カリフォルニア州司法試験受験記 2012
2010年11月に弁理士試験に合格した後、勢い余ってカリフォルニア州司法試験(Cal Bar Exam)にチャレンジしました。「試験を受けに行く旅」が楽しくて、受験記を書きましたが今日までお蔵入りのままでした。
今年の弁理士試験も終わり、次の目標を探している方の参考になればと思い、10年越しの記録を公開します。
なお、2012年当時から、受験資格や試験のスケジュールが変わっていますので、最新の情報はCal Barのホームページで確認してくださいね。
The State Bar of California https://www.calbar.ca.gov/Admissions/Examinations/California-Bar-Examination
はじめに
2012年2月28日~3月1日の3日間、米国カリフォルニア州のオークランドで、カリフォルニア州司法試験を受験してきました。試験の出来はともかく、貴重な体験とアメリカ文化の一部を紹介すべく「カリフォルニア州司法試験受験記」なるものを書いてみようと思います。
試験について
カリフォルニア州司法試験は3日間に渡って行われる。
MBE(全州共通択一試験)、エッセイ、PT(パフォーマンステスト=実務試験)の3種類の試験があり、試験科目は、MBEが全州共通の6科目、エッセイが全州共通科目にカリフォルニア科目8つを加えた14科目である。PTは、与えられた資料をもとに指示された書類を作成する試験である。
3日間のうち、1日目と3日目の午前中3時間(9-12時)がエッセイ、午後3時間(14-1 7時)がPT、そして2日目の午前中3時間(9-12時)と午後3時間がMBEという構成である。
ちなみに、他の多くの州の司法試験は2日間だがカリフォルニアは3日間。合格率は40~50%程度で、全米で最難関の司法試験である。ゆえにアメリカ人には、「なんでカリフォルニアを受けるんだ?」と言われるが、ロースクールに行っていない日本人弁理士(または弁護士)に受験資格があるのはカリフォルニアだけなので仕方ない。
オークランド(Oakland)
試験は、カリフォルニア州の主要都市(LA、パサデナ、サクラメント、オークランド等)で行われる。日本から渡米して受験する場合、オークランドが一番便利と聞いたので、オークランドコンベンションセンターで試験を受けることにした。
オークランドは、サンフランシスコの市街地から車でベイブリッジを渡って20分ほど、BARTという地下鉄に乗れば15分ほどのところに位置する犯罪発生率全米第5位の都市である。といってもこの不名誉な順位はマフィアの拠点があるためで、犯罪の発生は特定の危険地帯に集中しており、そこに近づかなければ他の都市とあまり変わりないようだ。
試験会場のコンベンションセンターは、マリオットホテル(オークランドマリオットシティセンター)とつながっているので試験前週の木曜日(2月23日)からここに滞在した。
下見の旅
実は、昨年10月に試験会場の下見をした。試験会場の下見は弁理士の受験、いや大学受験の時から続けている。試験会場に着くまでの間に不測の事態が生じたらどのように対応するかを事前に検討して備え、そして試験で余計な気遣いをせず全力を出し切るためである。(今回も全力は出し切ったと思うが、いかんせん絶対量が完全に不足していた^^;)
下見の時は、DCに住む友人とサンフランシスコのグランドハイアットにステイし、ガールズトークを楽しみながら、ナパ&ソノマワインツアーに参加したりショッピングを堪能したりした。この時にカリフォルニアワインの味をおぼえ、中でもZinfandel はお気に入りになった。
サンフランシスコ到着
時差ボケを考慮して、試験の一週間以上前の2月19日にサンフランシスコに入った。試験会場直結のオークランドマリオットシティセンターは、日によって宿泊料の差が大きく、19日からだと200ドルを超えるので、ひとまずサンフランシスコダウンタウン(一泊150ドル位)のホテルに4泊した。
後から考えると、オークランドの試験会場周辺はいわゆる小さな町のダウンタウンであり、平日の昼間は人も多くレストランやコーヒーショップもあるが、夜や土日は人が少なくレストラン等(スタバも)やってないので、試験直前まで便利なサンフランシスコに滞在するのがよいかもしれない。ちなみに、サンフランシスコに世界最大級のチャイナタウンがあるのは有名だが、オークランドにも面積でいうと横浜くらい?のチャイナタウンがあり、レストラン、ファストフード、パン屋が数多くあり重宝した。特に、温かい麺類が食べられるのと、さっぱりした味のパンが食べられるのがうれしかった。しかも安い。例えばワンタン麺5~6ドル、パンは1ドルしない。
時差ボケ
現地に着いたら最後の追いこみをするはずだった。が、時差ボケで常に眠く、机に向かえば寝てしまう。レッドブル(カフェイン入り飲料)を飲み干すなり、空き缶の隣で爆睡である。ようやく試験の前日に朝から晩まで起きていられるようになった。もちろん試験中に寝ることはなかったが、これでは実力が出し切れない。次回に向けて、時差ボケ対策が最大のキーだ。
試験前日
新宿の予備校(アビタス)で、前回(2011 年 7 月)の試験を受験した方と知り合い、その方が今回同じ会場で受験するとのことで、サンフランシスコ到着時からメールで連絡を取っていた。試験当日の注意事項や試験時の様子を知りたかったので、試験前日にお会いしていろいろ教えていただいた。合格者の体験記にも当日の様子は書かれていたが、実際に体験した人から話をきくことができてだいぶ気が楽になった。感謝。
当日:試験場への入場
一日目8時20分頃に会場つくと、入場者の列ができていた。入場時にIDと持ち物のチェックがあるため結構時間がかかる。チェックをするのはProctor(試験監督)だが、よく見るとみんなその辺のおじさんおばさん風の人である。どうやら地元のボランティアらしい。IDはほとんどがカリフォルニア州の運転免許証であったが、私達日本からの受験者は当然パスポートである。
試験場に持ち込めるもの
試験場に持ち込める物品は限定されている。
カバンや財布は持ち込み禁止。透明なプラスチックのバッグに筆記用具などを入れるか、そのまま持っていく必要がある。食品用のファスナー付きのビニール袋を利用している人が多かった。私はダイソーで買ったA4サイズのプラスチックのケースを利用した。エッセイとPTはパソコンを利用して受験したので、この時の持ち物はラップトップパソコン、ワイヤレスマウス、マウスパッド、その他筆記用具やペーパークリップ、アナログの腕時計(デジタルはNG)、クッション(カバーなしのもの)、膝掛け。
一方、マークシート方式のMBEはさらに厳しく、持ち込みが許されるのはHBの鉛筆、ランチ用の現金、ID、そして薬のみである。ん?ちょっと待った!「鉛筆はいいのに消しゴムはダメ?」と思ったが、万が一消しゴムが持ち込めない時のために“日本の誇るトンボ鉛筆HBの消しゴム付き”を6本持って行った。おなじみの黄色い鉛筆である。
そして当日の入場の際、なんと消しゴムは持込み不可! 入口で没収されていた。セーフ! と思いきや、係の人が「本部に確認したら消しゴムはOKよ」と叫んで、その後は消しゴムOKとなった。
入場チェックをしていたProctor(試験監督)は「あーあ、今までに消しゴム没収した人たちに怒られちゃうなぁ」と困った顔をしていた。
Proctor(試験監督)
試験会場は、東京ビッグサイトのようなイベント会場の大きな一続きの部屋である。受験生は70 0~800人?あるいは1000人程度いただろうか。その会場で全体に指示を出したり受験生のお世話をしたりするProctor が何人も配置されていた。前述の通り彼らは地元のボランティアである。
まず試験場全体に指示を与える1人が常に壇上におり、受験生の出席確認や問題の配布回収を行う Proctor が受験生30人に1人割り当てられていた。さらに、入口付近の見張りと、会場全体の見回りに数名いたと思う。
私たちのセクションの担当はちょっと面白いおじさん。出席確認や問題を配るとき、一人ひとりに声をかけながら席を回ってくれた。2日目に一人の受験生が遅刻すれすれに現れると「どうしたんだ、心配したぞ。間に合ってよかった。」、問題を配りながら「僕のセクションの人はみんな合格だよ」、そして問題回収時は「よくがんばった、えらいぞ」というふうに。みんなこれでだいぶ気持ちが和んだと思う。Thank you Mr. Kyle!
MBE(全州共通択一試験)
MBEでは、3時間で100問を午前午後で2セット解かねばならず、速読力と持久力が必要とされる。またひっかけ問題の様な問もあり注意が必要である。この点は米国人にとっても同じらしいが、いかんせん読むスピードは日本人とは比べ物にならないほど速いはずである。
今回の試験では、長い問題は読まずに「C」を、よくわからない問題も深入りせず「C」を選び、残り時間5分になったら残った問題はすべて「C」を選ぶ(塗りつぶす)という戦略(?!)をとった。次回は、「長い問題は読まずに・・・」は継続するとして、時間内にすべて解き終わるよう速読力を鍛えたい。もちろん、各科目の内容の理解を深めることが速読につながるのは言うまでもない・・・
エッセイ
カリフォルニア州は試験科目が14科目と多いものの、必要とされる知識は日本の弁理士試験に比べて広く浅いという印象である。答案には、IRAC(アイラック)、すなわち問題点(Issue)、規範(Rule)、あてはめ(Application)、結論(Conclusion)を書くので日本の弁理士試験と答案の構成はほぼ同じだが、基本的な問題がほとんどで、規範を単に暗記していることはそれほど評価されず、いかにあてはめをするかが重視される。
1日目と3日目の午前で、各3問合計6問出題されるのだが、試験科目が14科目であるので、そのすべての科目に関する問題が出されるわけではない。つまり14科目くまなく勉強せずとも合格する可能性があるわけだ。というわけでずるがしこい思考が働き、「遺言・信託」「会社法」あたりはほとんど手つかずで挑んだら、これらが出題されたため6問中2問はほとんど白紙であった。
よって、今回の合格はない。次回に向けて、すべての科目をきちんと勉強し、規則をしっかり暗記することが課題である。
PT:パフォーマンステスト
パフォーマンステストは、配布された資料と指示に基づいて書類を作成するというもので、何らかの法律関連実務をやっていれば、とくに準備をしなくてもなんとかなる、という先人の教えの通り、これはかなり出来た。(と思う)試験を受けながら、今までの知財実務、特に米国の同僚を説得するための文書を作成してきたことが役に立っているのを実感した。そしてこの時ばかりは周りの米国人受験生に負けないスピードでタイプすることができた。
PTを受験してみて、MBEとエッセイを何とかすれば、合格は射程内にあると感じた。不合格者には、各試験の点数が通知されるが、PTに何点付いてくるかちょっと楽しみである。
パソコン受験
エッセイとPTは、手書き受験かパソコン(PC)受験が選択できる。日本人は手書きするよりP Cのほうが断然有利なのでPC受験を選択したものの、どうやって試験を受けて答案を提出するのか、何度話を聞いてもイメージがわかなかった。でも実際に受けたら納得。出願手続き完了後に送られてくるソフトを事前にインストールしておき、当日会場でソフトを立ち上げて準備する。そして試験監督のアナウンス「All examinees, type Begin, now start examination」で試験開始。 試験終了時には、ソフトを閉じて終了。その後会場の外に出てから、インターネット環境のある場所でPCを立ち上げると自動的にソフトが答案を試験事務局に送信する仕組みになっている。
パソコンの準備
PC受験者は、試験当日机上に配布されたプリントに記載された指示通りにPCを準備しておく必要がある。プリントには「PCの画面にSTOPという赤字のサインが出たところで待て」と書いてあったのだが、緊張していたのか、うっかりその先に進んでしまい、周りの人とは違う画面が出てしまった。どうしよう!と思っていると、となりの女の子が「Excuse me, ちょっとそれちがうわよ、一つ手前で止まらなきゃいけなかったのよ。Proctor に相談した方がいいんじゃない?」と親切に声をかけてくれた。
早速Proctor を捕まえて相談したが、なにせ彼らは地元のボランティア、PCに関することはノータッチで、「私たちにできることは何もないわ。多分大丈夫だと思うけど、わからない。試験時間のクロックがスタートして3時間でシャットアウトされちゃうかしら・・・、とにかく、つぎからはSTOPがでたらとまるのよ」と諭された。隣の彼女の「多分大丈夫だと思うよ。」の一言で、ちょっと安心してスタート。
指紋押収!
一日目午後の部開始前、指紋を押収された。
配られた紙には、四角のボックスが三つ印刷されていて、Index finger, Middle finger, Index finger(をもう一つ?)と書かれていた。え、Index finger って・・・人差し指?・・・なんて考えてないで即、隣の彼女に質問。
「Index finger ってこれだよね」と、人差し指をだして聞くと、「そうこれがIndex finger でこっちがMiddle Finger」と教えてくれた。そして“この人大丈夫かしら”というまなざしですべての押印が終わるまで見守ってくれた。ありがとう。
生まれた場所、母の旧姓
二日目のMBEの答案用紙の裏に、生まれた場所や母の旧姓を書かされた。出願書類にもこれらを記入したので、替え玉受験をしていないということを証明するために照合するのだろう。その他、答案用紙にはSSN(Social Security Number)を記入する欄もある。SSNを持っていない人は、受験登録手続きの中でSSN免除が承認された際に付与された番号を記入する必要がある。SSNの記入はマークシートを塗りつぶすが、それ以外の番号はSSNの枠の上に記入せよと指示された。が、うっかり「枠の上に記入せよ」を聞き逃して、またおろおろ。そして隣をみると、「この上よ」と教えてくれた。Thank you again!
受験生
左隣は上述の親切な女の子。現在サンフランシスコに在住だがご主人が近々ワシントンDCに転勤予定なので、ロースクールを卒業してから働いていないとのこと。私の日本のパスポートをみつけて、大阪、京都、名古屋、東京に行ったことがあると話してくれた。中東系かヒスパニック系と思しき風貌できれいな顔立ち。試験中はずーっとTシャツだった。私はセーターでも寒かったのに。右隣はアフリカ系の若い女の子。彼女もサンフランシスコに在住でロースクールを卒業してから働いていないとのこと。こちらも試験中は、Tシャツにコットンのパーカー。試験開始前後の彼女たちとのおしゃべりで、緊張がほぐれてよかった。会場全体を見渡すと、半分が大学(カレッジ)からロースクールにストレートで進んだと思われる若者たち、あとの半分は働きながらロースクールに通ったと思われる人たちのようだ。年齢層は広く、人種もカリフォルニアとあって、アジア系とヒスパニック系が目立った。もちろん、白人、アフリカ系も相当数見受けられた。日本人は10人くらいいたと思う。
Much better than last time
米国の司法試験は、毎年2月と7月に行われる。受験生の多くはロースクールの卒業生であり、ロースクールの卒業式は5月頃なので、まずは7月の試験を受ける。ということは、2月に受けている人の多くは前年の7月の試験に落ちた人である。というわけで「How was that? I don't know, but much better than last time.」という会話が聞こえた。ってことは、私も今回は全然だめでも次回は、Much better than last time! になるのか、よかった。???
カップケーキ
試験会場の近くのオフィス街に、お昼になるとカップケーキのトラックが止まっているのを見つけた。いつも列ができているので躊躇していたが、試験2日目、どうしても甘いものが食べたくなったので、お昼休みに列に加わった。カリフォルニアの人はフレンドリーですぐに話しかけてくる。私が列に並ぶと早速前のアジア系女性が話しかけてきた。「さむーーーいねぇ」「ほんとさむいねー」「ここのカップケーキ食べたことある?」「ない、昨日トラックを見つけたばっかり」「美味しいらしいわよ」「そう楽しみ、寒いけど、待とう。」
スタバのドリップコーヒートールサイズが、1.65ドルというのに比べると、カップケーキ1個 3.5ドルは米国にしては高めだと感じたが、2個ゲット! 美味しかった。
クレジットカード事情
正確にはクレジットカードリーダー事情というべきかもしれない。
帰りの空港に向かうタクシー、現金が不足していたので、カードが使える車を選んで乗った。でも、いつも助手席の後ろに装着されているカードリーダー付きの機械がない。。。すると支払いの際に運転手がおもむろにiPhone を取り出して、ジャック(イヤホンを指すところ)に小さなカードリーダーを差し込み、カードをスワイプ! サインは指でiPhone のスクリーンに書いて終了!
さすがカード社会のアメリカ、これならどこでカードが使える。
LAW&ORDER
もうひとつ紹介したいのは、アメリカのドラマ「LAW&ORDER」の恩恵である。
司法試験の勉強と英語の勉強の一環として^^、週に3本位「LAW&ORDER」を見ている。「LA W&ORDER」というのは、20年以上も続いた米国の有名な法廷ドラマである。話の中心は刑事事件に関するもので、犯人逮捕の際に「あなたには黙秘権がある・・・」という Miranda right を読む場面があったり、違法に収集した証拠は裁判で採用できないという話が出てきたり、法廷で証人尋問があったり、さらには弁護士や検事が答弁するという場面がでてくる。受験勉強を始めてからは、今まで聞き取れなかった英単語(mens rea(犯意), misdemeanor(軽犯罪), felony(重罪), assault(脅迫)等々)が聞き取れるようになって、俄然見るのが楽しくなった。 その逆に、例えば PT で「最終答弁の案文を作成せよ」というような問題が出ても、最終答弁が具体的にどういうもので、どんなふうに答弁が行われるのかという実際の場面を想像することができる。
という話を知り合いの米国弁護士にしたら、「LAW&ORDERは実際の法律とは違う点があるのですべてを信じてはだめ」と指摘されたので、最近はどこが法律と違うかという点を拾いながら見るようにしている。
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございます。長くなりましたが、総括すると「百聞は一見に如かず」につきます。これからもどんどん日本の外にでて面白い体験をしたいと思います。そうすることがより日本を知ることになるので。
尚、次回は「受験記」ではなく「合格体験記」を執筆予定ですのでお楽しみに。
2012年3月31日 田中康子
後日談:結局3回受験しましたが、「合格体験記」は書けぬまま。その後会社を辞めて起業したため、4回目にチャレンジする余裕はまだありません。
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