写研のデジタルフォントがデザイナーへ与える影響
今週、文字界隈をビッグニュースが駆け巡りました。
写研の書体が、やっとデジタルフォントになる!
……という朗報に、グラフィックデザイナーや書体好きが多いに沸きました。
いまでこそモリサワ一強ですが、1980年代は写研が最大手。写研には、石井細明朝、ゴナ、ナールなど、たくさんの名書体があります。
そういった書体は今でも街中でたまに見かけますし、古い雑誌はあちこちが写研書体です。
しかし、写研の書体は長らくデジタル化がされないままでした。デザイナーからすると、使いたくても使えなかったフォントというわけです。だからこそ、多くの人がこのニュースに沸いたのでした。
以降は、写研書体のデジタル化で気になること・デザインへの影響についてです。
❓どの書体がデジタル化される?
写植を収集しているLampLighters Labelさんのwebサイトを見ると、さまざまな写研の書体があることが分かります。
数十種類ある書体から、なにが最初にリリースされるのか注目の的です。
出典:LampLighters Label https://l-l-l.jp/wp/
❓どうデザインされるのか?
デジタル化に伴い、漢字が足されたり、カーニング情報が追加されるなどのアップデートがありそうです。それとは別に、文字のディティールがどうなるのか?が気になります。
游明朝を手がけた鳥海修さんが、ヒラギノ明朝について過去にこんなことを言っていました。
“写研ではハライの先端をまるくしていませんでしたが、写植だったので、(中略)写真処理を重ねると自然に丸くなって良い具合だったんです”
“ところがデジタルの時代になると、ハライの先端の直線が忠実に再現されるようになりました。それで游明朝体は、ハライの先端をすべて丸くしたのです”*
書体のデジタル化は(ものすごく平たく言うと)「文字をなぞってベクター化する」作業です。
しかし、上の例を見てもわかる通り、忠実になぞると、むしろ印字された写植の印象から離れる可能性があります。一概にそれが良い/悪いと言えないのですが、ディティールをどういうあんばいで“デザイン”するのか?非常に面白いところです。
💡写植の「特別感」が薄れる?
実は写植を取り入れる現代のデザイナーもたくさんいます。手間がかかりますが、デザインに良い違和感が生まれ、他との差別化にもつながることがメリットです。
例えば下のポスターは2000年代のものですが、写植が使われています。(Designer: 髙田唯)
写研書体が一般化されたとき、こういった手の込んだ手法はある意味陳腐化します。こだわりの強いデザイナーは次にどんな技を使うのでしょうか?
描き文字がより一層増えるとか、カウンターとして2000年代の書体が好まれるなど、動きが変わるかもしれません。
出典:ALL RIGHT GRAPHICS http://www.allrightgraphics.com/index.html
💡写研の書体が若手によって再発見される
現役で写植を扱っていたのはかなり上の世代です。フィルムカメラやカセットテープが「発見」されたように、写植の良さも若いデザイナーに再発見されるというのはありそうです。
むしろ次の世代は「写植で使われていた書体」という色眼鏡なしに、数あるデジタルフォントのひとつ、として使うのではないでしょうか。単なる懐古趣味ではなく、フラットに使われることになるでしょう。
いままでにない使い方、例えばモーショングラフィックでぐりぐり動く写研書体なんか面白そうです。
フォントは2024年からリリースとのこと。今から楽しみです。
* 明朝体の教室3 小冊子 p10より引用