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AIバトラー❶


『おい、このゲーム知ってるか?』

「――なあ司《つかさ》、このゲーム知ってるか?」

「なんだこれ……『AIバトラー』? 俺は知らないな」

「やっぱ知らねえよな?」

「そもそも俺はゲームをあんましないって知ってるだろ? んで、何で急にそんな話になったんだ?」

「昨日、PINEで急に『AIバトラー公式』ってアカウントに友だち追加されてさ。このゲームのURLが送られてきたんだよ」

「はあ……それで?」

好奇心が幼稚園児より強いこいつ、山田榊《やまださかき》なら絶対にこう言うだろうな。


「「俺と一緒にやってみないか?」」


「だろ?」

「よく分かってんじゃん!流石俺のソウルメイトだな!」

「気持ち悪い。死刑ポイント+1だ。3溜まったらお前は死刑」

「縁起わりいポイントだな……」

「じゃなくて、このゲームはどう考えても怪しすぎる。ムームルアプリで調べても出てこないぞ?」

「だからこそやるんだろ! めちゃくちゃレアなゲームかも知れない! ほら! URL送ってやるから!」

「……仕方ないな。少しだけだぞ」

「もう、俺のソウルメイトはツンデレなんだから♡」

「ポイント+1。王手だ」

「それはソウルメイトじゃなくてチェックメイトだろ! つってな!」

「お前との時間も悪くはなかったよ」

「冗談じゃないですか〜司さぁ〜ん♡」

「……」

「司さん? 俺が悪かったです。頼むから無視しないでください……」


――その後、俺たちは『AIバトラー』をダウンロードし、各々自分の家に帰ってプレイすることにした。

「しまった、寝てた……」

『山田さんから不在着信が三件と新着メッセージが一件あります』

あいつ、多分明日拗ねてるな……

『助けてくれ』

早速勝てない敵でも出てきたのか? 取り敢えず返信しとくか。

『情けない男だな』

結局、AIバトラーって何なんだ?山田がよくやってるソシャゲってやつか?あんまりガチャとかの機能って好きじゃないんだよな。実力じゃなくて運の勝負だろあれ。

「まあ……約束は約束か。取り敢えずプレイしてみよう。」

『AIバトラーをプレイしていただき、ありがとうございます。それでは早速、アナタの分身となるキャラクターを生成しましょう。』

うお、音声付きかよ。

『マニュアルをお読みになりますか?』

いや……俺そういうの読むの苦手なんだよな。

『貴方の名前を入力してください』

名前?本名か?適当に名前を決めるもんなのか?……日頃からゲームやんねえせいで何もわかんねえ。まあ名前くらいなら後で変えれるだろうし、まずは本名にしよう。

『高橋 司様ですね。簡単なアンケートを開始させて頂きます。性格は……ご趣味は……読書がお好きなんですね。貴方は……それから……』


「つ、疲れた……しつこい営業マンレベルで話がなげえ……」


『貴方の能力をアンケートの結果から決定します。』

「一応あの時間の意味はあったんだな。」

『スキルを獲得しました。』

『スキル【記憶《メモリー》】戦闘中に肉眼で確認したスキルで、戦闘終了後、その能力を把握していた場合、スキルの一部を使用可能とする。(同時に使用出来るスキルは2つのみ、保存は3つまで。)』 


所謂コピーってやつか?


『お試しに、疑似バトル状態にします』


『ピコン♪……戦闘を開始します。高橋司vsカカシ』


目の前に『チュートリアル』と書かれたカカシが眩い光と共に現れた。


「うわっ!」


俺は突如目の前に現れたカカシに驚き、後ろに転んでしまった。

「目が痛え……」

目を瞑るのが遅けりゃ失明レベルだったぞ……じゃなくて、おかしいだろ。これってただのゲームだよな?なんで現実世界に干渉してるんだ?


『高橋司 Win!』


『【記憶】の条件を満たした為、【カカシ】のスキル【発光《フラッシュ》】の一部を使用可能にします。』 

『【発光】と口に出すことで、能力が使用可能です。』

口に出す……って、何でそんなちょっと恥ずかしいシステムにしたんだよ。


「は、【発光】!」


そう口にした瞬間、俺の身体からカカシと同じ光が溢れ出た。

「まじかよ……」

やっぱり変だ、これはただのゲームじゃない。

「あ〜、くっそ。疲れた。やめだやめ。今日はこれで終わりにしよう。」

……待てよ?このゲームって俺が作ったキャラクターを戦わせるゲームじゃないのか?俺が能力を得て何になるんだ?まるで『俺が戦う』みたいじゃないか。戦闘が始まるタイミングは?きっと相手も攻撃してくるよな……ってことは痛えのか?人と戦うことも……

ギュルルル……

「はあ。腹空いたし、コンビニに飯でも買いに行くか。」

既に時刻は深夜一時を過ぎていた。

俺は玄関を出て、コンビニへ向かった。


――俺は違和感を抱いた。


「こんなに不気味な雰囲気の町だったか? 人気も全然ないし。」

俺の考えすぎだろうか。深夜だからこんなもんか?


『ピコン♪……5秒後、戦闘を開始します。ひよっちvs高橋司』


「ひよっち……?」

ひよっちは、ここ、日和のマスコットキャラクターだ。こんな田舎のご当地モンスターを作るなんて、運営も物好きだな。

「……」

背後から視線を感じた俺は、反射的に振り返る。

ひよっちの着ぐるみを被った『誰か』が、こちらを見つめる。何でこんな夜中に立ち尽くしてんだよ。しかもなんか石持ってるし……

「お~い……こんばんは……」


『戦闘開始!』


スマホから流れた開始の音声と共に、ひよっちがこちらに向けて走り出し、手に持った石を振り下ろしてきた。俺は咄嗟に横へ転がり攻撃をかわした。

「うおああああああ!」

「何なんだよお前いきなり……!」

なんかのイベントか?ドッキリか?そんな訳ないよな。カメラマンの気配もしなければ、今のも俺が避けれなかったら大怪我もんだ。

ひよっちが俺の上に覆い被さろうとしてきた所を、腹に蹴りを入れて距離を取ることに成功した。

「に、逃げなきゃ……!」

俺はどこに逃げればいいんだ?俺の家か?……いや、ダメだ。あいつに俺の家が知られるのはまずい。……交番に行こう。助けてくれるはずだ。

「誰か!誰か居ませんか!」

「誰でもいい!変な奴に襲われてるんです!助けてください!」

交番に向かう最中も、必死に助けを求める。

あいつは俺の後ろをしっかりと着いてくる。

「く……くそ!無駄に速えんだよ!」

金網が目に入った。交番までのショートカットが出来る上に、着ぐるみじゃ登り辛い。大きく距離を離せる筈だ。

俺は金網に手を伸ばし、足を掛け、急ぎつつ冷静に登る。

「は……はは!映画かよ……!」

交番までもう少し。俺は全力で走る。

「すみません!助けてください!」

「こんな時間に騒いだらだめだろう?近所の人達は寝てる時間だよ。」

「こっちはそれどころじゃないんすよ!ひよっちの着ぐるみを着た石持ったやつが俺を追いかけ回してんだよ……です!」

「……はあ。一応、監視カメラを確認するから、一旦落ち着きなさい。」

「いや、今も……何でもないです。」

くそっ。話がまるで通じねえ。まあ無理もねえか……

「君の家はどこかな?」

「三丁目の辺りです。」

「分かりましたぁ〜……っと。」

まあ、休めるだけありがたいか。

そう思った直後に、鈍い音が耳に入る


「がっ……」

「……は?」


くそ、やっぱ来てたんじゃねえかよ……いつ入ってきた?気配も何も感じ……いや、『透明化』か……?

「いやあ、疲れたよ。新人の癖に逃げるのだけは一人前ってか?腹立つわあ。」

やっぱ、モンスターでも何でもねえ……。ただの殺人鬼じゃねえかよ。

「き、君だけでも逃げなさい……」

「……え?」

発砲音が交番内に鳴り響く。放たれた弾丸はひよっちの足を貫いた。


「い゛っでぇ!!」


「逃げなさい!」

「……すいませんっ!」

俺は痛がるひよっちの横を走り抜け、また逃げ出す。

――
「ええ〜?さっきの所じゃダメなの〜?」

「ダメダメ、月極駐車場は金かかるっしょ?だけどここの先にあるイヲンの駐車場に止めれば無料なのよ笑笑」

「んで、浮いた金でマイちゃんにちょっと多く貢いであげれるようになるってわけ〜♪」

「キャッ♡サトシさんてんさ〜い♡」

――

「横っ腹が痛え……もう走れねえよ……隠れられる場所はねえのか?」

『立体駐車場、イヲンをご来店の方限定……』

ここだ……!

「ふっ……くっ……」

俺は息を切らしながら、立体駐車場の中に逃げ込むことに成功した。

「流石に逃げ切れたろ……」

そう思い、下を覗いた矢先、あいつは自分のスマホを見始めるやいなや、体の方向をこちらに切り替えて歩き始めた。

「いやいや、おかしいだろ……!」

『ピロン♪』

しまった!マナーモードにし忘れていた……!こんな時に何だ?山田か……?


『AIバトラープレイヤー、レイカさんから新着メッセージが一件あります。』


このゲーム、チャット機能付きかよ……


『司君、助けてあげよっか?』

このゲームに慣れた奴か?なんで俺の状況を知ってる?

『なあ、このゲームどうなってんだ?急に殺し合い始まるっておかしいだろ……説明も無しにだぞ?』

『え?最初にマニュアルを読むはずだけど……』

あ、飛ばしたわ……

『……俺はこんなゲームやるつもり無かったんだ!辞める方法を知らないか?』

『無理無理。名前を入力した時点でもう後戻りは出来なくなってる。』

『因みに、隠れても無駄だよ、戦闘中はポイントを使ってレーダーを買うことで、敵の位置がマップに印されるようになってるの。』

――

「助けてって言えば助けてあげるんだけどなあ……?」

――

「お~い、バレてんぞ〜」


下から声が聞こえる。ここは三階。恐らくあいつはまだ一階にいるだろう。全四階建ての立体駐車場だから、正直もう逃げようがない。


「……そうだ」


――

「あ゛ぁ〜くそ、足が痛え。あのクソ……マップ的にはここのどっかに入るはずだ……」

ここは四階建て。一階や二階に居るとは考えづらい。敢えて中途半端な三階に隠れてる可能性もあるが、心理的に四階に逃げたくなるのが人間だ。あいつの能力が分かんねえのがちと不安要素だが……今んとこ逃げるだけの腰抜け。まともな能力じゃねえな。この時間帯は車もねえ。つまり隠れるとしたら……

「ここだよなあ?司くぅ〜ん!」

「障害物が少ねえここで隠れられるとしたらトイレ、そうだろ?」

「いい考えだと思うぜ?だけどよ、俺あのお巡りから拳銃奪っちゃったんだよねえ……ってことで、扉ごと撃ち抜いて終わ……」


「【発光】!!!!」

「……あ?」

――

「もうちょっとで着くよマイちゃ〜ん♡」

「わーい♡」

――
「あ゛あ゛あ゛!」

見えねえ。見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ見えねえ!!!!クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!!!!

「調子に乗りやがって!!ぶち殺してやる!!」


カチッ


……弾切れ?


「銃までクソだな!! ジジイ!! 腹立つ! 腹立つ!腹立つ!」

出し抜かれた? この俺が? 腰抜け共に? 許せねえ!

――う、上手く行った……!目眩まし作戦!あいつは着ぐるみを着てるせいで視野が狭い!だからドアのすぐ横でしゃがみ込んでいた俺に気づかず俺が個室にいると錯覚した……!

ただ問題は……いや、取り敢えず、部屋の中から出なきゃまた同じ状況になる。ゆっくりとドアを開け……

ギイッ……

「ドアの音……!?しまっ……」

「そっちかぁぁぁ!!」

「え?」

目が見えていないからか、俺の眼の前を通り過ぎ、部屋の外に走り出していった。

「おらっ!おらっ!どうだ!ちっせえ部屋の中じゃ逃げるスペースもねえだろ!」

あいつ、自分がトイレの外に居ることに気づいてないのか!?

「よしっ、逃げ……」

キキーッ!バンッ!

「キャーーーッ!!」

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