論文メモ 疑似的な声の非人間的転回試論 ――ある「怖い話」の発生と流行にみる〈電承〉(『口承文藝研究』41号)
廣田龍平による論文
問題設定
インターネット時代の〈電承〉をどのように記述し、概念化できるかを、「くねくね」の広まりを事例に検討する。
「電承」「電承体」は伊藤龍平の論述の主要概念。従来民俗学における地縁・血縁に依拠しすぎた「伝承母体」概念ではなく、対面的相互行為のない、匿名的で一時的、無限定的な「人間関係に支えられる新たな共同体」のこと。この概念はインターネット時代の電承の場を上手く概念化したように見えるが、メディアの物質性/身体性をおろそかにしているのではないか?
メモ
・「くねくね」的なものの流行は一つ二つのスレやレスの中だけで起こったことではなく、外部からの転載、投票所やまとめサイトの参照機能、サーバー移転とログの破損、夏休み、専用スレへの情報の集約や誘導、板を超えての拡散などの出来事の総体として起こった。これらの複数の要素が〈電承〉を可能にし、またそれを構成するものであった。
・これら〈電承〉の視点は、口承文芸研究を「非人間的転回」へと差し向ける可能性を持っている。「非人間的転回」とは、人文・社会科学がこれまで人間の意識や主体性を特権的な対象としてきたことを批判し、動植物や技術、生態系などの非人間的な視点を導入してさまざまな事象を捉えようとするもの。
・〈電承〉は〈口承〉と比較してはるかに非人間的である。「くねくね」の事例含めネットロアとは、スレを利用する人間だけでなく、むしろ2ちゃんねるや外部まとめサイト、ウェブサーバー、電子機器、各種規格やプロトコルなどの技術的インフラによって可能になる。
・また、人間と技術だけでなく、「出来事―妖怪」も非人間的構成要素の一つである。非人間的転回の議論の多くは、「非人間」の領域を科学的存在に限定してきた。しかし「くねくね」的なものの〈電承〉の場においては、「くねくね」的なもののそれ自体も構成要素の一つとなっている。こうした〈電承〉研究は、〈口承〉を捉え直し、また、非人間の範囲に非科学的な存在を含み入れ、非人間的転回の射程を広げることになる。
感想
著者がかつて「洒落怖」の時代においてバリバリ「住民」であったことがうかがい知れて面白い。
非人間の範囲に非科学的存在を取り入れる――文化的事象の構成要素として精霊や妖怪それ自体を捉えるという発想が面白い。いかにも民俗学的。
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