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心が落ち着く場所やモノ ①〜リーガロイヤルホテル大阪メインラウンジ〜

モヤっとした時に気持ちを立て直す、心が落ち着く場所やモノ。周りから心配されない「自分」に戻るために、いくつかのお気に入りをストックしておくのは、人生の海を泳ぎ切るための知恵。

そんないくつかをご紹介。

メインラウンジを微妙なアールを描いて流れ、屋外の日本庭園に落ちる「曲水(ごくすい)」に対し、その「空」つまり吹き抜けの天井には印象的なシャンデリアが輝いている。
 このラウンジの建築デザインテーマは、「自然と人工的な建築空間の接点の融合」とのことであるが、多田美波女史によるこのシャンデリアがそのテーマを雄弁に物語っている。それは「紫雲(しうん)」であり、長さ約10センチの小さな棒状クリスタルガラスを4万5000本の鉄線に25万個つるして電球を覆い、21の紫雲を形作っている。文/江 弘毅

冊子『The ROYAL』2009年9・10月号

このホテルラウンジに初めて来たのは小学2年生の頃、正面に日本庭園があって(その頃はずいぶん大きく見えた)滝が流れていて、絨毯敷のフロアの真ん中に小川が流れているのをワクワクしながら見た。
連れてきてくれた父は、アイスクリームを私たち姉弟に一つずつ頼み、煙草に火をつけた。母は「高価いじゃないの」とメニューに書いてある値段に少し眉を顰めていたが、その頃実家の商売は多少軌道にのっていたので、経費計上する心算になったのだろう、静かになった。

和服姿の女の人がしずしずと運んできてくれたアイスクリームは、普段店先のフリーザーボックスから選んでいるカップアイスでなく、絵本に出てくるのとそっくりに盛られた姿で出てきた。ウエハースと赤いさくらんぼ付き。そこからはあまり覚えていない。弟が川に足をつけてしまい、騒ぎになったことくらいしか。

時が経ち、このホテルのすぐそばの総合病院に、自分の持病の治療に通うようになってから、メインラウンジは私の気持ちの安らぐ場所として大事にしてきた。
人気の窓際席は、季節と時間によって陽が差し込みすぎることや、予約ができること、そしてさも慣れたふうに受付で窓際をチラリと見ながら「一名でお願いします」と言えば、たいがい窓際の席に通してくれることも、経験しながら身につけた。

引用した、80年も前に設計された有名な意匠だということは、その頃に知った。

今日も今日とて病院の梯子デーだったので、久しぶりにこの場所に来てみると、週末で混雑していたので、一番手前の真ん中の席に通してもらった。ここはここで、ラウンジ全体が見通せて趣がある。

ご高齢の方の集団から子連れのママ友、ちょうど私たち家族が初めて訪れたくらいの年齢の女の子と男の子を1人ずつ連れた夫婦もいる。小川にはしゃいだ男の子を川のふちから遠ざけようとしている若いパパを微笑ましく見た。

25年までにホテル全体の大規模リニューアルが予定されているので、50年近く変わらなかったこの雰囲気が、今後どう更新されていくか楽しみ。今日ホテル内を巡回した感じでは、地下一階のアーケードはいくつかのブティックのシャッターが下りていたし、メインの受付も工事のため場所が一時移転して運営されていた。

資本の持ち主は変わっても、このホテルの利用者層はあまり変わっていない。「ザ・大阪の経営者」といったベタなおっさんおばはんが多くて、脈々とその子孫が「いつものロイヤル」として利用し続けていくんだろうと思う。

母の歳の離れた弟が、結婚指輪を婚約者と一緒に選ぶのにちょこまかとついてきた私。宴会場開催の宝飾フェアの華やぎ。キャリア女性である叔父の婚約者に「お母さんに内緒よ」とねだってもなかったのに、唐突に買ってもらったホテル謹製のチョコトリュフ。
弟の中学受験合格の祝いの席の中華。 
なんでもない日曜日の朝に、ホテルでモーニングを食べに家族で来たこと。卵の焼き方から自分で選ぶ正統なイングリッシュブレックファスト。
小説で読んで憧れていた朝ごはんにブラッディメアリーを注文することを実践する姉に「お前、信じられへんわ。」と唖然とする弟。
弟の1回目の結婚式。
私の2回目の結婚の親族顔合わせ。
大きな手術の後に手首に認識票をつけたまま、退院祝いで夫と食べたイタリアン。
お店の方が「退院おめでとう御座います」と差し出してくれた一輪の赤い薔薇。

ホテルは時間と空間とサービスを買いに行くところ。私の「ホテル」の原点はここにある。

今日の土曜日の夜でいったん終了になるイベント。来年も行われていたら、ぜひ行きたいものです。

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