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秋晴れの空に

お金に余裕がない大学生にとって、「贅沢なディナー」とはすなわち「ガストの唐揚げ定食」を指す。僕は普段自炊しているし、外食するならたいていサイゼかマックになるけど、たまに背伸びしたくなる。そんな時にうってつけなのがガストだ。

ガストのいいところは、ドリンクバーを頼まなくてもスープが飲み放題なところと、客層がバラバラなところだ。もちろん店の場所によるとは思うけど、サイゼには高校生や大学生が多く、マックはファミリーが多いなど、店によって客層が偏るのは珍しくない。

僕が利用するガストは、高校が近くにあるせいか高校生の客もそれなりに多い。それに加えて僕みたいな大学生や、社会人や、おばあちゃんの謎集会などなど、幅広い年齢層の人が来る。




この前友人とガストに行った時は、横にサラリーマン、前に女子高生2人組、後ろにおばあちゃんというカオスな状況だった。僕はどちらかといえば周りをキョロキョロしない主義なのだが、友人は人間観察大好きマンなので、今回は彼に倣うことにした。

仕事終わりと思しきサラリーマンはビールだけ頼んで、分厚い本を読みながらちびちび飲んでいる。女子高生はクラスの男子の噂話をしながら山盛りポテトとピザ3枚を平らげていた。しかも、家に帰ると普通に夕飯が用意されているらしい。自分が高校生の頃も思ったけど、女子高生の食欲って無限だ。



後ろのおばあちゃんは(と言っても僕の背中側にいるので、向かいに座る友人が見た情報だけど)、白いノートを前にうんうん唸っているらしい。ひょっとして、小説か何かを書いているのかな。

最近僕も小説みたいなものを書こうとしているのだけど、やってみるととんでもなく難しい。アイディアとか筋書きはどんどん浮かんでくるのに、それを言葉にしようとすると、それこそうんうん唸る羽目になる。

小説とエッセイをあえて比較するなら、小説は白いキャンバスに自由に絵を描くこと、エッセイは写生に近い気がする。もちろんそれぞれ難しさがあり、それぞれの魅力があるわけだが、絵や文章に限らず0から1を生み出すのはとても難しい。そんな視点で著名な作家やミュージシャンの作品を眺めてみると、やっぱりすごい。

特に、子どもにも大人にも刺さる本を書くのは段違いに難しいと思う。そんな本を書く作家さんは、誰をイメージして言葉を紡いでいるのだろうか。最近はやたらマーケティングやらペルソナなんて言葉を聞くけど、一流の作家の手にかかればそんなものは関係ないとすら思える。




『せんはうたう』という本をご存知だろうか。小学生の頃、親が買ってきてくれた本なのだが、当時はよく理解できずにそのままどこかにやってしまった。

僕の実家には絵本がたくさんあった。母は昔から絵本好きで、当時まだ結婚していなかった僕の父と、毎月記念日に絵本を交換し合おうという試みをずっとやっていたそうだ。これが他人のエピソードなら微笑ましいのに、両親の実体験となるとちょっと恥ずかしい。結婚した後も両親は時折絵本を買っていて、『せんはうたう』も、そのうちの一冊だ。


もう内容もほとんど覚えていないけれど、毎年秋の空を見ているとふとあの本を思い出す。真っ青な絵の具で塗られたような夏の空とは違い、この時期は空の青さが柔らかい。実家の近所の歯医者の壁紙みたいな、そんな優しい空に『せんはうたう』は似合う。冬が始まらないうちに、また読んでみようかな。



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