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「語りを促進する関係性」を築くとどんな良いことがあるのか
語りを促進する関係性とは
人はどのような関係の中で、自らの思いを語りたくなるのでしょうか。私たちは日常生活において、相手によって話す内容や深さを無意識に変えています。この違いは、どのような要因によって生じるのでしょうか。本稿では、一般的な人間関係における語りを促進する関係性の特徴を考察し、最後にインタビューにおける語りを促進する関係性についても触れます。
語りを促進する人間関係の特徴
人が安心して語れる関係には、いくつかの共通点があります。
(1) 信頼と心理的安全性
心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によって提唱された概念で、相手に対して批判や拒絶の恐れを抱かずに発言できる状態を指します。この安全性が高い関係では、話し手は自分の意見や感情を素直に表現できます。親しい友人や信頼できる家族の前では、本音を語りやすいのはこのためです。
(2) 共感と受容
カール・ロジャーズの来談者中心療法では、共感的理解が重要な要素として挙げられています。相手の気持ちを汲み取り、「それは大変だったね」といった共感の言葉をかけることで、話し手はさらに自分の思いを語りたくなるのです。
(3) 評価やアドバイスの抑制
人は評価されたり、過度なアドバイスを受けたりすると、語ることを控える傾向があります。例えば、「それは間違っている」と批判されると、話し手は次第に本音を隠すようになります。逆に、話をただ受け止めてくれる相手に対しては、より深く語ろうとするものです。
(4) 長期的な関係の構築
一度の会話だけではなく、継続的な関わりを持つことで、語り手はより安心して自己を開示できるようになります。特に、相手が過去の話を覚えており、それに関連した話題を振ることで、信頼関係が強化されます。
インタビューにおける語りを促進する関係性
日常会話とは異なり、インタビューでは、より意図的に語りを促進する関係性を構築することが求められます。
(1) 信頼関係の事前構築
インタビュー前にリラックスできる環境を整え、雑談を交えながら話し手の緊張を解くことで、語りやすい雰囲気を作ります。信頼関係が築かれていると、話し手は安心して自身の考えを語ることができます。
(2) 受容的な態度の維持
インタビュアーが話し手を否定せず、受け入れる姿勢を示すことで、話し手は自身の経験や思いをより詳しく語るようになります。これは、一般的な対人関係においても重要な要素です。
(3) 継続的な関わり
単発のインタビューではなく、長期的な関係を築くことで、話し手はより自由に語れるようになります。特に、以前のインタビューの内容に触れながら新たな質問を投げかけることで、深い語りを引き出すことができます。
語りを促進する関係性のメリット
語りを促進する関係性を築くことには、多くのメリットがあります。
(1) 自己理解の深化
語ることによって、自分自身の考えや感情を整理することができます。特に、他者との対話を通じて自らの経験を言語化することで、新たな気づきが得られることが多いです。
(2) 人間関係の強化
語りを促進する関係性があることで、相手との信頼関係が深まり、より良好な人間関係を築くことができます。親しい間柄での会話が増えることで、相互理解が進み、支え合う関係が強化されます。
(3) 心理的なストレスの軽減
自分の思いを話せる環境があることで、ストレスや不安を軽減する効果があります。特に、感情を抑え込まずに話すことができる相手がいることで、精神的な健康を維持しやすくなります。
(4) 創造性や問題解決能力の向上
他者との対話を通じて、自分では気づかなかった視点やアイデアを得ることができます。語り合うことで新しい発想が生まれ、創造的な思考が促されることもあります。
まとめ
語りを促進する関係性には、信頼や共感、受容的な態度が不可欠です。日常の人間関係においても、評価を控え、共感的に接することで、相手はより多くを語りたくなるものです。インタビューの場では、これらの要素をより意識的に取り入れ、話し手が自然と語れる関係性を築くことが重要です。語りを促進する関係性が育まれることで、自己理解が深まり、人間関係が強化され、心理的なストレスが軽減されるなど、多くのメリットが生まれます。結果として、より豊かな対話が生まれ、相互理解が深まるでしょう。
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臨床心理士・公認心理師をしながら、ビデオグラファーとしてインタビューを軸としたドキュメンタリー映像を制作をしています。WEBサイトにて、これまでの作品集を掲載しています。是非、ご覧ください。
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