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「味噌切れから生まれたケチャップサバ伝説:一人暮らし自炊哲学」
仕事帰りの夜、時計の針は18時を回り、腹の虫がもう「私、カンペキに空腹なんですけど?」と無言の圧力をかけてきた。
帰路の明かりがやけに眩しい。
そこでふと立ち止まり、人生最大の選択に直面する。
外食か、自炊か。
これはただの食事の選択ではない。人生哲学そのものだ。
外食の誘惑は強烈だ。
チェーン居酒屋の赤提灯が「お疲れさーん!」と叫んでいる気がするし、ラーメン屋から漂う香りは「家帰っても冷蔵庫にネギしか入ってないでしょ?」と挑発してくる。
だが、一人暮らし歴10年超の自分としては、ここで簡単に折れるわけにはいかない。
なぜなら、「一人暮らしの自炊」というのは、ある意味スポーツだ。
メンタルを鍛え、創意工夫を凝らし、そして必ずと言っていいほど予期せぬアクシデントが待ち受けている。
その夜も同じだった。
決意を胸に、スーパーに向かったのだ。
「今日こそ見切り品を駆使してお得な晩飯を作るぞ!」という戦闘モードである。
しかし、スーパーの店内に入るや否や、目の前には格安の惣菜たちが広がる夢の国。
しかも唐揚げ弁当が半額!
タイムセールの文字が光輝いている。
ここで人は二分されるだろう。
「半額だし、これでいいや」という楽な道を選ぶ者と、「いや、これを乗り越えてこそ自炊魂!」と燃える者だ。
私は後者を選び、冷凍食品コーナーを横目で見つつ、鮮魚コーナーへと進んだ。
そこで見つけたのは、賞味期限が今日までのサバ。
値札の「-50%」が私のハートに刺さる。
「お前を美味しく料理してやる!」と心の中で叫び、勝利のポーズをとりながらレジへ向かった。
家に帰り、エプロンを装着。
気分は料理ドラマの「グランメゾン東京」だ。
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「まずはサバを下処理して、味噌煮に仕上げる」と自分に指示を出す。
だが、ここで問題が発生する。
味噌がない。
いや、正確には「味噌のパッケージがあるが、中身はからっぽ」という状況。
なんでこういうときに限って、やらかすんだ、俺。
ここで選択肢はふたつ。
「代用品を探す」か「諦めてサバの塩焼きにする」だ。
だが私は違う。
私は自称「グッドルッキングガイ」なのだ(誰も認めてくれないが)。
そのプライドが変な方向にスイッチを入れる。
「塩焼きなんて凡庸だ!サバをもっと創造的に料理するんだ!」と冷蔵庫をゴソゴソ探した結果、出てきたのはケチャップとマヨネーズ。
そして何を思ったか、これらを混ぜた謎ソースをサバに絡めるという暴挙に出た。
完成した料理は、見た目からしてシュールだ。
皿の上のサバは「俺、どうしてこんな目に遭ってるの?」と語りかけてくるようだった。
しかし、意外にも味は悪くない。
いや、むしろ美味しい。
「これが、俺のオリジナルレシピだ!」と自画自賛する。
こうして外食の誘惑を乗り越え、無事に自炊をやり遂げた。
結果として、食費は安く済み、胃袋は満たされ、そして何より「俺、天才じゃね?」という謎の満足感を得たのだ。
だが翌朝、冷蔵庫に鎮座する謎ソースの残りを見つめながら、私は思った。
「これ、どう処理すればいいんだ…?」と。
自炊は終わらない冒険だ。
それこそが、一人暮らしの醍醐味なのである。