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チヌ一尾を味わう あますところなく

   夜明け前から,つりお君の車がない。暖かくなると出勤前にも朝早くから海へ行くつりお君。今日は休みだから釣れるまで帰ってこないでしょう。
  
  最近は近場でチヌ(黒鯛)を釣ってくるようになりました。瀬戸内海に面した湾の中が釣り場です。潮を調べチヌのいそうな場所を探し、狩猟民族つりお君はいそいそと出かけていきます。タイトルの写真は釣ってきたチヌ。大きさが分かるようにと缶コーヒーを置いています。
  
  この大きさで手前が体長40cmくらい、奥が43cmぐらい。食べるのに最適なサイズでしょうか。45cmを超えると皮が厚くなり、噛み切れないこともあります。家に持って帰るのは私たちにとっての最適サイズを二尾まで。これより大きいサイズや小さいサイズのチヌ釣れたらリリースします。

森羅万象には理由がある 性転換するチヌ

  春から夏にかけてはチヌの産卵のシーズン。チヌは同じ個体の大部分が4歳ごろからオスからメスへ転換する魚だそうです。真鯛は逆に大部分がメスからオスへと転換するのですって!「森羅万象には理由があるぞ~」と朝ドラ「らんまん」の池田蘭光先生が目をキラキラしてエネルギッシュに言っていましたね。

  個体数は少ないけれど立派になった体には大きい卵巣・卵も多いメスが子孫を残していくうえで有利か、はたまた体は小ぶりだけれど産卵する個体数が多いメスが子孫繁栄に有利か?
  住む環境やえさとなる生物、天敵との関係で、チヌなりに真鯛なりに導き出したのが今の状況なのでしょうか?その理由をネットで検索するのもいいけれど、妄想を働かせていろいろ考えると面白いですね。

家から歩いて一分の水路(汽水域)にも上がってきているよ
     身近なチヌの命をいただきます

  黒鯛を西日本ではチヌと呼びます。チヌは真鯛(お祝いのお膳で使う赤い鯛)と同じタイの仲間ですが、真鯛にに比べると油っぽかったり磯臭さがあったりします。もちろんそれが気にならない人も多いのですが、年齢を重ねるとあっさりした感じで食べたくなるような気がします。私たちもそう感じるお年頃になりました。

  つりお君はチヌが釣れたら新鮮さを維持するため、すぐに「神経締め」をします。先日TVで、長崎県五島では「神経締め」した魚の新鮮さをウリに差別化し、都会の料理屋さんに送っていると紹介されていました。背骨の神経を抜く「神経締め」と言う手法で魚の鮮度を維持する時間を長くするそうです。お刺身の美味しさは格別です。氷水でサッと身を引き締める「洗い」も最高です。

  釣ってきたチヌを手渡されたら、まず三枚におろします。
半身はお刺身に。もう半分は後日のお楽しみ。塩こうじをまぶして冷凍保存し、煮魚やソテー・甘酢あんかけ・てんぷらなどにします。そして最後にアラを煮て出汁をとり、あますところなくチヌをいただきます。食べ合わせの良い大根を必ず添えて。

チヌのアラの極上出汁

  出汁はお吸い物、味噌汁、野菜の煮物 いろいろに使えますよ。

  アラはボールかタッパーに入れ全体に塩を多めにまぶし冷蔵庫でに2時間くらいおきます。それを水で良く洗って、おなかや頭部の血や黒っぽい部分を小さなブラシでこすり洗いしてきれいにします。こうすると臭みと汚れがある程度とれます。
  これをキッチンペーパーで拭き、あらかじめ沸かしておいたお湯でゆでます。全体に火が通ったらお湯を捨て、ボールの中でアラをさっと水洗いしてアクを流します。このときアラに残っている身(塩気が効いて旨味があるのでこのままで美味しい)をお箸などでとり容器にとってきます(量は少ないですが、ポン酢などをかけるとちょっとしたおかずになりますよ)

  鍋にアラと塩漬けケッパーを入れ火にかけ、沸騰したら弱火で20~30分煮ます。(塩漬けケッパーの香りは和食・洋食どちらの料理でもマッチする香りです。)これをザルなどで漉し(さらしを使うと透明感のある出汁になる)、水出しの昆布出汁と合わせると極上の出汁の出来上がりです。ケッパーは捨てずにとって置き、荒く刻んでだし汁と一緒に使うと美味しいです。

  イタリアのケッパーという花の蕾を塩で漬けた漬け物「ケッパーの塩漬け」は日本人の味覚に合う旨味食材だと思います。オリーブオイルの輸入販売をしている朝倉玲子さんに使い方を教えていただいて以来、料理の幅が広がりました。詳しくは「アサクラ」「オルチョ」でホームページを検索してみてくださいませ。

チヌの出汁を使ったスープは皮と骨のコラーゲンもたっぷり

  さてさて、チヌのアラの極上出汁を使い、私は朝の元気スープを作ってみました。塩少々と香りづけ程度の醤油で薄味に仕上げます。具は薄く切った高野豆腐、大根のいちょう切り、乾燥わかめ少々、そして最後に小ねぎの小口切りをちらします。 庭の山椒の新芽をポンと叩いて浮かべてもいいですね。
     
  朝日を浴びた私たちの体に、チヌの命がすぅっと入っていきました。

  


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