NPO法人ルネスかごしま 代表ロングインタビュー
たにかつさん【プロフィール】
1977年生まれ。鹿児島県出身。東京大学 総合文化研究科・教養学部中退。前身の福祉団体を引き継ぐ形で、2017年に「NPO法人(特定非営利活動法人)ルネスかごしま」を立ち上げ、代表理事を務める。「相談者一人ひとりと一緒に考え、じりつを目指す」を活動の軸とし、不登校や引きこもりに悩む親子のサポート、生活困窮世帯への支援。誰でもいつでも、用があってもなくても集うことができる「ひだまりカフェ(かごしま市民福祉プラザ)」の運営などを行う。また、支援者育成のための「伴走型支援者養成講座」も定期的に開催し、支援の輪を広げている。自身も不登校やひきこもりの経験があり、自己や他者と向き合いながら、ある意味で自分の居場所づくりとしても活動を続けている。
〈年明け早々の取材依頼〉
「今年のバレンタインはチロルチョコをお願いしたけど、中のヌガーが苦手なことに気づいてね」
鹿児島市名山町にある「バカンス」と呼ばれている建物の2階で、バレンタイン生まれの、たにかつさんが穏やかに話しはじめた。
わたしが「じゃあ、スニッカーズもダメですね」と言うと
「そう。だから来年は、アルフォートをお願いしようかな」と返ってきた。「ああ、いいですね。クッキーがいいですよね」
取材は鹿児島市の「バカンス」で行われた。
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たにかつさんとの出会いは、2018年の夏。
鹿児島県の共生・協働センター ココラボで開催された「公開合同記者発表 プレゼンテーション天下一武道会」というイベントがきっかけだった。
鹿児島県内のNPO法人を中心とした地域活動や、社会活動を応援する場所として2018年に開設した ココラボが「プレゼンテーション能力を鍛える場」として、当時2ヶ月に1度のペースで開催していた。
たにかつさんはプレゼンターとして参加していて、その内容は様々な背景を持った人が訪れる「ひだまりカフェ」についてだった。
自身の経験を交えながら話す姿に(その怪しげな見た目とは裏腹に)誠実さを感じたのを覚えている。
そんなたにかつさんから「自分が代表を務めるNPOや、ひだまりカフェについて書いてほしい」と連絡をもらったのは、2020年の三ヶ日のこと。
年明け早々の仕事の依頼だった。
依頼文には「提灯記事のようなものではなく、かざりさんが感じたものを文章にしてもらえたら」と書かれていて、その言い回しが何だかとてもたにかつさんらしくて面白かった。
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たにかつさんの本名は、谷川 勝彦。
1977年、鹿児島県出身。2017年に前身の福祉団体を引き継ぐ形で【NPO法人(特定非営利活動法人)ルネスかごしま】を立ち上げ、代表理事を務めている。谷川 勝彦という名前だが、わたしは初めから「たにかつさん」と呼んでいる。そもそも「谷川さん」とか「勝彦さん」と呼ばれているところを見たことがないので、多分わたし以外の大勢も「たにかつさん」と呼んでいる。
「中学生の時、同学年に谷川が3人いてね。3人それぞれ呼び名がバラバラで、1人は谷川さん。もう1人は下の名前。その中で何故か自分は、たにかつと呼ばれていて」
取材に入る前に、たにかつさんが自身のニックネームについて教えてくれた。何気なく使っていた呼び名が、想像以上に長く使われていることに驚いた。
〈二の足を踏んでいる人に、届けたい〉
ー取材に入っていく前に、そもそも取材を依頼しようと思った背景から伺ってもいいですか?
わかりました。
一番の目的は【ルネスかごしまやひだまりカフェに興味はあるものの、行くことに二の足を踏んでいる人】に読んでもらえるような記事を作ってほしくて依頼しました。自分で書くという選択肢もありましたが、それだとどうしても主観が入ってしまう。外から見てどんな風に見えるのか知りたくてお願いしました。
ー普段の情報発信では、どんな媒体を使っているのでしょうか?
月の頭に新聞に情報をだしています。それ以外だと、ルネスかごしまのFacebookページや、私個人のアカウントでも発信しています。
ー【ひだまりカフェ】は、ルネスかごしまが運営しているんですよね?
そうですね。かごしま市民福祉プラザの4階のスペースを利用して、毎週土日の10:30〜13:00に開催しています。
ーひだまりカフェとは、主にどういった場所なのでしょうか?
様々な面がありますが「福祉サービスを受けたいと思っているけれど、公の機関には相談しにくい」という人が訪れたり、悩みを打ち明けてくれたり。またそういった方に対して「来てくれてありがとう」「思いを話してくれてありがとう」と、私たちが感謝を伝える場でもあります。
ー利用の際の事前予約や参加費などは?
事前予約は必要ありませんし、参加費もいただいてません。そもそもひだまりカフェは、用があってもなくても集うことができる自由なスペースとして開放しています。
ー用があってもなくても…?
そうです。
ー具体的には、どんな人が訪れるのでしょうか…?
本当にあらゆる人が訪れますね。高校生ぐらいの子がゲームを持ってきて遊んだり、本を読んで過ごす人がいたり。元ホームレスの方が、お茶菓子を食べにくることもありますね。もちろん、具体的に相談したいことがある人も足を運びます。
ー1人で足を運ぶ人も多いですか?
多いです。
ーお話だけ伺うと、何だかカオスな場所ですね…。
話だけで想像するとそうかもしれませんが、実際はわりと穏やかですよ。運営者である私たちも、訪れる人との間に境界線を作らないようにしているので、過度にお客さん扱いすることもありません。
ー”過度にお客さん扱いしない”というと?
挨拶を交わしたり「お茶やコーヒーはいかがですか?」と声をかけるぐらいはしますが、それ以外は特にこちらから声をかけることはないですね。
ー福祉関係の相談所というと、隣の席と仕切りがあって、対面に座るような形でスタッフの方とお話をするものだと思っていました。
そういった形の相談所や施設もありますが、ルネスかごしまとしては【どんな人でも受け入れる】というスタンスを大切にしているので、あえて開放的な雰囲気を作っています。
ー”どんな人でも受け入れる”ですか…。
はい。そのために足を運ぶのが億劫になるような、募金箱のようなものもありません。極端に言ってしまえば、何も持たず、手ぶらで来てもらっても大丈夫なんです。
〈(わたしにとっては)とても謎な人〉
SNSで度々「ひだまりカフェ」という名前を目にしたことはあったが、具体的にどんな人が訪れるのか。どんな雰囲気なのかを知ったのは、この日の取材が初めてだった。
これまではプレゼンテーションイベントなどで、たにかつさんが話す内容でしか想像し得なかった、ひだまりカフェという場所。
取材では、想像だけでは理解が追いつかない、具体的なひだまりカフェの姿を探っていけたらと考えていたが、話を聞くほどに想像と乖離していく。
福祉関係の相談って、もっと重苦しい空気の中でするものじゃないのか…?
そもそも用もないのに行っていいって、どういうことだ…?
ひだまりカフェが行われるかごしま市民福祉プラザ4Fボランティアセンターにて
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たにかつさんを一目でも見たことがある人なら、きっとウンウンと頷いてくれると思うのだが、あの人はとても謎…ではないだろうか。
顔を合わせて言葉を交わす度に、掴みどころのない部分が増えていく、不思議な存在ではないだろうか。
よくよく考えてみると、そんな(わたしにとって)不思議なたにかつさんが運営している「ひだまりカフェ」が、わたしの想像と違っているのは当たり前。
もしかしたら、これを読んでくれている貴方も、正直、今の段階では読むほどにわからなくなっているのではないだろうか。混乱していないだろうか。
しかし、ご安心を。
本記事はそんな謎が多いたにかつさんからの【ルネスかごしまやひだまりカフェに興味はあるものの、行くことに二の足を踏んでいる人に読んでもらえるような記事を作ってほしい】という依頼を元に作られている。
更にわたしの仕事は、話すほどにわからなくなる不思議さと、掴みどころのなさゆえに大きくなっていく興味深さを、言葉を使ってできる限りわかりやすく形にすることである。
この後も質問と相槌を重ね、少しずつ【ルネスかごしま】や【ひだまりカフェ】の輪郭を探っていく。
よかったら、ぜひ続きもご覧ください。
ただ今の段階でも言えることは、どんな人でも。
用があってもなくても【ルネスかごしまは、受け入れてくれる】ということだ。
〈一番大切なのは「2回目に来てもらうこと」〉
ーどんな人でも受け入れるということですが、ここからはあえて焦点を絞って「相談をしたいと考えている場合」のひだまりカフェについて、伺っていこうと思います。
はい。よろしくお願いします。
ー以前拝見したプレゼンテーションでは「ルネスかごしまやひだまりカフェには、様々な相談が寄せられる」と話されていましたが、例えばどんな相談なのか。相談を受ける中でたにかつさんが考えていることなど、お話しできる範囲で教えていただけますか?
そうですね…。例えば私自身も経験のある不登校やひきこもりについての相談だと、最近の親御さんは最初の1週間ぐらいは、様子見することが多い印象です。不登校と言っても全てが長期化するわけではなく、少し休んでから登校する子も多いので。
ー割合で言うと、どのくらいでしょうか?
半分くらいですね。半分は少し休んでから、また自分の足で学校に向かうようになります。親御さんが実際に相談に来られるのは、学校に行かなくなって2〜3週間ぐらい経ってから。ある程度時間が経つことで、親御さん自身が自分事として捉えるようになり、相談するケースが多いようです。
ー相談を受けるにあたって注意していることや、意識していることはありますか?
ひだまりカフェもそうですし、ルネスかごしまで開催している講座でもお伝えしていますが【こちらから質問はしません】
ー質問をしない…?
しないですね。私たちのように相談を受ける立場で質問をしないのは、珍しいみたいですが。
ーわたし自身が友人から相談を受けた時は、まずは情報を集めようと「いつから悩んでるの?」「どんなところが嫌なの?」「どんな人が関わっているの?」とアレコレ聞いてしまうのですが…。
友人関係のようにある程度の信頼関係があれば、質問をする/されることに対しての拒絶反応ってそこまでないでしょうが、単純に初対面の人に根掘り葉掘り、アレコレ質問されるのって嫌じゃないですか。
私たちと相談者の関係は、ほとんどが初対面から始まります。場合によっては、電話越しで関係が始まることもあります。
ー確かに。友人という親しい間柄だからこそ「ここまで聞いても大丈夫だろう」と思って質問していたような気がします。
関係性によって、聞かれても大丈夫なこと。聞かれたくないことは変わってきますよね。
ーそうですね。ということは、ある程度相談者と信頼関係が築けていたら、質問することもあるのでしょうか?
その場合も、基本的には質問はしないです。信頼関係というモノサシは目に見えないし、人それぞれ尺度も違いますから。
ーでは相談者と向き合う時は、どんなことを頭に浮かべているのでしょうか?
ルネスかごしまやひだまりカフェでは【目の前の人に対して、何ができるか】という視点を大切にしています。一緒に活動しているスタッフには【目の前のこの人は、何をしてほしいのかな】という問いを頭に浮かべながら、一人ひとりと向き合ってほしいと伝えています。
ー質問をしない理由や、目の前の人との向き合い方を重視している理由は何ですか?
ルネスかごしまやひだまりカフェを訪れる大体は、公の相談所(役所など)に既に足を運んでいます。そこでは年齢や家族構成をはじめとし、通院の有無や病歴など、割と踏み込んだ質問をされることが多々あります。それは公の機関が設けている制度の中で、どれに当てはまるか。どんな制度が利用できるかを判断するために必要な質問です。しかし悩みを持つ人々の問題は、一朝一夕で解決するものではありません。絡まった糸が解けるように少しずつ未来が見えてくるものです。
ー活用できる制度が見つかったり、お金だけでは解決できない問題も多いですよね。人の心は特に…。
そう。だからこそ私たちが最初に相談を受ける中で、一番大切なことは【2回目にきてもらうこと】なんですよ。1回目に嫌な質問をされると、次に足を運ぶのが億劫になりますよね。そうなると2回目がなくなってしまう。
ー最初にできてしまった溝を、後から埋めるのは難しいですよね。
そうです。「もう一度行ってみようかな」「話をしてみようかな」と思い出してもらった時に楽しい記憶だったら、2回目はあり得る。楽しくなくても、嫌なものでさえなかったら、次の可能性はありますよね。
でも1回目の印象が「嫌な質問をされたから行きたくない」と暗いものだと、2回目はなくなる。そういったことを避けるために、こちらから質問することはありません。
ーなるほど。でもこちらから質問をしないとなると、どうやってコミュニケーションを取るんでしょうか?問いがないということで、相手に興味がないように受け取られてしまいそうですけど…。
質問しなくても、誠実に向き合い続けていると信頼関係は生まれます。こちらからアレコレ尋ねなくても、相談者にとって必要なことであれば、少しずつ話してくれることも多いです。中には最初の出会いから半年以上経って「実は…」と打ち明けてくれる方もいました。
〈本当に質問をしないのか?〉
「ちょっと、すみません」
取材の途中で、たにかつさんの携帯が鳴った。
電話の向こうの声は聞こえなかったが、問い合わせの電話のようだった。
少し意地悪かと思ったが、本当に質問をしないのか。
質問をせずに会話を続けるとは、どんな風にするのか。気になって、耳を澄ませてみた。
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数分間の電話。
たにかつさんは「福祉プラザや駐車場の場所はわかりますか?」と必要最低限の問いかけをするのみで、どんな相談なのか、現状は?など、踏み込んだ質問はしていなかった。
というか電話の途中、たにかつさんは、ほとんど口を開いていなかった。
静かに相槌を繰り返しながら、電話の向こうの人と向き合っているようだった。
〈目指している「支援のゴール」とは?〉
ー相談者の方と接する中で、たにかつさんが考える支援のゴールとは何ですか?
ひと言で表すと「じりつ」です。
ー仕事を見つける、とか、安定した生活を手に入れる、ではないんですね。
就労とかはゴールではないですね。私たちの願いは、相談者自身が【自分で自分の人生の方向性を決められるようになってほしい】です。
ー自分で決めるって簡単なようで、めちゃめちゃ難しくないですか?
そうですね。難しいと思います。
ー難しいけれど、そこが支援のゴールなんですね…。
相談に来てくれる人の中には「自分はこの先どうしたらいいですか?」「文句は言わないので、決めてください」と言う方もいらっしゃいます。私たちとしては依存し合うような関係は望んでいないので、そういった場合は突き放すこともあります。
ー突き放しちゃうんですか。
私たちはサポートはできても、決して答えを持っているわけではないですから。
ーそれはそうですけど…。
そこで何かしら答えのようなものを伝えて、相談者がその通りに行動したとして、うまいこといってしまったら、その人はもう自分の頭で考えなくなってしまうと思うんです。そうすると、私たちに依存してしまう。せっかくの出会いなのに、お互いが不幸になってしまうような関係は、避けたいじゃないですか。
ー自分の頭で考えられない時って、どんなことが原因にあるのでしょうか?
そうですね。本人に元気がなかったり、考えるための情報を持っていなかったり。または失敗したり、間違えたらどうしようという不安が、本人を押しつぶすほど膨らんでしまっていたり。
ーそういった場合、どんな風に声をかけますか?
安心してもらえるような言葉は伝えるようにしています。【失敗したり間違えたとしても、私たちがついてるよ】【あなたがどんな選択をしても否定はしないよ】と。依存し合うような関係は望んではいないけど、必要な場面では寄り添います。遠すぎず近付きすぎず、お互いにとって気持ち良い距離感で関わっていけるといいのでしょうね。
ー適度な距離感って大事ですよね。
とはいえ、結局は他人事ですけどね。
ー他人事というと…?
話を聞いて、サポートもするけど、結局は他人事。最終的には本人が、自分の力で生きていかなければならない。
ー”結局は他人事”というと、少し寂しい気もしますが…。
ルネスかごしまとしての支援のゴールは「本人のじりつ」なので、ある程度の寂しさは仕方ないのかもしれません。それも含めて、じりつだと捉えているのかも。
ー親離れや子離れなど、何かから巣立つ時は、ある種の寂しさを伴いますもんね…。
〈寅さんのような、両津勘吉のような〉
ールネスかごしまやひだまりカフェでは、たにかつさん自身はどんな風に振る舞っているのでしょうか?
【親戚のおじさんのような立ち位置】で振る舞うようにしています。男はつらいよの寅さんのような、こち亀の両津勘吉のような。見方によっては悪いお手本かもしれないけれど、ちょっと変わった存在が誰かの未来に繋がることって少なくないと思うんですよね。「あんなロクデナシでもいいんだ」と、ある意味悪いお手本として比較対象にしてもらえたらと思ってます。
ー良いも悪いも、両方見ないとわからないですもんね。
そうですね。何事も面白がるには、ある程度勉強が必要です。ここでの勉強とは「何かを知ること」自分が何を知っているのかは、物事を判断する時の指標にもなりますし。
ーさっきの話だと、たにかつさんはジャンクなお手本になるんでしょうか。
自分ではそう思っています。良いものだけでなくジャンクも見ないと、本質にはたどり着けないですから。
「小ボケを入れるのも仕事のうち」だそうだ
〈ルネスかごしまの未来像〉
ー最後にルネスかごしまやひだまりカフェの今後や、未来像についてお聞きしていきます。
はい。
ールネスかごしまの設立は、2017年でしたよね?
そうです。前身の団体を引き継ぐ形で、2017年の秋頃に設立しました。ひだまりカフェも、同じく2017年から始動しています。
ールネスかごしまとしても、ひだまりカフェとしても3年以上活動を続けていますが、周囲の反応などは?
少しずつ活動を積み上げていく中で、最近は講演依頼をいただくことも増えてきました。
ーたにかつさんが登壇している姿は何度か見たことがありますが、毎回すごく印象に残るというか、爪痕を残すのが上手ですよね。
自分ではそんなつもりはないんですけどね。
ー個人的には、あまり緊張しないんだろうなあ…という印象です。取材前の打ち合わせの際に、ルネスかごしまが開催している講座のチラシをいただきましたが、こちらについてもお聞きしてよろしいですか?
「伴走型支援者養成講座」ですね。
ー講座としての目的は、どこにあるのでしょうか?
講座としては、発達障がいや精神疾患、身体障がいや依存症、アダルトチルドレンなど、生きづらさを感じている人への支援を行う【伴走型支援者の養成】を目的としています。
ーどんな学びがあるのでしょうか?
数回に渡って、多面的に学びを深めていきます。まずは、生きづらさを感じている人の訴えをしっかり掴むための傾聴やカウンセリングの理論から始まります。そして、おうむ返し・要約・適切な声かけの手法。自己開示・自己決定・スーパービジョンの重要性など。
ー流れとしては、座学で学んでいくようなイメージですか?
講座中は実際の場面を想定したロールプレイや、受講生それぞれが感じたことを共有するグループワークの時間も多く取ります。それらのグループワークを実りあるものにするために、ファシリテーションも学びます。また、行政や機関との連携や関係構築の方法、組織運営やファンドレイジング(民間非営利団体が、活動のための資金を個人、法人、政府などから集める行為の総称)など、支援の輪を広げるための手法も学んでいきます。
ー参加にあたって、何かしら条件があるのでしょうか?
講座への参加は、ルネスかごしまの活動に参加する/しないに関係なく、誰でも参加可能です。また複数回にわたって開催する講座ではあるものの、1回のみ/期間途中から/やすみ休みなど、それぞれの都合に合わせて参加してもらって構いません。参加条件なども、特に設けてないです。
ー講座開催にあたっても、受け入れの間口が広いですね。
そして、参加費もいただきません。
ーえ、無料ですか。
無料です。
ーそれはルネスかごしまの運営的には、問題ないのでしょうか…?
ルネスかごしまの運営は、寄付や助成金に支えられています。活動においてコスト面で大きな負担があるわけではないので問題ないですよ。儲けようと思ってしている活動でもないですからね。
ー講座を開催する中で、たにかつさんが抱いている希望みたいなものは、ありますか?
希望ですか?
ー願いというか。「伴走型支援者養成講座」を開催している意図というか…。
意図とは少し違うかもしれませんが、ルネスかごしまとしての活動は【持続性に重きを置いている】んですね。
ー続けること、ですか?
そうです。私としては自分が今続けている活動は、社会に必要とされるものであれば、この先も続けていけると思っています。
ーお話しを伺う中で、わたし自身も必要な活動だと思いました。
ありがとうございます。例えばかざりさんのように思ってくれる人が他にもいて、社会に必要とされているなら、仕事としてやっていける人がいないとおかしいと思いませんか?
ーボランティアではなく、生業として…ということですね?
そうです。少なくとも食べるのに困らない程度には。
そのために今後は活動を続けるだけでなく、同じように人も育てていく。私たちの言葉で表すと【伴走者】を増やしていけたらいいと考えています。
〈自分史上、一番時間がかかった記事〉
わたしにとって謎が多い人物である、たにかつさんと話した2時間。
単なる取材の域を飛び越え、コーヒー片手に様々な話しをした。
抱いていた謎の多くは、ほどよく解決していったように思う。
今年の三ヶ日にもらった依頼のメッセージには
「提灯記事のようなものではなく、かざりさんが感じたものを文章にしてもらえたら」と書かれていて、それには何とか答えられたような気がする。
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少しだけ書き手である、わたしの話しをさせてほしい。
わたしは普段、文章を書くことを主な生業としているのだが、実はこの取材記事、自分史上一番時間を使った。
書いてもかいても終わりが見えず、取材メモはあるものの、書くほどに何を書けばいいのかわからなくなっていた。
最初の方で「わたしの仕事は、話すほどにわからなくなる不思議さと、掴みどころのなさゆえに大きくなっていく興味深さを、言葉を使ってできる限りわかりやすく形にすること」などと、偉そうに書いたことを少し後悔したぐらいだ。
すごく、書くのが難しかった。
それは多分、取材中にたにかつさんが言った言葉にドキッとしたからだ。
「自分も引きこもりの経験があって、今も潜在的にはひきこもりだと思っている」
〈人生そのものを飲み込まれそうな貴方へ〉
わたし自身は学生時代に引きこもりの経験はない。
ないけれど、高校生の頃に時々、学校をサボっていた。
朝起きて身支度を整え、母が用意してくれていた朝食を飲みこみ、自転車で最寄りの駅へ向かう。
学校へ向かう途中、その気持ちは度々現れた。
「今日は学校に行きたくない」
日によっては、そんな気持ちに打ち勝ち電車に乗った。
登校してしまえば、なんのその。それなりに楽しんで帰ってくる日もあった。
しかし日によっては、腹の底から「行きたくない」という感情が大きくなり、飲み込まれた。
あの頃に芽吹いた感情は、大人になった今も度々現れて、わたしを良くない方へ引きずり込もうとする。
そんな薄暗い感情が、記事を書くことで引き出されそうで、中々手が動かなかった。
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高校時代のわたしは仲の良い友達がいて、学校に内緒でアルバイトをして、そのお金で好きなだけ本を買って、
年相応の楽しい暮らしを送っていたと記憶しているが、一言「助けて」と言える人はいなかった。
困らせるのがわかっていたから、母には尚更言えなかった。
何に困っているか。何が嫌で学校をサボっているのか。
自分でもわからないけれど、話しを聞いてほしい。助けてほしい。
そう言える人が、いなかった。
もしあの頃、ルネスかごしまのような団体があることを知っていたら。
学校をサボってしまった日に、ただ家で時間を潰すのではなく制服のまま、ひだまりカフェのような場所に行けていたら。
「助けて」と言える誰かを、見つけられたかもしれない。
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話が逸れすぎた。
結局、最後の自分語りで何を伝えたいのかというと、
あの頃の自分のように心に薄暗い感情を抱えている人は【ルネスかごしま】や【ひだまりカフェ】に足を運んでみてください。
わたしの話として、高校生の自分を引き合いに出したけど、相談するのに年齢は関係ありません。
子どもでも、学生でも、大人の方でも大丈夫です。
わたしは運良く、薄暗い何かに人生そのものを飲み込まれることなく、自分の足で歩けるようになったけど、誰もがうまくいくわけじゃない。
長い人生の一定期間であっても、隣を一緒に走ってくれる「伴走者」がいるのは心強いはずです。
もし自分の心の中にある薄暗い感情に、人生そのものを飲み込まれそうなら。
何者であっても受け入れてくれる陽だまりは、きっと暖かいですよ。
必要な時に、思い出してもらえますように。
心の中の薄暗い感情に、人生そのものを飲み込まれそうな貴方へ。
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話し手|たにかつさん
書き手|かざり
撮り手|Siii Scale Studios
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