田中遼|書籍編集者

NHK出版新書、ときどき翻訳書を編集しています。

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最近の記事

『Z世代のアメリカ』新書大賞2024の4位に

今日『中央公論』3月号誌上にて発表された新書大賞2024、編集を担当させていただいた、三牧聖子さんの『Z世代のアメリカ』が4位にランクインしました。 足かけ3年、三牧さんが力を尽くして世に出した1冊です。 長い道のりでしたが、必要な時間だったように感じています。そして、現下の国際情勢の中、2023年にこの本を出せてよかったと、一編集者として思います。 この本については、すでにたくさんの名だたる方々から、素晴らしい書評や感想をいただきました。 ですので、ここで私が改めて紹

    • 新書のいい帯のコピーを考える

      ふだん、NHK出版新書というレーベルで新書の編集をしている。 皆さんは新書が1年間にどのくらい出ているかご存じだろうか。どこまでが新書かという問題はあるけれど、毎年の新書大賞で1票を投じることの可能な新書の数は、去年は約1300冊だった。 つまり、毎月100冊以上の新書が出ては書店の新刊台を賑わし、翌月にはまた違う100点が新刊台を賑わわせているのだ。あらためて考えると恐ろしい。文化の厚みともいえるけれど。 そんな中で、書き手、切り口(企画性)、内容という本の本文に加え

      • 自由が丘の島料理

        1か月ほど前の話なんですが、零細常連客として通ってきた自由が丘の八重山料理店「なんた浜」の50周年記念パーティがありまして、女将からそこで配布する「50周年記念誌」の編集を任せていただきました。 自由が丘のブックファーストに勤めていた友人に連れられてはじめてお店に行ったのが2013年。当時「おばあ」こと竹富島出身の店主・前浜敏さんは87歳、現在は97歳で、コロナでお店には出られなくなりましたが、現在も矍鑠としています(私の祖母と同い年です)。 いつかお店で「お店とおばあの

        • ここには何かがあるかもしれない、と思うこと

           編集した柳原正治先生の『帝国日本と不戦条約』、4月1日付の朝日新聞読書面、4月9日付の読売新聞読書面にて、それぞれ書影つきで紹介されました。評者はノンフィクション作家の保阪正康先生、政治学者の井上正也先生です。二週続けて大手紙での書評掲載は滅多にないことなので、ちょっと小躍りしています。 (朝日・保阪先生による書評はこちらから、読売・井上先生の書評はこちらから読めます)  本のあとがきにも書かれていますが、少しだけ本の成立過程を話しますと、もともと戦前期の国際秩序の構築に

          生まれた性にくつろげる人は、本当にいるのだろうか?〜赤坂真理『愛と性と存在のはなし』

          盲導犬を訓練によって一人前にするはとても難しいのだそうだ。訓練すればすべての犬が盲導犬になれるわけではない。ではなぜ難しいのだろうか。それを考えたのが「環世界」という概念を生み出したドイツの生物学者、ヤーコブ・フォン・ユクスキュル(1864〜1944)である。 素人の自分が解説するのもおこがましいけれど、環世界というのは、個々の動物がそれぞれの仕方で認識している世界のことだ。「動物には世界がどう見えているか」ではなくて、「彼らは世界をどう見ているか」をユクスキュルは問いかけ

          生まれた性にくつろげる人は、本当にいるのだろうか?〜赤坂真理『愛と性と存在のはなし』

          進化はいかに「社会」を生み出すのだろうか?〜E・O・ウィルソン『ヒトの社会は動物たちが知っている』

          子どものころは、巣から出てきてせわしなく動き回る働きアリを延々と見ていられたものです。そんな私たちにとってとてもありふれたアリという生き物が、非常に高度な社会を持っていることはよく知られるところでしょう。 女王アリが卵を産み、「ワーカー」と呼ばれる働きアリが仕事を分業し、家族がひとつになってコロニー(巣)を維持していく。その生態は驚くほどに多様です。巣の中に畑をつくって農業をする種(キノコアリ)、仲間が集めてきた蜜をおなかにパンパンに溜め込み、一生涯エサの「貯蔵庫」として生

          進化はいかに「社会」を生み出すのだろうか?〜E・O・ウィルソン『ヒトの社会は動物たちが知っている』

          一度に全部わからなくても、その後の読書経験を支えてくれる哲学入門~仲正昌樹『現代哲学の最前線』

          ふだんから人文書を読む層だけでなく、ビジネスパーソン周りでも、ドイツの若き哲学者マルクス・ガブリエルは、ここ1~2年で一気にスター哲学者として受容されるようになりました。彼の「なぜ世界は存在しないのか」という挑発的なテーゼもあってか、名前だけ知っている人も多いはずです。たしかに講談社メチエの2冊はおもしろく、当社新書からも丸山俊一さんの手による本が出され、とてもよく読まれています(『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するⅡ』)

          一度に全部わからなくても、その後の読書経験を支えてくれる哲学入門~仲正昌樹『現代哲学の最前線』

          書籍編集者が担当した本を紹介するための長い言い訳

          はじめまして。 私は渋谷にあるNHK出版という会社で、書籍、おもに新書と翻訳書の編集をしています。編集者として今年で10年選手になりました。 これまで編集を担当した本は追々ご紹介させていただくとして、登録だけして6年ものあいだ放置していたnoteを遅まきながら始めます。この場では、おもに自分の担当した書籍について、スタートからゴールまで関わった身としての立場から、その魅力を伝えたいと思います。 版元のアカウントではなく、なぜ個人の書籍編集者としてそういうことをやるのか。最

          書籍編集者が担当した本を紹介するための長い言い訳