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何はさておきアセスメント!


子どもが大変!クラスが大変!さてどうしよう?

中学校教員時代にこんな生徒がいました.

友達からの注意や教員からの指導にカッとなって暴言・暴力.いわゆる”瞬間湯沸かし器”状態で,思い通りにならないと急にキレるんです.ある時は,急に雷が鳴り出して楽しみにしていた水泳ができなくなって大暴れ!なんてこともありました.

いったん怒り出すと自分ではコントロールできないので,いきなり怒鳴り出したり殴りかかったり…ステンレスの水筒で友達を殴ってしまったこともありました.

他の生徒に危害を加えたり教員に対して反抗的で暴力も見られるとなるとなんとかしないといけません.中学校は特にこのような生徒には厳しいもので,別室指導や自宅謹慎,反省文などの指導が行われました.

さて,それで状況は改善したのでしょうか?

厳しい指導を行えばいったんは暴言・暴力は治りました.ただ,ほとぼりが覚めれば同じような問題行動は復活,また同様の指導,また問題行動…その繰り返しでした.

この生徒も中学校3年間が終われば卒業し,社会に出ていきます.このままこの生徒の抱える課題が改善されないままだと大変なことになります.高校では停学や退学になるかもしれません.大人になれば犯罪に至り逮捕…人生が無茶苦茶になってしまうかもしれません.

学校の役割は,このような子どもも含め全ての子どもの成長・発達を支え,社会における自己の活かし方を理解し自己や他者の幸せを創造することができる「自立した大人」を育てること,子どもの「自己実現」を目指すことです.

「社会に出れば厳しい措置があるから」と言って,中学校において同様の指導を行うことがこの生徒の課題を解決することになるのでしょうか?少なくともこの生徒に関してはそうではありませんでした.そして,今似たような問題行動を起こしてしまっている多くの児童生徒においても同様のことがいえるのではないでしょうか?

さて,それではどうすればいいのでしょうか??

まずは…「何はさておきアセスメント!」です.

適切な支援を行い児童生徒の課題を改善するためには,問題行動の背景にある子どもの抱える課題は何か?つまり,”なぜ,このような問題行動を起こしてしまうのか?”という原因を明らかにすることが求められます.

頭が痛い,お腹の調子が良くない,休養したり薬を飲んだりしてもいまいち改善しない…となればあなたならどうしますか?たぶん病院に行って医者に診てもらうのではないでしょうか?つまり,なぜ体調不良の状態にあるのかを「診断」してもらうでしょう?

アセスメントは,この医者の行う診断のようなものです.もちろん医者でも専門家でもないので「100%こうだ!」と言い切れるものではありませんが,問題状況の背景理解や適切な支援を進めるための「仮説」を立てることにはなります.

冒頭の中学生は,ASDの診断があり,その発達の課題から認知の偏り,感情表現の困難さが見られること,母子関係の希薄さから愛着的な課題が考えれることが問題行動の背景にあると見立てました.

また,そうは言っても委員会や係などの仕事には積極的であること,そのように人の役に立つことをしたい,注目を集めたいという欲求は強いなどの強みがあることが支援の手がかりになりました.

このようなアセスメントによる「仮説」をもとに,丁寧な個別面談を通じてスモールステップの目標を一つ一つ達成していく支援(達成に対するポジティブな関わりで愛着の穴を埋める),感情理解や感情表現の個別トレーニングをサポートといった支援を進めていきました.

この生徒に対するアセスメント(仮説)は概ね正しかったようで,行った支援も効果的で本人の成長を促進することとなり,暴言・暴力などの問題行動はほとんどなくなり,行事での役割を担い学級・学年に貢献する姿が見られました.

アセスメントってどうするの?

問題状況の背景【ニーズ】は何か?

まずは問題状況の背景,すなわち子どもの成長・発達のために満たすべき課題であるニーズを明らかにすることが肝心です.

それは,発達障害などの特性(診断の有無に関係なく)や家庭環境による愛着的な課題,スキルや学力の未発達という社会的な課題などが考えられます.

個別の子どもについて話し合うケース会議において,「授業中に立ち歩いて指導に従わない」「友達への暴力があり困っている」など”大変さ”ばかりが語られることはよくあります.

大切なのは,”なぜそのような問題行動をしてしまうのか”を理解することなのです.

改善の手がかり【リソース】は何か?

問題状況にあり様々な問題行動が見られる子どもがいると,その大変さや課題にばかり目がいきます.でも,そんな子どもでもどんな子どもでも良いところも必ずあるものです.

そんな子どもの持つ”強み”は,支援を進めるための手がかりとなり得るもので,そのような「リソース」を探し出すこともアセスメントにおいては重要です.

リソースには内部リソースと外部リソースがあります.

内部リソースとは,「数学が得意」「年下の子の面倒を見るのが上手い」などといった本人が持つ強みや得意なことなどです。

外部リソースは,「趣味の合う友達がいる」「優しいおばあちゃんといると安心できる」「担任の先生が好き」などの本人の周りにある資源を指します.

このようなリソースはよく探せばたくさんあるし必ずや成長・発達の支援に役立つものとなるので,ぜひ積極的に掘り出していきたいものです.

支援の目的【ゴール】の設定

アセスメントは何のためにするのか?

それは当然,具体的な支援を進めるためです.そして支援は当てもなくとりあえずやるものではなく,どこを目指すのか,支援の目的「ゴール」を定めて進めることが必要です.

ゴールと言っても,「みんなと同じようにできること」「ルールを守って行動すること」と言った学校の都合,大人の都合から来る”願い”の押し付けではダメです!

ここでいうゴールとは,子どもの成長・発達のためにニーズを埋めることです.学力のなさが問題行動の背景ならば学力に対する自信を持てるようにすること,発達的な課題から感情コントロールが難しいなら感情表現力の向上などのように考えます.

具体的に誰が何を?【支援策】の決定

さて,支援の目的「ゴール」が決まれば,最後は誰がいつ何をするのかという具体的な支援策を決定します.

ここでヒントになるのが,子どものもつリソースです.

その子どもに好きな先生がいるなら,その先生と一緒に楽しみながら学習に取り組むことで,学習に対する自信やモチベーションを高めることができるかもしれません.

運動が得意な子どもなら,スポーツ大会などその子が活躍できる場面を通じて,自己肯定感や自己有用感の向上を促すことができるかもしれません.


以上のようなアセスメントは一人で行おうとすると行き詰まることもあるかもしれません.そのような場合は,関係者でチームを組んで話し合う「アセスメント会議」が有効です.

アセスメント会議を行うことによって,より正確で正解に近い子ども理解が可能となり,関係者がゴールと支援策を共有でき,効果的な支援,そして何より子どもの成長・発達を促進することができます.

このアセスメント会議の進め方については,また別の機会にお伝えします.

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