デジタル弱者の私たち
『突然スマホが壊れたら...』
夏休み終盤に差し掛かった昨日スマホが壊れた。
朝起きたら、Appleのトレードマーク、りんご、の画面になっており、ボタンを押してもうんともすんとも言わない。りんごがびくともしない。
心臓バクバクで、まずはMacを開き、スマホの現状をネット検索してみる。
「スマホ りんご 画面変わらない」とか入力してみる。
もしかして「りんごループ」らしい。以前にiPhoneのそんなバグの状態がある事をネット記事か何かで読んだけど、突然自分がその状態に陥るとは。
機種変更でバックアップや復元はした事あるけど、どの状態でバックアップされているかもスマホがないから開いて確認できない。パソコンのiCloudである程度はスマホの中身を確認することができたが、まだどうなるか分からない。
その日は学生時代の友人とたまたまランチする約束の日だった。
スマホが壊れたら一番先に何すれば良いんだっけ?
携帯ショップの予約を取ろうとしたが、詳しくはお電話でお問い合わせ、となっている。
「電話がかけられないからネットで調べてるのに!」
そう思いながら、仕方なくネットで予約できる店舗を探して予約した。
それから、パソコンにあった連絡先から今日会う予定の友人にショートメッセージを送った。LINEが普及している現在では友人の電話番号からショートメッセージなんて送った事はほぼ無い。
とりあえず、待ち合わせの時間に絶対間に合うよう急いで出かける。すれ違ったらもう会うことは出来ない、そう思って心が焦る。
待ち合わせ場所には友人がまだ来ていなくて、どこにいるだろうと焦る。
数分後友人には会えたが、携帯のショートメッセージは届いていないという。そのため友人は私のスマホが壊れたことを知らなかった。私は現状を説明し、ほんの少しだけお茶して修理に向かうことにした。
ショップに着いて、スマホの症状を伝えると、修理か、直らなければ機種交換とのこと。しかもより詳しい修理スタッフのいる店舗に行ってほしいと言われる。
「それなら最初からその店舗だけ載せてくれよ!」
心の中でそう思ったが、しかしその店舗にはいずれ今の私では電話する事も出来なかったので、お店の電話を借りて修理スタッフの居る店舗を予約させてもらった(ありがたい)。
店を出て修理スタッフの居る店舗に移動。スマホの現状を説明、りんごループだろうと言われる。預かりで初期化するしか無いと言う。
代替え機種を借り、また4時間後に店舗に向かうことになった。それでも代替え機でやれる事はやりましょうと言われ、LINEを復元する事になった。
私は壊れた事でパニックになっていた。そのためLINEなど普段使用する連絡ツールのパスワードを忘れてなかなかログインできない。焦りすぎて憔悴する心。
そして正直、内心バクバクしていた。先ほどは電話番号からショートメッセージの連絡も友人に伝わらず、無意味だった。もしLINEが、元に戻らなかったら?
色んな人と連絡が取れなくなる。
「あー終わったな」
冷静に考えれば元に戻せる方法はあるのかも知れないが、今の私はパニック状態だ。
この世の終わりだ!全て終わりだ!自暴自棄に近い、そんな思いで泣きそうになりながら歩く。スマホで音楽を聴きながら歩く人、通話しながら歩く人を横目に益々悔しさが増し(普段自分が当たり前にやっている事を!)汗だくでふらふらと歩き続ける。
帰り道は水分補給のため、飲料を購入したドラッグストアで「ポイントカードはありますか?お支払い方法は?」と聞かれ、全てスマホで、やりくりしていた私は「スマホが壊れて(ポイントカードを)開け無いので結構です」と断りを入れた。
そんなやりとりが更に気分を落ち込ませる。ポイントカードの現物を減らすため、近頃全てスマホアプリのポイントカードにほぼ切り替えたばかりなのに、やっとスマホアプリのバーコード決済などを使い始めたのに!
怒りに似た悔しさ、焦りが、この世の終わりに近い感覚に追い打ちをかけた。
自宅に一時帰宅。外の気温は35度程。猛暑日も良いところ。汗だくになり帰宅。娘の食事の支度をして代替え機種とパソコンでLINEを元に戻せるか試してみた。
なんとかLINEは戻せた!さっき会った友人や家族に一旦連絡を入れた。心が少し回復。それからまた携帯ショップに向かう。また汗だく。
結局、携帯電話は初期化したが直った。
私は三組ほど、ご高齢の方の「スマートフォン講座」を見送った。
テーマは「スマートフォンのバックアップ」について。まさに自分の陥った状況。日頃からバックアップする事は大切です、いざという時のためパスワードはきちんと管理しましょう。耳が痛くなる説明を講師の方々がお年寄りに説明していた。
昼間の暑さ和らぎ、夜間に差し掛かった頃、スマホの復元が終わった。
スタッフの方にお礼を言って店を後にする。耳にはAirPodsを装着し音楽をかける!
家族や友人に直った事をすぐに連絡した。
すると世界が変わり、心が軽くなる。弾んだ。
同時に思う。
「デジタルデトックス?!嘘つけこのやろー」
『デジタルデトックスとは、一定期間スマートフォンやパソコンなどのデジタルデバイスとの距離を置くことでストレスを軽減し、現実世界でのコミュニケーションや、自然とのつながりにフォーカスする取り組みです』等々、近頃の社会の傾向を思い出してみる。
嘘つけ、デジタルがなければ何も出来ないじゃないか!
だいぶ前からSNSから足を洗った私はすっかりデジタルから距離を置けている気になっていた。
が、結局、スマホが無ければ、電話もかけれない、ポイントカードも、決済もすぐ出来ない、友人知人に連絡も取れない、検索も出来ない、音楽も聴けない、無防備で、そして世の中に取り残されたような気分の人間がいるだけだ。
ストレス緩和のためメディアから距離をおきましょう、なんて言ってるけど、全てデジタルにしてるのはこの社会じゃないか!
心の中で突っ込みを入れつつ「近頃、メディアから距離を置いてるの」なんて言ってた自分に嫌気がさした。
「おいおい、スマホがないと弱者だよ」
まるで無防備で、裸で世の中に放り出された気分だった、今日の自分を思い返す。
帰り道の自分は完全に人生の勝ち組のように思えた。スマホを使っている人たちみんなと乾杯したくなった。
同時に怖くもなる。スマホがないと生きられない世の中に。
そんな世の中で私たちは生きている。すれ違ったスマホを持つ人たちの顔に、スマホが無い昭和の時代を重ねるけど、全くピンとこない。デジタル弱者の私たち。デトックスなんて、デジタルが使えるから出来ることだ。本当のデトックスなんて出来ない。
たった一日スマホがないだけでデジタルが使えずに苦しかった時間を振り返る。そしてデジタルにより記録してみた。
(MacBook)