人生最後の食事に食べたいもの
「人生最後の日に何が食べたいですか?」
と、聞かれたら、
私は迷わず「母の握ったおにぎり」と答えます。
私は、母が握ったおにぎりは、世界一だと信じています。
小学生の頃、私の友だちからも母は、<おにぎり名人>と呼ばれていました。
娘たちが幼いころ、母のおにぎり弁当を持って、いろいろなところへ出かけました。
少し離れた大きな公園はもちろん、遠出をするときは必ず、母はおにぎりとお茶を持って来てくれました。
夫も、野球のボールくらい大きいおにぎりをひとりで7、8個はペロリと食べていました。
夫が言うには、おにぎりを握るときの力かげんと、おにぎりの厚みが大事なんだそうです。
頬張るときに、薄すぎても分厚すぎてもだめで、口を開けたときにちょうどいい厚みであることが味にも影響するのだとか。
ご飯が固まりすぎてもいけないし、ばらばらな感じでもダメ。
おにぎりって、奥が深い!
母の握り方の力かげんと厚みは絶妙なんだそうです。
私も真似して握ってみるのですが、どうしても塩かげんがうまくいきません。
どうして、母は、塩辛くなったり薄くなり過ぎたりしないのか、不思議です。
何年も握り続けていて、計らなくても、勘でぴったりの量が分かるのでしょう。
子どものころ、母がおにぎりを握っているところを見るのが好きでした。
見ているだけで、幸せな気持ちになるのです。
手に塩を付け、ご飯の真ん中に具を入れ、素早く握って海苔を巻きつける。
手際がよく、どんどんおにぎりができていきます。
まるで、職人技。
ふと気が付くと、母の手が真っ赤になっています。
「お母さん、熱くないの?」と、私は聞きました。
「大丈夫。熱々のご飯で握ると美味しいのよ。」と母は言いました。
自分の手が熱くても、美味しいおにぎりになるようにと思う母の愛が、おにぎりと一緒に握られていたのだと思います。
母のおにぎりは、三角形。
具はうめぼしで、海苔でしっかりくるんであります。
ご飯に張り付いた海苔がしっとりしているところが美味しいんです。
だから、海苔が別になっているコンビニおにぎりは、しっくりこないし、おにぎりではなく別物という感じです。
と言う以前に、おにぎりをコンビニで買うこと自体、ほとんどありません。
<母のおにぎり弁当>のおかずは卵焼き。
しゃけ。
牛肉としらたきの甘辛煮。
ほうれんそうの胡麻和え。
今思い出しても、生唾が出てきそうです。
私の娘たちにとって、<母のおにぎり>に値するようなものってあるかな?
そう考えると、自信がありません。
聞いてみたい気もするけど、
「ええ~ 何かなあ?」
と、答えがなかなか出てこなかったらショックなので、あえて聞くのはやめておこうと思います。 (笑)
東京で働くようになって、いろいろ美味しいものも食べました。
それなりに高級なレストランにも行ってみました。
でも、母のおにぎりを超えるものはありません。
やっぱり、人生最後に食べたいものは、<母のおにぎり>です。
最近食べていないなあ。
いつまでも元気で、私の大好きなおにぎりを握ってほしいです。
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