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相談:子どもたちの発表の声が小さいと指導された。どうしたら全員が大きな声で発言できるようになるか。(小2)

楽しく子どもに力をつける国語の授業を実践して50年、
今も現役教員の卯月啓子です。

今回は、小2担任の新採用の男の先生からの相談をご紹介します。


お悩み内容

道徳の授業で悩む先生

道徳の公開授業をしました。自分がしゃべりすぎたり、考えさせるポイントを逃したり、板書にうまくまとめられなかったりといろいろ稚拙なところががあり、反省しきりです。ただ、子どもたちはよく発言し、最後まで飽きずにのってきたなと感じていました。

たくさんご指導をいただいた中、子どもたちの声が聞こえず、話しあいになっていないという指摘があり、「いい授業の形」にするために、

・誰かが発表したら「同じでーす」などの同意を大きな声で出させる
・声が小さい子には前に出して皆の前で発表させる
・「声のものさし」を意識させて、皆の前で届く声で言わせる

などの指導が必要、と言われました。

自分は全員をなるべく指名して発表させています。
しかし、何人かの子しかはっきり大きい声で発言しないので気にはなっていました。一部の子が大きな声で発表し、他の子どもがコーラスのように答えていくのは、どうも機械的で軍隊のようで好きではないのですが、低学年ではそういう授業ばかりあるように見受けられます。しかし、それが「いい授業の形」なのか疑問があります。

子どもたちが全員、大きな声で発表し、活発に話し合えるクラスにするにはどうしたらよいですか。


卯月啓子の答え

参会者には届かなかった(?)小さな声でも、子ども同士には聞こえていたのかもしれませんし、または、小さな声で発言した子に対しての教師のサポートがよいので、全員に発言内容が理解できたのかもしれません。何はともあれ、子どもたちが飽きずに授業に参加できていたことはとても良いことです!👏😀

「声の大きさを教える」のは軍隊式の訓練ではありません。自分から口を開いていき、気軽に声を出す中で、自分から声の大きさの塩梅を感じ取らせていくことが大事なのだと思います。子どもは、ちょうどいい大きさの声を出す経験がまだまだ少ないためです。

ただ、場面緘黙のお子さんや声を出せないお子さんも教室にはいます。単に声が大きければ良いと思い込んでいる学級になってしまうと、そういう子どもたちは息苦しくなってさらに黙ってしまいます。

私が若いころ、倉澤栄吉先生(日本国語教育学会名誉会長)から
「声が小さい子がいたら、学級全員で聞き取ろうとする態度が大事なんだよ。大きい声にしろなんて決して言ってはいけない。その子の心が傷つく。」
というようなことを教えてもらいました。
声の大きさはその人の心と大きく関わっていると知りました。
あだやおろそかに「声を大きく出しなさい。」と言ってはいけないのです。

それでも私は、場に応じたり人数に応じた適度な声の大きさの出し方を教えていきたいと思いました。発表や音読などあらゆる場面で声を出す機会が多いのですから、自分の考えや意見が相手によく伝わるようにさせたいと思います。

では、声が小さい子でも傷つかず、適度な声の大きさを出せるクラスにするにはどうしたらよいでしょうか?
今回は、下記の2つの指導テクニックをお伝えします!

【テクニック1】声を出したくなる場を作る。

声を自然に出させるための場を作ります。そのためには遊びの要素を取り入れたゲームにします。ここでは「声のキャッチボール」をご紹介します。
また、広さも必要です。子どもたちが自然に、自分からちょうどいいと感じた声を出させようとするためには、教室の広さでは足りません。校庭に連れ出しましょう。校庭で声が通れば、教室でも無理なく声が通るようになります。

声掛けの例
  「声のキャッチボールをします。」
  「呼ばれたらすぐ返事をして、すぐ相手の子の名前を言います。」
校庭で「声のキャッチボール」をさせました。子どもたちを向こう側とこちら側の二組に分け、それぞれ相手の組の子どものカードを無作為にひかせて持たせ、引いたカードの名前を言わせました。

最初は3メートルくらい離して始めます。「〇〇さーん。」と呼ぶと、言われた子はすぐに、「はーい。」と返事して、今度は自分のカードにあるこちらの組の子の名前を「▽▽さーん。」と呼び返すのです。どの子から自分の名前を呼ばれるかわかりません。呼ばれたらすぐ相手の子の名前を呼ばなくてはならないのです。男の子も女の子も関係ありません。照れたり、声が小さかったりしたりするとすぐストップしてしまいます。ゲーム的要素を含んでいるせいか、思いのほか、子どもたちは大喜びして、一通り終わっても「もう一回、もう一回」とせがんできました。

5メートル、10メートル、15メートル、20メートルと離し、呼ぶ相手もその都度組み合わせを変えてやりました。いつもは声の小さな女の子も、はにかみながらも距離が離れるにつれて声が通るようになってきました。

【テクニック2】ポイントゲームにする。

次は、授業の中に「声の大きさゲーム」と「聞く力ゲーム」を取り入れます。普通の授業で、全員を発言させる中で、このゲームをやっていきます。つまり、いつもの授業の発言を、声の大きさと聞く力を目的にしただけです。ポイントをつけるのは教師です。教師は本来の授業内容と同時に、声の指導をするというわけです。

声掛けの例
  「声の大きさゲームと、聞く力ゲームをします。」
  「みんなに聞こえたらポイント高いです。」
  「友だちの話をよく聞いたらポイント高いです。」
 

最初から声の大きい子にはそのままいいポイントをつけます。声が小さくてもよく聞いている子にもいいポイントをつけます。教師の主観でつけます。教師は教室の隅に行ってその子の声が聞こえるか判断します。その子の様子によってポイントをつけます。
一つのポイントだけだと、できない子にプレッシャーがかかりますが、「大きな声で話す力」と「聞く力」を伸ばすという2つの観点をポイントにすると、子どもはそれほど嫌にならずにおもしろがってくれます。ポイントを加算しながら、授業をすすめていきます。
欠点を目立たせるのではなく、できているところをとっかかりにしてへこんでいるところを上げていくという考え方です。

ただし、このポイントを表にしていくのはだめです。ポイントは心の内にあり、表にするなどは絶対しないでください。
子どもが一人一人、あのくらいの声を出せばみんなに聞こえるんだということが体感できればいいのです。声が通りやすくなれば聞こえてくるものです。

ある子は、授業中に、声の大きさが劇的に上がりました。授業後、「今日は大きい声になったね。みんなによく聞こえたよ。」と褒めたら「今、自分のポイントはいくつか数えていたんだ。だんだんポイントが上がってきたからもっとポイント上げるようにがんばったんだ。」とうれしそうに言いました。


相談者の感想

悩んでいた先生から、テクニックを実践して子どもたちがどう変わったか感想をいただきました。

【結果】
校庭で「声のキャッチボール」をやったら、いつもはよく聞こえない子の声が通るようになってきました。聞きやすい声になってきました。

それに、びっくりしたのは、いつも大きい声というよりどなるように話していた子が、教室の中は普通の声で話すようになったことです。ちょうどよい声の大きさが分かってきたようです。

教室では、ポイント制にしてときどき授業してるんですが、みんな話をよく聞けるようになってきました。自分の意見や考えを話すことになると、声が小さくなってしまう子もいますが、前よりは聞きやすい音量になってきました。

終わりに

声は人間の心の内を即時に映し出します。声を出させる学習ほど子どもたちに恥をかかせやすいものです。よほど配慮しないと、子ども同士で優劣をはっきり意識してしまいます。ともすれば、管理して強制的にしなければ声を出させられないと思い込みがちな「話すことの学習」を、子どもたちの意欲によって向上させられることができるのです。一律に到達点を決めて、読み方も声の大きさもおなじようなおもしろみのないものになってしまったら、それは動物を調教するのと何ら変わりません。

その子なりの声の大きさと調子で、子どもたちの個性のままに一人一人が伸びるようにしていきます。発表が上手な子はさらに伸ばし、そうでない子もそれなりに精一杯力を発揮するような和やかで生気あふれる教室にしていくことが「いい授業の形」の結果でありスタートだと思います。

今回お伝えしたテクニックは、授業の前にウオーミングアップとして、全員が発言できるようなお題を出していくのもいいかもしれません。朝の会や学活の時間に取り入れてもいいです。ぜひ、試してみてください!

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