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涼飇が戻った日

海は苦手。
幼いころ、海でおぼれて死ぬかと思った経験がある。
祖母の家に行くときは、いつもフェリーの中で
船酔いをして吐いていた。

それでも、若いときは
誘われたら我慢して海にも行っていたけど、
30代に入ってから知り合ったいまの連れ合いには
海は苦手だと最初に告げた。
皮肉なことに、彼は学生のころ水泳をやっていて
海が大好きだった。

私の心を何よりも大事に考えて、
海には近づかないように気を配る彼に言った。

「海に入るのは怖いけど、見るのは好きだよ」

うそじゃない。
おぼれたのは海が身近だったから。
磯の香りが大好きだった。

久しぶりに「海」を目的地に旅をした。
行先はほぼ360度視界が海になる埠頭。

近づくにつれて心臓がドキドキしてきた。
磯の香りがして涼飇が頬をなでる。
波の音も聞こえる。
なぜだか涙が流れた。

「やだ、しょっぱい」

海はやっぱり怖い、けれど懐かしくもある。
彼のおかげで自分の意思で海に来る勇気を出せた。
ありがとう。

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