金子みすゞの詩『空の鯉』について
この詩、好きですか?嫌いですか?そもそも興味をひかれないという方もあることでしょう。
【ふりかへれ】という命令形の言葉があったりして、【~~なの】【~~よ】という語尾がけっこう多いみすゞの中では、珍しい部類の作品です。
実は私は、あんまり好きではありませんでした。
反省しろと言われてるみたいで、なんか説教臭くて。
もっと言うと、近親憎悪というか、鏡で自分を見せられてるみたいで嫌なのかもしれない。
みすゞだって、詩人としての成功を夢見なかったわけではないと思う。
これだけの才能があって、西條八十に絶賛されていたのだから。
でも、大正12年、初めて投稿した5編の詩が、4つの雑誌の9月号に一挙に掲載されて鮮烈なデビューを飾ったにも関わらず…
半年後には八十はフランスへ留学。
みすは八十を師と仰ぎ、八十が選者をしている『童話』という雑誌を投稿の場にしていたのに。
代りの選者・吉江孤雁は、みすゞのライバルの島田忠夫がお気に入りで、みすゞの詩は選ばれなくなってゆく。
島田の処女詩集出版の話が持ち上がっていることが、『童話』の通信欄からダダ漏れで、みすゞは、どんな思いで読んだのだろう。
同じ頃、みすゞは結婚、結婚に反対していた弟の家出騒ぎ、弟と夫の不和から離婚話まで持ち上がるわ、弟に引っ掻き回されてる中で出産。とてもじゃないが、詩どころではない状況だった。
デビューして「さあこれからだ!」という時に、八十不在の二年間、そして私生活の波乱…
それらとこの詩を重ね合わせた時、なんだか負け惜しみみたいで、かえって惨めになるというか。
Me too、や諸々で芸能界に背を向けて、インディーズのローカル女優として生きている私に慰めを言われてるみたいで、あいたたーみたいな。
でも、みすゞは一生懸命自分を励ましていたんだなって、今は分る気がしている。
先週のみすゞ塾で、ちょうどこの詩をやったところなのだけど、これを選んで朗読した方たちは私と違って綺麗な心を持っているのだろう。
「なんか励まされるんです」
「もっと自分に自信を持ちなよ、って思う」
と言っていた。
そう、みすゞが自分を励ましてるんだから、読んだ人も励まされるわけだ。
それにみすゞは恐ろしい予言をしていることにも初めて気が付いたよ!
大きな鯉は、しまわれちゃうのよね。
あの頃活躍した詩人たちはみんなしまわれちゃったけど、みすゞ時を超えてこんなにも愛されている。
良かったね!