佐藤明男「なぜグリーン車にはハゲが多いのか」読書感想文
未決囚から受刑者となったころに読んだ本。
裁判で判決が下されてから、14日以内に控訴しなければ刑は確定する。
その夜は、これで懲役4年6ヶ月か・・・と落ち込んだ。
15日目の朝になると、独居の鉄扉がガチャーンと空けられて「執行!」と声がかかる。
気が滅入る、嫌な言葉だった。
その日のうちに丸刈り。
バリカンで髪をばっさりと落とされた。
刑が執行されて3ヵ月ほどは、ひたすら洗濯バサミを作る。
100均で売っている、いたって普通の洗濯バサミ。
2月だった。
暖房なんて一切ない。
窓枠は鉄製で、密封性などないから、房内は常に薄ら寒い。
机も冷たい。
金属をいじるから指先の感覚がなくなる。
手などこすっていると「おい!そこ!やらんか!」と刑務官の叱責が飛んでくる。
雑居房の半数がしもやけになって、手に血をにじませながら洗濯バサミを作っていた。
その合間に “ 分類 ” といって、どの刑務所に行くべきか適正を見るために、何回かの面接をしたり、知能テストみたいなものをしたり。
で、この期間は作業報奨金は、1ヵ月で約800円。
逆算すると、時給5円という世界。
今でも、100均の洗濯バサミを目にしたものなら、もの悲しい気持ちに陥る。
そんなころに読んだ本。
きっかけ
タイトルで決めた。
そのまんま、なぜグリーン車にはハゲが多いのか、という疑問から。
グリーン車とハゲには、どのような因果関係が生じているのだろうか?
また、どのような根拠で説明されるのだろうか?
まったく見当もつかない。
そこにはなにか、大きな謎が隠されている予感もさせる。
読感
本を開いて1分後の感想
マジックのタネ明かしを見たような気持ちだった。
すっごく不思議なマジックを見て、そのあとにタネ明かしがあって、あまりにもたわいもないタネに「なんだぁ!」と明るく納得した気持ち。
本を開いてから1分後にあった。
1分だからいい。
もし、これが1時間後だったら、同じ「なんだぁ!」であっても、こうも明るい気持ちになれない。
現役の医者である佐藤明男
てっきり経営がらみのビジネス書だと思ったけど、冒頭の1分で『はじめに』を読んだときには、思いっきり勘違いしていたようだと察した。
本文を読み進める前に、裏表紙の著者略歴に目を通してみると、著者は現役の医者となっている。
で、頭髪治療の第一人者。
AGA(男性型脱毛症)の治療では、これまでに600人を超える実績あり。
オックスフォード大学でなんたらして、なんとかクリニックでどうたらして、なんとかという学会で常任理事をしているという輝かしい経歴がてんこ盛りとなっている。
冒頭の「はじめに」にすべてがまとめてある
とにかく “ プロペシア ” というハゲ薬のことである。
そのプロペシアがどんなに素晴らしい薬なのか、大先生が頑張って、誰にでもすごくわかりやすく、簡単に書いてくれたという見本のような本。
そして、いわゆる “ 出オチ ” である。
2時間あれば読める新書版の本だが、冒頭4ページほどの「はじめに」でおおよその内容がわかる。
おおよそというか、すべての内容がわかる。
それでも読み進めてみると、そんなにハゲているわけではないけど薄毛も気になるし、プロペシアを飲もうかな、こんなところで洗濯バサミなど作ってる場合じゃないな・・・と思えるようにもなってくるから不思議だ。
説得力というのか。
内容はともかく、佐藤明男先生のハゲへの熱さが伝わってきた読書だった。
佐藤先生の解説(談)風のあらすじ
ハゲと社会的地位の関係
男性ホルモンが多いと、その作用でハゲになります。
同時に、男性ホルモンが多いと優秀になります。
なぜだとおもいますか?
お答えしましょう。
男性ホルモンは、大脳皮質をも発達させるからです。
これらのことから、ハゲこそが優秀の証といえるでしょう。
優秀といういうことは、社会的地位も高い。
したがって、新幹線のグリーン車にはハゲが多いといえるのです。
はい。
ハゲであることで生きづらさを感じている人は、もっと自信を持ってほしい。
ここ、大事なところなので、もう1度くり返します。
ハゲは優秀です。
もっと自信を持ってください。
もちろん、薄毛も同様です。
それにプロペシアを服用すれば、99.7%の確率で脱毛をくい止めることができます。
99.7%ですよ?
すごくないですか?
このプロペシアは、日本では2005年に承認されました。
もちろん、プロペシアに副作用などありません。
たいへん信頼がおける内服薬です。
はい。
ハゲが生きづらくなった理由
男性ホルモンが多いと、その作用でハゲになると先ほど述べました。
この男性ホルモンは、骨格や筋肉をも発達させるのです。
ですから、原始時代ではハゲの男が集団を率いてました。
当然のこととして、女性から選ばれるのは、優秀な遺伝子を持つハゲの男です。
もともと、ハゲの男はモテモテだったのです。
ちなみに、ゴリラも、しっかりとハゲているオスこそが、メスから選ばれます。
そうです。
ハゲは集団のリーダーの証でもあります。
ところが、時代が狩猟から農耕に変わると、女性が生産活動に従事できるようになりました。
力に頼る強い男より、言うことを聞く男を選ぶように基準も変わったのです。
ここからです。
ハゲの男が、生きづらさを感じるようになってきたのは。
しかしながら、プロペシアを服用すれば、99.7%の確率で脱毛をくい止めることができます。
この素晴らしいプロペシアですが、使用するには医師の処方箋が必要な医薬品です。
ちなみに私は、それ専門の医者ですので、決して宣伝してるわけではないですが相談には乗ります。
はい。
ハゲと人類の発展の関係
話が戻りますが、ハゲは優秀なのです。
デキる男の象徴がハゲなのです。
ハゲと優秀を語るのに歴史を振り返れば、枚挙にいとまがありません。
ジュリアス・シーザー、クリストファー・コロンブス、レオナルド・ダビンチ、ガリレオ・ガリレイ、ルイ13世、ナポレオン・ボナバルト、トーマス・エジソン、ライト兄弟、アルベルト・アインシュタイン、パブロ・ピカソ、森鴎外、吉田茂、湯川秀樹・・・。
これらの偉人も、皆、ハゲでした。
なんら、ハゲを恥じることはありません。
もっと、あなたはハゲに誇りを持ってください。
ハゲのあなたは、もっとポジティブに生きるべし。
それに現在は、プロペシアという素晴らしい薬がある。
カツラよりも、植毛よりも、育毛剤よりも、プロペシア。
ワカメなんて食べるよりも、育毛シャンプーよりも、プロペシアなのです。
プロペシア最高!
プロペシア万歳!
筆者註 ・・・ 最後の2行は勝手に付け加えました。それ以外はおおよそ抜粋して趣旨に沿ってます。ともかく佐藤明男先生には説得力があり、プロペシアが気になってくるのです。もはや、ハゲとグリーン車の関係など、どうでもよくなっているのです。気になるのはプロペシアの価格が一切書いてないことです。作業報奨金で買えるのかな・・・という疑問すら沸いて、明日も洗濯バサミがんばろ・・・と少し楽観的にもなれる読書でした。