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小説「夏の約束」 プロローグ

プロローグ「TUNAMI」

ふるさとの自宅の窓辺に座り、静かに降る雨の音と、遠くから聞こえる波の音に耳を傾ける。

部屋の中は薄暗く、懐かしいあの香りが漂っていた。私は古びたCDプレイヤーに手を伸ばし、サザンオールスターズの「TSUNAMI」のCDを取り出す。

曲がかかった瞬間、心は20年前の夏に戻り、新宿中央公園でのひとときや、えりとの思い出が鮮明によみがえる。

「TSUNAMI」のメロディがCDプレイヤーから流れ出し、この部屋に静かな響きをもたらす。

『風に戸惑う弱気な僕』
『通りすがるあの日の幻影』


  私は窓辺に立ち、深い夜の闇を眺めながら、遠い日々への想いにふける。過ぎ去った何十年も前、学生時代の夢想の世界。今や甘く切ない記憶と化したその日々が、時折、私の心に浮かび上がる。

 今となっては、私の人生は安定し、何不自由ないものとなった。仕事にも家庭にも満たされ、子供たちは既に巣立ち、それぞれの道を歩み始めている。全ては穏やかで静かなものだ。

 ベッドに入る前のこのわずかな時間、私は自らの過去へと引き戻され、あのキャンパスでの出来事やえりとの甘酸っぱい記憶にふける。


 あの頃の私は、今とはまるで別人だった。夢に満ちた日々、そして心から愛した彼女のこと。このサザンの甘く切ないメロディに触れるたびに、時間が逆戻りするかのような錯覚に陥る。

 突然、目の前に幻想のドアが現れる。巨大な木製のドアがゆっくりと開かれ、その向こうにある異世界への扉が現れる。

そのドアは重厚で、金属製の取っ手が光り輝いていた。 

 その向こうでは、えりとの思い出がまるで昨日のことのように鮮明に広がっている。

 ドアの中の部屋は、まるで過去の世界が再現されたかのようだった。

  そこにはあの頃の自分と、えりの姿がある。えりの笑顔が輝き、私たちが共有した特別な時間がよみがえる。


「えり…」とつぶやくと、えりの声が現実と幻想の境界を越えて響く。

「ここにいるよ、いつでも」と、えりの声が恥ずかしげに、しかし温かく響く。

「どうして、あの約束を果たせなかったのかな…?」彼女の声はわずかに震えていた。

「運命って、本当に不思議ね。でも、約束自体の意味はまだ消えていないわ。」

「えり、もう一度会える日が来ると思う?」

「えっと、その、もちろんよ…。この部屋に来れば、何度でも。ここは私たちだけの特別な場所だから。」

彼女の言葉には少し照れくささが混じっている。

「えり、君が幸せならそれでいいんだ。でも、僕はまだ君を忘れられないんだ…」

「忘れなくても大丈夫だよ。あなたが今ここにいるのは、その思い出があるから…。」

彼女の声は優しく、まるで心を慰めるように響いた。彼女の声が、空間を満たすひととき、私はもう一度何か言おうと唇を開く。

でもその瞬間、えりの姿がゆっくりと霞み始める。「えり、もう一つだけ…」

『エリー my love  so sweet 』

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