相談:いつも同じ子どもたちが発言しているので、全員を発表させたい(小5)
楽しく子どもに力をつける国語の授業を実践して50年、今も現役教員の卯月啓子です。
現場の先生から受けた、質問・相談をご紹介します。
お悩み内容
小5担任の10年目の男の先生からの相談です。
卯月啓子の答え
いい質問ですね。
物語文の指導の仕方もある程度身についてきて、ようやくクラス全員の子の状況に目を配ることができたのですね。先生の日ごろの研鑽とご努力のたまものです。
この段階まで来たら、もう一段、先生の技量のレベルアップを目指しましょう。一言で言うと、[どのように教えるか How to teach」から、「子ども観察 kids watching」へということです。言い換えると、「教師主導の授業」から「児童主体の学習」へ舵をきることです。
一見、生徒が活発に発言している授業でも、一人ひとりの考えを引き出せていない場合がある
読解の授業では、教師の正解と思われる解釈に沿うような答えが求められ、その中で発言の方向が決められています。教師の意図した内容を発言する子どもが多いほど「いい授業」になると思っていませんか。
私はよく講師の立場で、授業参観しますが、活発なクラスでも必ず10%前後の子どもが黙って座っています。授業妨害するでもなく、静かに姿勢よく話を聞き、板書もきちんと写します。この子たちは授業の邪魔になりません。私はこういう子どもたちを「サイレントチルドレン」と呼んで、言語能力を伸ばされていない子どもと思っています。
誰もが話したり聞いたりすることが和やかにできる学級の雰囲気の中で、正解を求めるのではなく、子どもの多様な意見を引き出すことができる教師であれば、相談者の求める真の「いい授業」になります
「サイレントチルドレン」の心の内を探りながら、全員を発言させるためにはどうしたらよいか、その子たちの言語能力を伸ばす授業とは何かを考えてみましょう。
今回ご紹介する指導のテクニックはこちらです!
【テクニック】挙手させない。順番に全員指名して発言のチャンスを与える。
挙手して発言するという、一見当たり前のことですが、この方法は平等という観点からみると、全く不平等です。
声掛けの例
「前から順番に答えてもらいます。」
・全員に平等に考えてもらうために順番に(私は前から順番に指名していくことが多いです。)指名していきます。問題に対して我勝ちに答えさせるのではなく、順番ですから、みんなじっくりとあわてずに考えて答えることができます。
ある子は、「先生が順番に指してくれるから、まわってくるのが嬉しい。みんなの前で言えたので大きな自信をもてた」と言いました。自分の番を楽しみにしていて、意見が認められることで自信がつくようでした。
また、いつも発言する子は、友だちの発言を聞いて答えるという「待つこと」の大事さを学びます。
【テクニック】「聞こえませーん」は言わせない。
サイレントチルドレンは発言することも考えることも長年してこなかった子が多いので、声のかぼそい子がいます。自信もないので小さい声でとぎれとぎれに言う子もいます。
そんな時に、「聞こえませーん、もう少し大きい声で言ってください」などの茶々を入れさせたり「ほかに。わかる人」などの無視をするとかしてはいけません。せっかく話し出した勇気がなえてしまいます。
声掛けの例
「よく聞いて。〇〇さんが話していますよ。」
「聞こえた人はえらいです。」
・声が小さい子には、先生がその子のそばに行って、目を見ながら勇気づけます。一言でも言ったら、大声でその子の言ったことを皆に聞かせましょう。そして、さりげなく「よく言えたね」とその子をほめましょう。そうすると、少しだけ話すことに嫌がらなくなってきます。
その子の声がかぼそくても、答えが拙くても、他の子たちにも、その子の声や言葉を聞き慣れさせましょう。挙手しないからと言って、何も考えていないことはありません。言葉が整わない子には、先生が補足したりまとめたりしましょう。
【テクニック】「同じです」は言わせない。
「サイレントチルドレン」は、発言することも考えることも長年してこなかった子が多いので、発言を求められると「同じです」と言ってその場をやり過ごすことを覚えてしまっています。そこで、先生は引き下がってはいけません。子どもの思考方法へゆさぶりをかけなければいけません。
声掛けの例
・「何が同じですか」
「同じであってもあなたの言葉で言ってください。」
・問い返された子どもはびっくりします。今までは「同じです」で全てその場を回避していたのに、先生が再度迫ってきたのですから。考えざるをえなくなります。
そうすると、ぼそぼそでも何とか答えます。先生はその言葉をつぎはぎしながら整えていきましょう。そうすると「あれ、あなたの言っていることは同じではないよ。いい意見だね。」などということも起こります。
【テクニック】「考え中です」には、時間をおいて再度問い直す。
「考え中です」と言うと、たいていは「考えておいてね」と言って、先生はスルーしてくれます。やり過ごすことができます。そのうちに他の子どもたちが活発に話してくれると、「考え中」だった子どもには全くおとがめはありませんし、無事に時間が過ぎてくれます。
声掛けの例
・「また聞くからね。考えておいてね」
「時間がたったので、また聞きに来ましたよ」
・必ず先生は戻って発言を促します。実際に、戻って発言を促したとき、ある子は「ホントにきた」と言って困った顔をしましたが、観念したのか考え出して話し始めました。
「先生はわたしのことを放っておかない」というメッセージを受け取ります。その子は次の質問にはきちんと答えました。
そして、学級全員の子が、先生はみんなに考えさせるんだということがわかって、質問をパスする子はいなくなりました。
【テクニック】間違っても否定しない。
物語文の読解は正解は一つではありません。先生が「こう答えてほしい」という正答だと思われるものに固執すると、子どもの考えは固定されてしまいます。
声掛けの例
・「あなたはそう思ったんだね。考えたことがえらい。」
「思っていることが言えたのはすばらしい。」
「どこからそう思ったの?」
・ただし、明らかに意味が違うものは間違いです。例えば文中に「牛」と書いてあったら「牛」なのです。それを「馬」と読み間違えるのはいけません。それは正していきます。
多様な意見が出る豊かな読みにするには、「牛」を「どんな牛か」と問うことで、色、大きさ、乳牛か、働き牛かなど、いろいろ考え想像させることができます。
※YouTube「卯月啓子の国語教室チャンネル」には読解授業の指導方法をたくさんのせています。よろしかったらご覧ください。https://www.youtube.com/channel/UCDa1NCCEET8NkQ1ZxdFbARA
【結果】読解授業のやり方を変えて、挙手ではなく指名するようにしたら、今まで全く声を出さなかった子どもが話し出した!教室の雰囲気がよくなった。
相談者の先生より、授業がどう変わったか感想をいただきました。
読解授業では挙手させないことにした。自分の指導方法を全く変えることは大変だったが、全員を順番に指名して、登場人物の行動から推理していく方法に変えていったら、全員が発言をするようになった。何より落ち着いた雰囲気のある授業になった。今まで、挙手して活発に発言をしていた子も、ほかの子の発言を待てるようになった。
「待っている時間は退屈ではなくて、よく考えるようになった、みんなの考えを聞いて、直した」という子もいて、じっくり考えるクラスになったと感じた。
私自身が正解が一つだと思っていたから、黙っている子たちの考えを聞き出すことは、じれて待てなかったんだと分かった。今では読解の授業は、正解を一つにまとめ上げることが授業ではなく、子どもたち一人一人の多様な意見を引き出すことが教師の役目だと分かった。
全員が話し出して一体感が出てきた。主体的に授業に参加する子になった。
一番嬉しかったのは、学級のみんなも声を聞いたことがないという男の子が発言したことだ。「初めて声をきいた」という子も何人もいて、私もびっくりした。そういう子を放っていた今までの自分の学級経営を反省した。
終わりに
挙手をしなければ発言できないクラスにするのではなく、順番に指名して話させるという方法は、子どもたち全員に目を配る授業の第一歩になります。
どんな子も発言したいのです。発言するためにはその子たちの今の状況をよく見極めて教師のきめ細かな支援が必要になってきます。
よく考えたな、よく発言したな、という子どもにしていってください。
今回お伝えしたテクニックは、他の教科の授業でも取り入れやすいと思いますので、ぜひ、試してみてください!