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複数人同時インタビューのコツ
複数人インタビューの留意点とジョイニングの技術
インタビューを行う際、1対1ではなく複数人を対象とする場合、対人関係の力学が複雑になり、単なる情報収集にとどまらず、場の調整が必要になります。特に、家族や同じ組織のメンバーなど、関係性の深い人々を同時にインタビューする際には、関係のバランスに配慮しなければ、無意識のうちに誰かを孤立させたり、話が一方的になったりする可能性があります。
本稿では、システム理論の「ジョイニング(joining)」の技術を中心に、心理学や臨床心理学の知見を交えて、複数人インタビューの際に意識すべきポイントを考えていきます。
1. ジョイニング(Joining)の技術とは
ジョイニングとは、家族療法の文脈で用いられる概念で、治療者が家族の中に入り、メンバー同士の交流に参加することを指します(Minuchin, 1974)。治療者は家族やメンバーの一員のように振る舞いながらも、中立性を保ちつつ関係を築き、システム全体に影響を与えることを目的とします。
インタビューにおいても、この技術を活用することで、話し手同士の関係性に配慮しながら、全員が話しやすい環境を作ることが可能になります。この時、インタビュアーは単なる聞き手ではなく、場の空気を読みながら関係性を調整するファシリテーターの役割を果たします。
2. 複数人インタビューにおける主な留意点
(1) 力関係の偏りに注意する
複数人のインタビューでは、メンバーによって発話量の偏りが生じやすく、特に次のような関係性に注意が必要です。
年齢や役職の違い(例:親と子、上司と部下)
発話力の違い(話し上手な人が主導権を握りがちになる)
歴史的な関係性(過去の出来事や確執が影響する)
ジョイニングの技術を応用し、意図的に「発言が少ない人の発話を促す」「優位な立場の人の発話を一時的に抑制する」といった調整を行うことが有効です。
(2) 相互影響を考慮した質問の工夫
1対1のインタビューでは個人の内面に焦点を当てることができますが、複数人では「他者の発言が影響を与える」ことを前提に進める必要があります。
例えば、
先に話した人の意見に引っ張られ、個人の考えが表出しにくくなる
過去の関係性によって、本心を語ることを避ける
その場の空気を壊さないために、対立を避けた発言をする
このような影響を最小限に抑えるために、個別質問と全体質問をバランスよく組み合わせることが大切です。
(3) 一人ひとりの「参加感」を大切にする
心理学の「社会的手抜き(social loafing)」の研究によると、集団での活動では、個々の責任感が薄れることで発言量が減ることがあります(Latane et al., 1979)。インタビューでも、消極的な参加者が生まれないよう、適切に介入することが求められます。
例えば、
アイコンタクトを取り、名指しで質問する
「○○さんはどう思いますか?」と意見を求める
相手の話に「それは面白いですね」「なるほど」とフィードバックを入れ、話しやすい雰囲気を作る
考えはあるけど発言できないという表情を見逃さない
こうした対応により、話し手の「自分の意見が大切にされている」という感覚を生み出すことができます。
3. 心理学・臨床心理学の視点からの補足
(1) ナラティブ・アプローチの活用
ナラティブ・アプローチ(White & Epston, 1990)では、個人特有の語りや価値観、考えを大切にし、それぞれの視点が尊重されることが重要視されます。複数人インタビューでは、
誰かの発言を「正しい/間違っている」と評価しない
個々のストーリーの違いを受け入れながら進める
ことが重要です。
また、「○○さんは△△と言われましたが、□□さんの視点ではどう見えますか?」と、対立や否定ではなく多様性を引き出す問いかけをすることで、より豊かな語りを促すことができます。
(2) アクティブ・リスニングの徹底
心理学者カール・ロジャーズ(Rogers, 1951)は、「共感的理解」が対話の質を高めると述べています。複数人インタビューでは、
どの発言にも「うなずき」や「相づち」で反応する
誰かが途中で話を遮られてしまった場合、フォローを入れる
相手の言葉を要約し、理解を確認する
といった方法を使いながら、話し手全員が「聞いてもらえている」という実感を持てるようにすることが重要です。
4. まとめ:ファシリテーションの意識を持つ
複数人インタビューでは、単なる聞き手ではなく「場を作るファシリテーター」としての役割が求められます。そのために、
ジョイニングの技術を活かし、全員が安心できる関係性を作る
力関係や発話の偏りに注意し、バランスを取る
個々の語りを尊重しながら、対話の流れを調整する
といった視点を持つことが大切です。インタビュアーが適切に関与することで、対話はより深まり、話し手同士の関係にもポジティブな影響を与えることができるでしょう。
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臨床心理士・公認心理師をしながら、ビデオグラファーとしてインタビューを軸としたドキュメンタリー映像を制作をしています。WEBサイトにて、これまでの作品集を掲載しています。是非、ご覧ください。
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