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デービッド・クローネンバーグ監督の最新作「The Shrouds」

The Shrouds

2024年10月6日
デービッド・クローネンバーグ監督の最新作。カンヌ映画祭コンペ部門正式出品作。

ニューヨーク映画祭で観る機会を得た。監督自身が登壇しての質疑応答もあった。本人を見るのは2回目。前回は、「イースタンプロミス」公開時、2007年にインタビューしているので、17年前。大ファンなので、直接お話しできたことに興奮したのを、つい昨日のことのように思い出す。御歳81歳。とがった印象の風貌は相変わらずだが、足が悪くされたのか、少し歩きづらそうにしていたところに月日が経ったのを感じた。

カーシュ(ヴァンサン・カッセル)は、ガンで亡くなった妻、ベッカ(ダイアン・クルーガー)も眠る墓地やそこにあるレストランを経営して成功している。ここでは彼がハイテクを駆使して開発した「シュローズ」(死装束の意味)という装置があって、棺の中の遺体の様子をモニターで観察できるようになっている。

妻を失った悲しみから立ち直れていないカーシュは、日々「ハニー」という亡き妻に似せたAIアバターと会話したり、シュローズでベッカの遺体をモニターで見て日々を過ごしている。そんなある日、カーシュはベッカの遺体の所々に異物がついているのを見つける。亡くなった妻に瓜二つの義妹、テリー(クルーガーが二役)に相談すると、位置を特定するデバイスではないかと言う。

テリーの考えを話半分に聞いていたが、そんな折、墓地が何者かに荒らされ、シュローズもハッキングされて、使用不可能になる。

修復と調査をテリーの元夫のマウリー(ガイ・ピアース)に依頼すると、海外から何者かによってサイバーアタックされたことが分かる。時を同じくして、ハンガリーのシュローズ墓地の投資に興味があるという妖艶な雰囲気を持つ盲目の女性、スーミン(サンドリン・ホルト)が現れる。

墓地荒らしの犯人を追いながら、レベッカが闘病中に心酔していた医者に疑いを向け、妻が何がしかの医療開発の犠牲になったのではないかと思い始めるカーシュ。陰謀論に傾倒するテリー。カーシュを助けながらも、まだ思いが残る元妻テリーが彼と関係を持っているのではないかと疑い嫉妬心をむき出しにするマウリー、そして正体が見えない謎めいたスーミンと、現実と妄想、信頼と猜疑心が何層にも複雑に重なっていく。

モニターで見られる遺体も、本当にそこに埋まっているのか? サイバー攻撃を仕掛けたハッカーは本当に存在するのか? ベッカの治療は本当に病気を治すためのもだったのか? 進歩したテクノロジー、データ、AIといった実態がないものに操られているだけではないのか? 陰謀論と嘘の渦巻く世界で、現実と妄想の境界線は、自分の思い一つで、何も確実ではないことを改めて思い知らされる。

クローネンバーグ監督は、2017年に43年連れ添った妻を亡くした経験は大きな要素ではあるが、それだけを描いたわけではないという。個人的な感情を注ぎ込んでいると感じ、この映画を作らないと、自分の中で消化できなかったのかと、ややありきたりのことを考えてしまったが、ハリウッドリポーター誌のインタビューで本人は否定している。

「アーティストは、それがどんなものであれ、自身の経験から作品を作る」ものであり、「アートはヒーリングの手段ではない」。映画を作ることで昇華されないし、「悲しみは永遠に残る」とも。

ここで描かれる、陰謀論にまみれた、パラノイアだらけの世界。現実的で無神論者と自身で言うクローネンバーグは、なぜそうしたものが必要とされるのか、そこを観客に問いかける。

https://variety.com/2024/film/news/david-cronenberg-the-shrouds-wife-death-cannes-netflix-1236006321/

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田中真太郎|Shintaro Tanaka|TANAKA MEDIA LAB
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