2-16 (引用)高校3年生の君たちへ
ドラマ「先に生まれただけの僕」の台詞より
クラスの子たちみんなに謝ります。僕は,この高校を改革するために校長として赴任してきました。でも。その改革プランにみんなは入っていません。卒業が近い3年生だから仕方がなかった。君たちの心を傷つけたのならば僕の失敗です。ホントにごめんなさい。
ただ敢えて言わせてもらいます。こんなこと社会に出れば普通にあります。社会では,人は公平に扱われません。必ずどこかで線引きされ、評価され、誰かが選ばれ誰かが落とされ,そうやってそれぞれの居場所が決まっていくんです。
●就職するあなたへ
社会に出たら理不尽なことが沢山転がっています。今,君たちは僕に腹立てているかもしれないけど,社会での理不尽なんてこんなもんじゃない。それは覚悟しておくべきです。もちろん、入った会社がブラックだったら、そんなのはすぐに辞めてもいい。次の仕事を見つけるのは大変かもしれないけど。でも,心を病んだり,命を落としたりするような職場だと思ったなら,さっさと逃げていいよ。でも,さっきも言ったように<理不尽なこと>は当たり前におきます。<理不尽な人>も沢山います。ちょっと嫌なことがあったからって,それだけで心が折れてしまっては,この先生きていけません。そんな時に,まさに「線引き」です。どういうときに頑張るのか,どういうときに逃げるのか。よく考えて,「線引き」してください。
●専門学校に進学するあなたへ
専門学校に進む人,自分の将来の事を今から決めて,そのための勉強を選択したことは素晴らしいと思います。でも,ここでもやっぱり現実の厳しさがあるんだ。専門学校で習うことは,どの業種もそうだと思うけど,基礎中の基礎。実際にその職場に行っても最初は何もできないと思います。その仕事で必要なスキルは現場で学んでいくんです。だから,「こんなはずじゃなかったー」なんて思っても,それは普通の事だと思ってください。仕事をしてお金をもらうということは簡単な事じゃないんです。
●大学に進学するあなたへ
大学に進学する人,この中のどれぐらいの人が勉強するために大学に進学するのか,まぁ僕はよくわかりません。でも,「大学を卒業した方が就職に有利だから」とか,「今は将来やることを決められてないから,とりあえず大学に進学して、それから考えよう」って人も沢山いると思います。
でも。でも,あえて言います。今のうちの高校のレベルで,まぁつまり,みんなのレベルで入れる大学は,決して就職に有利と言える学校ではありません。多くの企業は,大学のランクを採用のポイントに入れています。それが現実です。だからこそみんなは,「大卒」という肩書ではなくて1人の人間として,<人間力>で勝負しなければならないんです。
だから,大学4年間は絶対に無駄に過ごしてはいけません。まぁ僕の経験上から言うと,大学のいいところは自由が増えるところです。受けたい授業を自分で選択することができるし。毎朝決まった時間に「起立、礼」なんてのはありません。あとはー・・・ん・・・そう。まぁキャンパスで,1人でいても全然大丈夫。高校だったら、その付き合いが悪い奴と思われるかもしれないけど。大学だったら,誰も,なにも言いません。
でも,大学に入れば戸惑うこともあるかもしれません。例えば・・・例えば,政治学部に入ったら,どんな授業があると思う?どんな政治?例えば,18世紀のイギリス政治について勉強したりするわけさ。いやもう,これはもう,高校以上に「これ一体何の役に立つんだろう」って思うかもしれない。でも仕方ないんだ。大学は。専門的なことを勉強する場所なんだから。だから,受けたいと思う授業が有れば面白いかもしれないけど,そうでなければ,単位のために,卒業するだけのために頑張らなければならない。それが,大学という場所です。
でも,そこで勉強するのは学問だけではありません。僕が田舎から東京の大学に来て思った事は・・・「とにかく色んな奴がいる」っていうことなんです。まぁ同じ学年にも、まぁ上にも下にも。色んな人間が沢山いました。そんな奴らと、とにかく話したりするわけさ。んー,教室とか,サークルの部室とか居酒屋とか。真面目な話からどうでもいい話まで。とにかく,熱く,議論を沢山しました。そうすることで自分の視野が広がっていくんです。君たちは,そんな体験することですごく成長できると思うよ?
今回,みんなに指摘されて僕は問題に気付くことができました。やっぱり,人しては正面からぶつからないとならない。黙ってないで,行動を起こさなければならない。そういうことを,みんなは僕に思い出させてくれました。大学に行くみんなは「これからの4年間がこの先の人生を決める」,くらいに思っていなければなりません。
●君たちが語るべきこと
僕たち企業の人間から見るとダメな奴はすぐわかっちゃう。(校長先生は企業から出向で来ている,という設定)どんなに自己アピールしてもどんなに話盛っても,嘘は,すぐ見抜かれてしまいます。だから,そういった場所で君たちが語るべきことは,「実際に自分たちが体験したこと」や,「自分たちが感動したこと,感じたこと」。そういったことでなくてはなりません。
君たちはまだ10代です。これから10年後,20年後,どうなるかなんてわかりません。もちろん,将来どうなりたいかもう決めていて,逆算して,それに向かう努力をして,実際にそうなれれば,それはそれでいいけど。
でも,もし今,将来の自分をイメージできていなかったとしても,それはそれで構いません。だって,10代の君たちが思いつく仕事なんか,たかが知れているのだから。
これからみんなは沢山の人に出会うと思います。色んな事を体験して,色んなことを考えていくでしょう。そうした中で,自分がどういう人間なのか分かっていき,自分にふさわしい仕事が見つかっていくと思います。そうしたなかで君たちの事を分かってくれる誰かが,「こっちきたらー」なんて誘ってくれることもあると思います。そうやって自分の仕事を見つけた大人は,沢山います。
思い通りの人生なんて,絶対にないよ。絶対に。人は壁にぶつかり,悩み考えることで自分を作り,その壁を乗り越えることで自信をもっていくんだ。
一番ダメなのは何もしないことです。何もしない奴にはチャンスはやってこない。サッカーだってそうだ。走っている奴にしかパスは回ってこない。
これからうちの高校は変わっていきます。でも,みなさん3年生も大事な生徒であることには変わりありません。これから卒業まで残り5か月。最後まで自分と向き合って。友達を大切にし,出来るなら,後輩たちを励まして。充実したと言い切れるような高校生活を過ごしてください。
●あとがき(引用してみて)
当時,高校3年生の担任だったボクは,リアルタイムでこのドラマを見て「この話紹介したい!」と思ってひたすら文字起こしをしました。けれど、櫻井くんと違うボクですから,ホームルームで急に読み上げても,10分も静かに話を聞いてくれるとは思えませんでした(泣)。ビビったボクは,生徒の誰かに読んでもらおうかとも思いましたが、読んでくれる子はいなくてこれまた失敗(笑)。紙だけ配って終了しました。
脚本の福田さんはどういう想いで書き上げたのか…。それは聞いてみないとわからないけれど、一般企業に就職して、転職して遠回りで教師になったボクだからこそ語れる言葉・引用できる言葉があると信じ、明日も教壇に立ちます(^0^)/