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いつかは、名古屋ブルーノートで乾杯を

駄目よ! ジャズを聴くのにソーダなんて。

山田詠美のエッセイ「メイク・ミー・シック」。お酒を飲む年齢じゃないのに大人のクラブに行く資格はないと、たしなめる言葉としての一節。

このエッセイが発売された1991年当時、私は17歳。
高2から行き始めたライブ・・というよりホールコンサートにも慣れて、一緒に行く友達も何パターンか出来た頃。

耳で聞くのではなく、全身で感じる音楽。
独りではなく、一緒に行く人と、そして会場全体で楽しむ音楽。

この先に、お酒と交わる未知の世界がある。
17歳の私の背骨に、その言葉はひっそりと引っかかった。

***

いったん行き始めると、どんどん行くようになる。ライブも美術展も。
行った先でのフライヤー情報、演奏メンバーの別のバンド、一緒に行く友達のお誘い…そうやって、どんどん「行きたい」が増えていくから。

でもそれも、社会人3年目の25歳位まで。
仕事をはじめとする環境の変化で、自分も一緒に行く相手も、だんだん行かなくなっていく。

行かなくなると、どんどん足が遠のく。
そう、行き始めた時と逆回転で。

そうして、気づけば全く行かなくなった。聴かなくなった。
それで済むんだな、と思っていた。

そして、そのまま結婚・妊娠・出産と、人生の駒は進んでいった。

***

あっという間に子どもは大きくなり、気づけば小学校高学年。
母である私の早い帰宅を喜ぶよりも残念がるようになる姿を目の当たりにして、もう大丈夫だろうと正社員の仕事へ転職した。

…やっちまった!!
1年以内離職率90%、所属部署に限定すると95%!!!
超絶スーパーブラック企業に入社してしまった結果、当然のようにメンタル病んだ。

もがき、あがく中で再び音楽にたどり着いた。
ライブにも、およそ15年振りに行き始めた。

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以前と違い、自分の時間は、もう自分だけのものじゃない。
仕事のこと家のこと、段取り組んでやりくりして。

一緒に行く友も、仕事育児介護、様々なことを抱えて。
運良く同じ時間を迎えられた時には幸運を喜び、そうでない時には心からの「気にしないで」の言葉を贈って。

そうしてひねり出された濃密な時間の流れ込む先は、彩られた夜。
もちろん音楽と、そしてお酒に。

気付けば迷いなく、こう言い切るほどに。

一番美味しいお酒が飲める場所
#私の知ってるライブハウス

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「同じツアー(≒同じセットリスト)のライブに行くのは一度だけ」

なんとなく、でも確実に存在している自分の中の掟。
でも、その掟を破って二度目に行きたい、そう思うライブハウスが現れた。
名古屋ブルーノート

きっかけは、織田哲郎 幻奏夜Ⅳの全会場に行った方々からの「この会場は音がいい」というつぶやき。
決め手は、ヘッダー画像のアーティストカクテル

出演アーティストにちなんだオリジナルカクテルは、アルコール・ノンアルコールどちらも用意されている。決して間違えることのないよう、グラスの形状を変えており、ノンアルコールは脚つき、アルコールはタンブラー。
そして、それを記憶に収めるための、フォトスポット。

こんなにも行き届いた心配りがあって、しかも音が良いなんて。
幻奏夜はここ数年の恒例イベント、来年は名古屋も行く!
幻奏夜Ⅳの名古屋公演が終わった2月23日、そう決めた。
さすがに来年にはコロナも収まってるでしょ、と思っていた。

***

ところがそのすぐ後の2月から、公演中止/延期という実質上の休業になってしまった。期間は何度か延長され、最終的には6月いっぱいに。

7月14日には無期限の休業を発表、そして一週間経たずして―

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閉店ではなく、「自主廃業」ということばの選び。
つづく「倒産ではありません」の断り書き。

受け身ではなく、自らの意思での幕引き。
ならばその手で、またの日を。

そう思ったのは、私だけではなかったのだろう。
ツイッターのタイムラインには、コロナ終息後の再開を希う声で溢れていた。
そしてそこに添えられた画像の多くは、このnoteのヘッダー画像と同様、アーティストカクテルのフォトスポットだった。


*****


「コロナ禍」―そんな言葉で表せる時代があったねと、思い出話として話せる将来。私は新幹線で名古屋に駆け付ける。

いつもギリギリ駆け込みなタイプだけど、この日ばかりは早めに到着。
もし友人といっしょなら、アルコールとノンアルコール、両方注文して。

アーティストカクテルのオーダーで手に入れるチケット。
乾杯で始まる、卓上のもうひとつのステージ。

再びのその日に、初めて私が出逢うその時を、心より待ち望んでいる。




2020年9月29日追記
 名古屋ブルーノートのtwitter / Facebookアカウントは、明日9月30日をもって閉鎖とのことです。




ヘッダー画像は、2020年2月23日に名古屋ブルーノートで開催された「織田哲郎 幻奏夜Ⅳ」の時のものです。撮影者ご本人の了承を得て使わせていただきました。


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