好きなものほど行動した方が良いよねってハナシ『きみの色』
感想
とにかく音が驚く程に良い。IMAX上映もされているくらいなので音に関しては相当拘っているのではないのだろうか、通常上映でこのレベルならIMAXだとどうなるか気になるところ。
では、肝心な中身について語っていこうと思う。悩みを抱えた少年少女が音楽を通じて解放されていくというストーリーには正直なところ目新しさはないのだが、中盤でダレることもなく上質な音と映像で心地よいテンポで展開されているように感じた。
また、彼らの悩みというのも家族に自主退学を伝えれていないことや、隠れて音楽活動をしていることを言い出せないでいるといったその全てが取り越し苦労で実際に打ち明けたらなんともなかったというものばかりである。この些細な問題を大きく感じてしまうキャラクター造形に繊細な10代の心情がうまく反映されていた。
山田尚子×バンド=傑作
今作のテーマの一つとしてバンドが挙げられるが、『ぼっち・ざ・ろっく!』『ガールズバンドクライ』といった作品が台頭しているなかで敢えてのバンドものというのは挑戦的というか、人気に便乗というか、テーマが同じ作品が同時期に生まれる偶然性というか中々興味深いところである。
しかし、アニメ好きならご存じだろうが山田尚子作品にはバンドがかなりの確率登場している。山田尚子の代表作である『けいおん!』はじめ、『たまこまーけっと』でもバンドが描かれていることから、『きみの色』でバンドをテーマにすることはなんら不自然なことではないのかもしれない。むしろこれまでの経験から山田尚子にとって高校生とバンドという組み合わせは十八番とすら思える。
バンドもののアニメはこれまでにも多くあったが今作のバンドには驚かされた。というのも従来のほとんどは王道ギターロックなバンドであったが今作のバンド ”しろねこ堂”はまさかのオルタナ、ポストロック、テクノであり、これまでのジャンルとは一線を画している。さらに、作中に登場する3曲にメンバー3人の特徴が反映されている。
・水金地火木土天アーメン
主人公トツ子のようにポップでリズミカルなテクノ調なナンバー。きみの美しいオーラを見た時の心の高鳴りや喜びを歌った曲であり、歌詞にトツ子、きみ、ルイの3人の名前が隠れているところにトツ子のメンバーを思う気持ちや彼女の優しさが反映されているように感じた。フックである「水金地火木土天アーメン」は中毒性が高くつい口ずさんでしまう。
・反省文〜善きもの美しきもの真実なるもの〜
ストレートなコードストロークのリフがメインのロックナンバー。きみの自分は他人に期待されるほど良い人間じゃないと思う感情や急に学校を自主退学するような内なる反抗性を表すかのような荒々しいギターサウンドが印象的。
一方で歌詞には自身の悩みや迷い、家族への感謝の気持ちが綴られており、きみの揺れ動きながらも強い意志のようなものも感じた。
・あるく
映画館で聞いて最も驚いたポストロックナンバー。まさかアニメでポストロックが演奏されるなんて予想だにしなかった。きみの美しい歌声に荘厳なピアノにメロディアスなテルミン、ギターのハウリングによる轟音で締め括られる構成は後の「水金地火木〜」のアップテンポな曲調をより引き立てる。
こんなん『けいおん!』やん!
今作はバンドものの作品なだけあって同監督の『けいおん!』と共通する点がいくつか見られた。
まずは先生のシスター日吉子。まさにさわ子先生である。母校で教師を務め、生徒を優しく見守りさりげない助け舟も出してくれる理想的な教師。彼女もかつてはトツ子達の様にバンドを組んでいたと言う学生時代もさわ子先生を彷彿させる。
次にレトロなラジカセである。『けいおん!』ではアイキャッチだけでなく多くのシーンで登場したことで記憶に残っている人も少なくないはず。今作においてもラジカセは重要なシーンに用いられ、もちろんバンドのレコーディングにも使用されていた。
最後にエンディングの文字で「see you」が『劇場版 けいおん!』の「おしまい」の文字と同じな点である。あの揺れる文字で一抹の懐かしさと寂しさを感じてしまった。
まとめ
悩める少年少女の繊細な心情を鮮やかな色彩と音楽で彩った最高のアニメーション映画であり、今年のアニメ映画のレベルが高すぎてランキングの順位付けにすでに頭を悩ませている今日この頃。
山田尚子作品を見たことのある人にとっては懐かしさだけでなく演出の手腕にピンとくるポイントがありながらも、入門としても最適な非常にバランスの取れた作品であるように感じた。
また、メインキャストのほとんどが俳優であるのだが演技も申し分なく違和感なく楽しめた。さらにその俳優たちが今まで観てきたインデペンデント映画やB級映画に出演していたこともあり、映画ディグを続けていて良かったと心から思えた。
どの作品の記事でも書いているかもしれないが、今作も間違いなく今年を代表するアニメ映画だと感じているのでアニメファンはもちろんそうでない人達も是非観てもらいたい。