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西村京太郎「十津川警部捜査行 愛と幻想の谷川特急」読書感想文

ネタバレネタバレネタバレ・・・。
これだけ書いとけばいいだろう。
なんてたって推理小説だ。

推理小説は、今まで2冊しか読んだことがない。

エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」が1冊目。
小学校低学年のころだから、児童文学書になる。

担任の先生が読書好きだったので、その影響で図書館で借りて読んでみた。

そして驚いた。
だって、犯人がオラウータンなんだもん。

すごくない?

オラウータンがパリのマンションの一室によじ登ってきて、人間を引き裂くのだ。
子供だましの本だと思った。

友達とやっていた、自作のなぞなぞ合戦のほうが、よっぽど推理していた。


そして読まなくなった

2冊目は、大人になってから読んだアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」となる。

「モルグ街の殺人」が、読書的トラウマとなったままだけど、さすがに大人になれば、推理小説もおもしろそうだなと興味も出てくる。

で、おもしろいのだけど、さほど心に残らない。
考えてみるに、主語が入り乱れるのに慣れてない。

AとBしかいないのに、AはBに言った、BはAに答えた、さらにAはBに言ったがAはうなずいた、といった読みずらさだけが印象に残った。

でも、こういったのはたぶん。
読書を重ねれば、解消する手ごたえはする。

とにかくも、3冊目の推理小説に挑戦してみた。

文庫|2009年発刊|451ページ|双葉社

感想

無事に読めたのが、うれしい読書だった。

「十津川警部シリーズ」は、電車が登場するのが特徴。
“ トラベルミステリー ” というブームを作り出した、と表紙カバーのプロフィールにはある。

十津川警部が、捜査をグイグイと引っ張っていく。
これが、電車のスピード感と組み合わさる。

もたもたしていると、電車がいってしまう。
パトカーだって、ヘリコプターだって、サッと登場して追いかけていく。

そんなノリで、5編がザクザクと繰り広げられる。

5つの短編が配されている

この本の発刊は2009年。
5つの短編がある。

これらの短編の発表は、だいぶ前になってるのがわかる。
JR が国鉄となっていたり、携帯が貴重に扱われていたり、全く使われてなかったりしている。

1980年代から2000年頃まで、それぞれが前後して配されているが、内容は色あせてないので気にならない。

十津川警部だけは、いつでも昭和感がたっぷりとある。

あと5編のすべてが、都内と関東一円を舞台としている。
電車マニアでなくても、土地勘があったほうが情景は増すのかもしれない。

十津川警部の捜査の解説

5編のどれにも、複雑なトリックはない。
犯人の動機はざっくりしたもので、深くは描かれてない。

最後に大どんでん返しがあったり、驚くような結末というのはないが、テンポよく事件が解決して犯人が逮捕されるのが爽快。

受刑者としてのわるい癖が、十津川警部の捜査手法が強引だと思ってしまうところ。

科学的捜査などそっちのけ。
勘を信じて、少しの違和感を逃さずに、行動力で犯人を追い詰めていく。

たとえば、ホテルの忘れ物のボールペンを電車内での落し物として、犯人の言質を得るところなど。

現実問題として、これは裁判で通るのかなと考えてしまう。
弁護士次第かなと、そっちを推理してしまった。

独特な文章

こういう文章は見たことがない。
句読点が、めちゃくちゃ多い。

『十津川は、亀井に、しみじみと、言った。』といった具合に、単語ごとに句読点がバシバシと打たれている。

自分も句読点は多いほうで、度々は「ちょっと多いかな」と悩むけど、西村京太郎は特段に多い。
「これでいいんだ」と変な自信がついた。

とはいっても、西村京太郎といえば、推理小説の大先生だ。
おそらく「先生、句読点が少し多いかと・・・」と誰も言えなかったのだろうな、と邪推をする。

ちなみに文字は大きい。
文庫本で、これほど大きな文字もめずらしい。
おそらく、ファンの高齢化に配慮したのだろう。

句読点の多さと、文字の大きさで、慣れるのにちょっとページが必要だった。

そんな難点があったけども、以前よりはずっと推理小説が好きになった1冊となる。

ネタバレあらすじ

【1】鬼怒川心中事件

小説家の平木が、死体で発見された。
状況から自殺が考えられた。

警視庁捜査1課の刑事の十津川は、現場を検証する。
違和感から他殺を疑った十津川は、妻のゆかの嘘を素早く見抜ぬく。
ゆかは、マークされて行動確認がはじめられた。

十津川の勘は、ドンピシャで当たっていた。
犯人は、ゆかで間違いなかった。
動機は、夫の女遊びがヒドいためだった。

数日後だった。
ゆかは動いた。
東武浅草駅から特急「きぬ119号」に乗車。
鬼怒川へ向かう。

十津川と、その同僚の亀井は、尾行していた。
が、ゆかは、尾行されているのを知りながらの行動だった。

尾行は利用された。
投身自殺が偽装されたのだ。
事後、ゆかは、ロンドンに逃亡しようと成田空港へ向かう。
計画は成功するかに見えた。

が、偽装を見破り、急いで追ってきた十津川に、空港で逮捕されたのだった。

【2】死を運ぶ特急「谷川5号」

デザイナーの仁科は、同業で同窓でもある前田をやっかんでいた。
新鋭のデザイナーとして成功していた前田だった。

が、成功のきっかけとなった仕事の依頼は、本来は仁科が受けるものだった。

「仁科は留守してます」と嘘をついて、同居していた前田が仕事を横取りしたのだった。

恩師の林も恨んでいた。
そんな前田の肩を持ち、その後の仁科を孤立させたのだ。

仁科は、まず林を絞殺する。
場所は、上野発の特急「谷川5号」の車中のトイレ。
計画的な犯行だった。

途中の駅で「谷川5号」の後部車両が切り離されることを利用して、アリバイを成立させたのだ。

さらに、犯行現場に前田のライターを残すことで、犯人に仕立て上げることにも成功した。
捜査本部は、前田を逮捕する。

しかし、群馬県警の矢木だけは、聞き込みの状況から、仁科が犯人だと見立てた。
が、証拠がない。

協力したのは、亀井だった。
矢木と亀井は、行動を共にする。

仁科を逮捕できたのは、ホテルに忘れていたボールペンを、現場の車内の忘れ物として受領させたからだった。

「罠にはめたな!」と仁科は声を震わせた。

【3】恋と幻想の上越線

日下刑事の同窓の、浅井が毒殺された。
ライターをしていた浅井だった。

犯人は、東京でモデルをしている久枝。
以前に、人身事故をおこしていた。

久枝は、水上温泉のホテルの社長の隠し子だった。
社長は、人身事故を揉み消すために5000万円を払い、目撃者に口止めした。

浅井は、新たな事故の目撃者だと間違われて、お金の話になると誤解されて、久枝に毒殺されたのだった。

浅井のほうも、やってることが大人気なかった。
新特急「谷川」の車内に貼られたポスターのモデルの久枝に一目惚れしたのだ。

このモデルは誰なのかと聞いて回ったことから、新たな事故の目撃者だと間違われたのだった。

逮捕された久枝は、美人だった。
友人を殺された若い日下は言い、十津川は答える。

「人を殺したんですよ。それなのに、きれいな目をしていたのが納得できない」
「人を殺すと、普通は恐れおののき、自責の念にかられる。それで目は濁り、いかにも犯人という顔になってくる」
「・・・」
「だが、まれに、罪悪感なしに人を殺せる人間がいるんだ。そういう人間は、人を殺しても目は濁らない」
「・・・」
「ただし、それは、動物の美しさだがね」
「しかし、納得できません」
「君の友人は、美しい人に恋をしたんだ。いや、その人の幻影にかな。それで、いいんじゃないのかね」

・・・ と、この短編では、十津川警部は渋みを見せる。

【4】ATC 作動せず

千葉県の外房線を走るL特急「わかしお」が乗っ取られた。
犯人の要求通りに、列車は千葉から都内を抜けて、北鎌倉駅に向かう。

錦糸町駅では、人質の42名が解放。
東京駅では、現金5000万円を入れたバッグが受け渡された。
北鎌倉駅には、逃走用のマイクロバスも手配された。

が、犯人は北鎌倉で逮捕された。
日下刑事の手柄だった。
東京駅で、秘かに車両へ乗り込むことに成功していたのだった。

が、現金5000万円が入ったバッグが見つからない。
共犯者がいたのだ。
乗客に紛れていた、ゆう子だった。
途中で投げ落とされた5000万を回収していたのだった。

翌日。
ゆう子は逮捕された。
5000万を持ち逃げして、台湾へ逃亡しようとしていたのだ。

「刑務所に入る人のために、お金を使ったって仕方ないじゃないの」

ゆう子は、肩をすくめながら理由を言ったのだった。

【5】死への近道列車

銀座のクラブのホステスのあけみが、自宅マンションで殺された。
隣人により、直後に発覚した。

犯人とされたのは、詐欺師の平山だ。
香港に送金していること、航空券も手配していることも、すぐに確認された。

臨場した十津川は、時間がないことを察した。
ヘリコプターが、現場近くの小学校の校庭へ着地した。
乗り込んだ十津川は、成田空港へ直行する。

が、犯人は平山ではなかった。
あけみを、殺害するつもりではいた。
投資の名目で2億円を出させていたのだが、返済を求められていたからだった。

2億円を返済する名目で、あけみの部屋に訪れた平山は、背後から頭を殴られたのだ。
意識を取り戻すと、あけみが刺されて死んでいた。
航空券も、香港の銀行の通帳も奪われていた。

犯人の何者かが、香港へ逃げるつもりだ。
何者かを追って、成田エクスプレスに飛び乗った平山だった。

空港のカウンターに電話して、航空券を持参した者を搭乗させないようにも伝える。

何者かの手がかりは、盗られたアタッシュケース。
もし、あけみの恋人だったなら、ブルース・ウィリスに似ているというのは知っている。

すべての犯人は、恋人の小島で間違いなかった。
売れない俳優をやっていた。
返済される金を狙っての犯行で、空港に向かっている。

一方の十津川も、目撃情報や、空港に入った電話から、平山が犯人ではないと見当をつけていた。
航空券を持つ者が犯人だと推測して、ヘリコプターで到着した空港で芝居を打つ。

芝居は成功した。
搭乗の寸前の小島を逮捕したのだ。

容疑者となるのは逃れた平山だったが、所持金は2万ほどしかない。
目についたのは、外国帰りらしいキャリアウーマンだった。

「失礼ですが、ニューヨークでお見かけしたような気がするのですが・・・」

近づいた平山は、そっと声をかけたのだった。

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