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カウンセラーがインタビュアーをする価値


カウンセラーがインタビュアーをする価値

ドキュメンタリー制作において、インタビュアーの役割は極めて重要です。質問の仕方や相手の話の引き出し方次第で、映像の深みや視聴者に伝わるメッセージが大きく変わります。そのインタビュアーを「カウンセラー」が務めることには、大きな価値があります。本記事では、カウンセラーとしてのスキルがインタビュアーにどのように活かされるのかを考察しながら、ドキュメンタリー制作における新たな可能性について探ります。

1. 「聴く力」が生み出す深い対話

カウンセラーは、相手の話を受容しながら丁寧に聴く訓練を積んでいます。ただ情報を集めるのではなく、相手の感情や背景を理解しながら、適切なタイミングで質問を投げかける力を持っています。

インタビューにおいても、この「聴く力」は大きな武器となります。多くの人は、カメラの前で話すことに緊張し、本当に話したいことを隠してしまうことがあります。しかし、カウンセラー的なインタビュアーが相手に寄り添い、安心感を与えることで、より深い話を引き出すことができるのです。

例えば、単なる事実の確認だけでなく、相手の感情やその背後にある動機を引き出すことができます。「そのとき、どんな気持ちでしたか?」という質問は、カウンセリング的なアプローチの典型例です。相手が自分の言葉で語ることで、インタビュー内容がよりリアルで説得力のあるものになり、視聴者にとっても共感しやすくなります。

2. 沈黙を恐れず、相手のペースを尊重する

一般的なインタビューでは、会話が止まると気まずさを感じ、すぐに次の質問を投げかけたくなるものです。しかし、カウンセラーは「沈黙の力」を知っています。相手が話し終えたあとにすぐに次の質問をするのではなく、少し間を置くことで、相手がさらに深く考え、自発的に話を続けることがあります。

このスキルは、インタビュアーとして極めて有効です。人が自分の経験を振り返りながら言葉を紡ぐ時間を与えることで、より真実味のある、深い言葉を引き出すことができます。結果として、ドキュメンタリーに登場する人々の声が、より生々しく、力強く伝わるのです。

3. バイアスを排し、相手の物語に寄り添う

インタビューの際、無意識のうちに自分の価値観や先入観を反映した質問をしてしまうことがあります。しかし、カウンセラーは相手の話をジャッジせず、そのまま受け止める訓練を積んでいます。この姿勢は、インタビューにおいても非常に重要です。

例えば、特定の意見を押し付けるような質問ではなく、「あなた自身はどう感じましたか?」というように、相手の視点から語られる物語を大切にする質問を投げかけることで、より純粋な証言を引き出すことができます。これにより、視聴者も、語り手の経験や思いをありのまま受け止めることができるのです。

4. 相手に「話す場」を提供することの意味

カウンセラーの仕事の一つに、相手が自分の考えを整理し、自ら気づきを得る場を提供することがあります。これはインタビューにも通じるものがあります。

インタビューを受ける人にとって、過去の出来事を振り返り、それを言葉にすることは、自身の経験を整理し、新たな視点を得る機会にもなります。その過程を適切にサポートできるのが、カウンセラー的なインタビュアーなのです。

例えば、人生の転機について語る場面では、相手が過去を振り返りながら話すことで、新たな意味を見出すことがあります。その瞬間こそ、ドキュメンタリーの核心となり得る瞬間です。カウンセラーの技術を持つインタビュアーは、そのような貴重な瞬間を引き出す手助けができるのです。

5. 信頼関係の構築が映像の質を左右する

インタビューでは、被写体がどれだけリラックスして話せるかが、映像の出来に直結します。カウンセラーは「信頼関係を築くプロフェッショナル」とも言えます。相手に安心感を与え、信頼を得ることで、本音を引き出すことが可能になります。

特にセンシティブなテーマを扱うドキュメンタリーでは、相手が安心して話せる環境を整えることが不可欠です。カウンセラー的なインタビュアーがいることで、被写体が心を開き、より深く、リアルな物語を語ることができるのです。

まとめ

カウンセラーがインタビュアーを務めることは、単なる「質問をする役割」にとどまらず、相手の言葉を深く引き出し、視聴者に共感と理解を届ける大きな価値があります。「聴く力」「沈黙の活用」「バイアスを排した対話」「話す場の提供」「信頼関係の構築」といったカウンセラーのスキルは、ドキュメンタリーの質を大きく向上させるのです。

これからのドキュメンタリー制作において、カウンセラー的なインタビュアーの役割はますます重要になるでしょう。その価値を最大限に活かすことで、より豊かな物語が生まれることを期待したいと思います。


臨床心理士・公認心理師をしながら、ビデオグラファーとしてインタビューを軸としたドキュメンタリー映像を制作をしています。WEBサイトにて、これまでの作品集を掲載しています。是非、ご覧ください。

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