は8:45。号砲が鳴らされ、いよいよフルマラソンの部がスタートした。
--
スタート地点を超えてすぐ、網走刑務所のシンボルである鏡橋を渡る。
" 「流れる清流を鏡として、我が身を見つめ、自ら襟を正し目的の岸に渡るべし」という由来から名づけられたそう "
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かつては映画の題材になるような凶悪犯を収容する刑務所だったため、脱走を防ぐための濠として活用されていたのが実際のところらしい。
橋を渡り切ったところで左に折れ、しばらくは網走川沿いを進んでいく。
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右手に網走駅を眺めながらなおも進んでいくと、幹線道路から住宅地にコースは移行していった。
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ここまでは道が平坦なこともあって、快調なペースだ。
4㎞ほど進んだところで、当マラソン名物の「元気エイドステーション」第一弾が登場した。看板には鉄砲汁と記載されている。
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網走水産加工振興会水産物普及促進部会より提供された蟹汁だ!まだ序盤だが、水分と塩分を補給し身体も温まるという素晴らしい計らいではないか。なにより味がよい。
はるばる網走まで来て本当に良かった。しみじみと蟹汁を味わいつつ、先を急ぐ。このマラソン最大の上り坂がこの先に待っているのだ。スタミナを極力消耗せずに切り抜けなければ。
と、右手に見覚えのあるポスターが現れた。
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『オホーツクに消ゆ』。私が小学生の頃に流行ったファミコンソフトのタイトル名だ。のちにドラゴンクエストシリーズで一世を風靡した堀井雄二氏がシナリオを担当した推理ゲームではないか。それがなぜ、オホーツク海沿岸のこの地とはいえ、今この時代に?
"2024年9月12日にジー・モードから、2024年を舞台にした堀井監修の新作エピソードも収録したリメイク版『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ 〜追憶の流氷・涙のニポポ人形〜』がNintendo SwitchとSteam向けに発売された "
じつはリメイク版が発売されたばかりで、その宣伝だった。納得。
さあ、いよいよ上り坂だ。気を引き締めて進もう。
出走経験者の口コミでは「劇坂!」と評されているが、実際恐れていたほどの勾配ではなく、緩やかにカーブを描きながら上りが1km弱にわたって続く。私はコースの左端に寄り、ペースを落としてゆっくりと上っていくことにした。
なんとか坂を上り切った。幸いに、スタミナもさほど消耗していない。標高が高くなったので、眺めがよくなった右側の景色を楽しみながら進んでいく。
目の前には続々と特設エイドが現れる。
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7.8km地点の自衛隊エイドでは、とても甘いミニトマトにコーラの振る舞いがあり、10km地点では
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オホーツク海の流氷をイメージした「流氷飴」などが提供された。
また14.4km地点では「あばしり牛乳」に「いも団子・かぼちゃ団子」「あんぱん」が、
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これでもか、とばかりに投入される。まるで竜宮城だ。酒池肉林?
すっかりご満悦で進み、気づいたら20km近く走っていた。
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ここからはまた山道をしばらく進んでいくようだ。少しペースを落としていこう。
このあたりは独特なエイドが続く。
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「炎の男エイド」で気合を入れられたかと思えば、「イケメンエイド」では数名のイケメンが普通に応援してくれる。手品をしている人まで現れた。
さすがにバテてきた29km地点、再度豪華エイドが突如復活し、網走産の「しじみ汁」に揚げかまぼこ「長天」、「ベーグル」「コーラ」に加えて記念すべき10回大会記念特別エイド「ジェラテリアRimo ミルク味ジェラート」まで参戦してきた。
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汗だくで塩分を欲していた私にしじみ汁のしょっぱさが染みわたり、この先を走り抜く元気が復活していった。
とはいえ、さすがに30km地点を越えると下半身の節々に傷みが出てくる。無理にスピードを出すのは諦め、完走のみを目指して残りの道を進むことにした。
33.2km地点。
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「あばしり和牛」に、これも10回大会記念特別エイド「網走産ホタテのバター焼き」。すでにタイムを気にしなくなった私はゆっくりと味わっていただいた。
そして35km地点では、山形県天童市名産「シャインマスカット」が振る舞われていた。
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網走と天童は互いのマラソン大会にエイドを提供しあっているそうだ。素晴らしい取り組み。
この先、左に折れて道は細くなる。しかも緩やかな上り坂。ここでいよいよ足が辛くなって「もう歩いちゃおうかな」と思ったその時、目の前にペースランナーの姿が現れた。背中のゼッケンには『5時間』と書かれている。
彼がなぜか速度をやや落として私のすぐ後方に着いた。なに? あおり運転??「このペースで走れば5時間切れますよ!」と彼は私にささやいた。知っています。でも自分のペースで走らせて欲しい。しかし、そんな私のささやかな願いは叶えられることなく、ペースランナーによるあおり運転は続いていく。
38㎞地点あたりで、突然新たなエイドが現れた。大阪のおかんっぽいいで立ちの方々が「飴ちゃん」を配っていたのだ。もうなんでもいいから口に入れたいと、おかんから飴ちゃんを2粒ばかりちょうだいし、口の中に放り込んだ。そしてそこから1kmほど進むと、予期せぬ事態が訪れた。
なんと、飴ちゃんの効果なのだろうか?脚の節々から感じられていた痛みがだいぶ和らいできたのだ。そこに追い打ちをかけるようにペースランナーから「あなたスタート順が遅かったから、このままだと4時間55分切りますよ」と、悪魔のささやきが。残り2㎞ほど、ペースアップして進むことにした。さらば、ペースランナー。
ゴールに向かって一本道を進んでいく。
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ゴールまでまっすぐに進む道の両側に、見事なひまわり畑が広がっている。壮観だ。まるで、ここまで頑張ってきたご褒美のようだ。
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最後の力を振り絞って走り、ゴール!!
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タイムは4時間54分台。自己ベストにはわずかに及ばなかったが、大満足。
走り終えたばかりだが、すでに来年も参加したくてウズウズしている。
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心地よい疲れと爽快感の中、完走者への振る舞いを美味しくいただいた。
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さて、のんびりしてもいられない。次の目的地に急がなければならないのだ。
駐車場までの送迎バスに乗り、駐車場に着いたらすみやかに発車した。目的地は『博物館 網走監獄』だ。
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" 博物館網走監獄は、明治以来、網走市と深く関わりを持っていた網走刑務所旧建造物を保存公開する野外歴史博物館です。 "
ブラタモリで特集されていた放送を数年前に観てからいつかは訪れようとの念願叶って、いよいよ本日足を踏み入れることができたのだ。
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到着したのが閉館1時間ちょっと前だったため慌ただしくはあったが、網走刑務所の来歴や、所内外での活動が詳しく展示されており、楽しく鑑賞できた。
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17時の閉館時刻になり博物館を出てたら、ディナーを摂りに網走駅前に向かう。駅前商店街の一角にある駐車場に車を停め、お目当ての『網走ちゃんぽん』を提供している店に急いだ。
" 「焼きちくわの長さ日本一」の(中略)戦いを通じ、交流が始まった網走市と雲仙市、あるとき雲仙市にある有名なちゃんぽん「小浜ちゃんぽん」を網走の食材で作ったら美味しいんじゃないか?という話が持ち上がり、2011年9月に雲仙市から来た訪問団が網走の食材を使ってちゃんぽんを試作、この事がきっかけとなり網走ちゃんぽんが産まれました。 "
サイトに掲載されているお店を何軒も回る。中華料理屋は定休日で、ホテルのレストランはランチ営業のみだった。そして焼肉レストランでは「予約で一杯でご案内は21時以降になります」と言われてしまった。どうやら町ぐるみでご当地グルメとして盛り上げようとしたはいいが、その意気込みはあまり長続きしなかったように見受けられた。
ちゃんぽんはあきらめて、なにか違うものを食べよう。方針を転換して商店街をうろうろと徘徊する。
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お、ちょうどいいところに昔懐かしい昭和スタイルの洋食屋がある。さっそく入ってみよう。
メニューを一読し、季節物でおすすめのステーキ&カキフライ定食を注文してみた。
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ボリュームたっぷりでご飯を半分ほど残してしまったが、懐かしくて美味しかった。期待以上。
では、腹も満たされたところで、本日の宿へ移動する。向かうは屈斜路湖だ。
カーナビを見て山道を避けたつもりだったが、どうやらどのルートでも峠越えは免れることはできなかったようで、真っ暗で右に左にカーブがきつい道を1時間半ほど運転して、ようやく到着した。一寸先も見えないのでハイビームにしていると対向車からパッシングを浴びまくり、道中では事故したばかりの車を2台別々の場所で見かけるほどの難所だった。
這々の体で宿に到着したのは20時近く。今日の宿は、屈斜路湖近くのユースホステルだ。
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猫たちがお出迎えしてくれるが、宿の方の姿は見当たらない。しばらく猫と戯れながら待っていると奥の方から宿の方が現れ、無事にチェックインできた。
明日に備え、早めに消灯することにしよう。
*
翌朝、せっかくだから屈斜路湖に寄って行こうと、早起きして湖畔に向かった。
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まだ朝8時前で、車もあまり通っていない。空は晴れ渡り、湖面も穏やかだ。静寂があたりを包んでいる。この湖が後ろ側の源流であり、まさにすぐ近くから釧路川が走っている。
せっかくだからついでに摩周湖にも立ち寄って行こうかとも考えたが、湖面を眺めているだけでは特に面白いこともないので、次の目的地にそのまま向かうことにした。
南東方向に小一時間ドライブして、塘路湖に到着した。
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じつはここからカヌーのツアーに参加して、釧路川を下っていくのだ。川の両岸には釧路湿原がある。
" 釧路湿原は、北海道釧路平野に位置する日本最大の湿原・湿地。(中略)中心部の7863haがラムサール条約登録湿地である。"
なにしろ私は高校時代に野田知佑氏の『日本の川を旅する』を読んで以来、一度は釧路湿原をこの目で見ることが念願だったのだ。
早く着きすぎたので、周囲を散策して時間を潰す。
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旅先でカヤックに乗ることを普段から好んでいるのだが、カヌーに乗るのは初めてだ。
10時になり、ツアーはスタートとなった。
ガイドの方とアラサーくらいの女性が一人、私のと同じ艇に乗るかたちになった。中国からのツアー客たちが乗る艇が後ろから付いてくるという布陣で進んでいく。
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9kmのルートを1時間半ほどかけて進んでいく。JRの線路が釧路川に沿って走っており、すぐ近くを並走する区間もある。
湿原の水辺は隆起しており、残念ながら奥の方が見えない。ガイドの方曰く「もう少し水位が高ければだいぶ見通しが良くなる」とのことだが、普段より川の水量自体が少ないようだ。
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気まぐれにオールを動かしながら、カヌーは悠々とと進んでいく。
白鷺が飛び立ち、そこかしこに鹿がいる。
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水辺の草は味が良いらしく、鹿はわざわざ泳いで食べに行くらしい。
運が良ければ鶴の姿も見られるそうだが、残念ながら見かけることはできなかった。
と思いきや、ツアー終了後にスタート地点まで戻るバスの車中で「あそこに鶴がいますよ」と声を掛けられ、振り向くとそこにはタンチョウヅルのつがいが道端の草むらで羽を休めていた。
充実したツアーではあったが、せっかく湿原まで足を運んだにも関わらず湿原ぽさをまだ堪能できていないのが心残りだ。ということで、展望台に寄り道することにした。
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車で15分ほどの場所にある細岡ビジターセンターに移動し、ここに車を停めて山道を10分ほど上っていく。
あった!
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視界一杯に広がる湿原の雄大さよ。
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これが観たかったのだ。
35年来の念願を叶えてすっかり満足し、帰路につくことにした。釧路空港からの飛行機は18:30発でまだ時間があるので、釧路市街に寄り道していこう。
小一時間のドライブを経て、釧路港近くに車を停めた。釧路港は銚子港と水揚げ量日本一を競う、全国屈指の漁港だ。
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かつては景気が良く大賑わいだったそうだが、漁獲量規制や温暖化による漁獲量減少などの要因が相まって、近年では特に釧路駅近辺の旧市街地の空洞化が問題視されている。
さあ、まずはランチを摂ろう。
釧路市在住の知人から、この近辺のおすすめグルメ情報は収集済みだ。採れたての魚にも食指をそそそられるが、ここは『泉屋』で!
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古き佳き洋食屋の趣きが、私の食欲をピンポイントで刺激してくる。昨日のディナーで何を食べたのかなんて、すでに記憶の彼方に飛びさっているのだった。
注文したのは、釧路名物「スパかつ」。
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その名の通り、スパゲッティミートソース on the とんかつ だ。お味は想像通りに美味い。特別な行事がある日の学校給食のような贅沢さを感じる。
腹も満たされたところで、釧路港の周辺を散策する。
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さすがに規模がデカい。しかし漁港だけに、午後の時間帯は閑散としている。
そのまま駅前に向かう。
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このも閑散としている。
もはや鉄道を利用するのは学生とお年寄りくらいで、まだ学生が下校する時間帯には早いのだ。
駐車場に戻りがてら、旧繁華街へと移動する。よく廃墟系ユーチューバーがネタにする、20年も放置された百貨店跡が、すぐに見つかった。
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飲み屋が点在するくらいで、他に店舗らしきものはほとんど見当たらない。週末の夜には賑わうのだろうが、この寂れ方はかなりのものだ。
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釧路のように鉄道の利便性が特に悪く、車社会なのに駅周辺までの交通アクセスや駅近くの駐車場事情が悪いとなると、完全にロードサイドの商業施設に集客で負けてしまうのだろう。現に釧路のイオンモールは敷地も巨大でかなりのにぎわいをみせているという。
さて、いい時間になったので、そろそろ飛行場に戻ってレンタカーを返そう。その前にガソリンを満タンにしないと。飛行場最寄りのガソリンスタンドはなんと11kmも離れているらしいので、早めに動かねば。
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ということで、無事に釧路空港に戻り、搭乗手続きを済ませた後は、釧路ラーメンに舌鼓を打った。
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さらば道東よまた来るまでは、しばし別れの涙が滲む(滲まない)。たぶん、来年も来るよ!
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