読んで楽しむマーケティング[伊勢うどん]後編
伊勢うどんを手本にしたご当地うどんの商品開発
伊勢うどんを手本にご当地うどんを商品開発するとしたら、
ベネフィット1.粥(麺じゃないので除外)
ベネフィット2.細うどん
ベネフィット3.汁物
ベネフィット4.うどん玉
ベネフィット5.きしめん
という条件をクリアする、細いきしめん(ありそうでなかった麺)と、平たい麺に合うソースやスープを開発します。
平打ち麺は、ロングパスタのフェットチーネや、リングイーネのように、濃い味つけと相性が良いので、ソースやスープの開発が、成否を決めるでしょう。
それを、伊勢うどんのように一種類のみ
「これが(伊勢うどんの)タレやに!」
と絞るのも良し、
パスタソースのように、
ジェノベーゼ、
ポモドーロ、
カルボナーレ、
イカスミ(ネロ ディ セッピア)
等々、あれこれ揃えるも良し。
次に、めん。細きしめんは、すでに販売されていますが、
JAS規格(幅4.5mm以上。厚さ2.0mm未満の帯状)
に則ると、細くなれば、きしめんとは呼べないようです。めんの幅4.5mm以上なので。
よって、麺を開発するというよりは、つゆ(ソース)と合わせて、ナポリタンのように、ご当地の名物になる、逸品を目指して開発する運びになるでしょう。
勿論、ナポリタンは、ご存じのように、ナポリのご当地バスタじゃありませんが(笑)
スパゲティといえば、ナポリタンが、一つの代名詞であることは、日本人なら誰しも認めますよね?
うどんといえば「〇〇〇(ご当地めん)うどん」で競うのではなく、
小麦で作る麺すべてに範囲を広げ、ロングパスタにおけるナポリタンのように、料理として確立させる商品開発の方向性です。
本質は、スピード。
伊勢うどんの脅威(SWOT-1)埼玉うどんの来襲
うどんの消費量、生産量ともに、さぬきうどんで有名な四国の香川県が、長年、
https://todo-ran.com/t/kiji/11819
首位を独走しているのは、ご存じの通り。
伊勢うどんを擁する三重県は、残念ながら、47都道府県の中で、ほぼ真ん中の27位。
これじゃ、まともに戦っても、勝ち目はありませんよね。新進気鋭の後発県も現れましたし。
後発県とは?うどん界の横綱といっていい香川県に、がっぷり四つで、戦いを挑もうとしている県があります。
映画『翔んで埼玉』が好調な、埼玉県です。
うどんの生産量は、埼玉県が一位になったという統計も(平成29年度工業統計)ありますが、
https://www.pref.kagawa.lg.jp/content/etc/subsite/toukei/sogo/udonken/0003.shtml
県民一人あたりの消費量や、うどん店の数は、香川県に及ぶべくもないばかりか、
総ての店舗数こそ、東京都に次いで2位にもかかわらず、一人あたりの消費量は、14位。
https://todo-ran.com/t/kiji/13485
東京都内へ通勤・通学する93万“埼玉都民”の胃の腑を満たす、駅の立ちそば
立ちうどんがあるっちゅうに、地の利を活かせず、残念ながら、14位。
地の利を活かすのが、簡単そうで、難しい証拠ですな。
にもかかわらず、香川県に代わって、うどん県を名乗ろうなどとは、二番煎じどころか、
香川県が、うどん県PRのために、年間7,000万円を超える広告費と、知恵と努力
https://udon.mu/2628
を投じてきたというに、それを後から出てきて奪おうなんて、盗人(ぬすっと)猛々しいとは(笑)このこと。
いやさ、埼玉県を腐しているのではなく、知恵を授けようとしています。
讃岐うどんで高名な香川県の後塵を拝したところで物真似にすぎませんから、
うどん県の名声は捨て、行政区画の対立軸(香川県vs埼玉県)で戦わず、別な切り口で戦います。
(拙案は伏せておきますが)ヒントは、前編に書きました。
さあ、あなたも、埼玉うどんのプロモーション(売り出し方)を考えよう~♪
香川県は、外部のプロ(広告代理店)から、間違いなく、知恵を借りています。
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20190411078/
広告代理店の得意技ですからね(笑)、スタンプラリーは。
「人の和」 永六輔さんがラジオや雑誌で取り上げた伊勢うどん
伊勢うどんは、埼玉県のように、キング香川と戦おうとせず、自分のリソースで、我が道を行きました。
先ず、メディアの利用が、伊勢うどんは、旨い。もとい、上手い。
メディアの使い方が上手いということは、プロモーション(売り方)が上手いということ。埼玉うどんにとっては、プロモーションの参考になるはずです。
どう上手いか?というと、「上を向いて歩こう」や「こんにちは赤ちゃん」の作詞で有名な故・永六輔さんをして、伊勢うどんの
名付け親
ではないか?という噂が、まことしやかに拡散したこと。
伊勢市は宇治山田駅の近くにあるうどん屋さんで、うどんを召し上がった永六輔さんが、気に入って、ラジオや、雑誌で紹介したことにより、
「伊勢うどんの名付け親は、永六輔さん」
という噂が立ったそうです。伊勢うどんは、
1.著名人が、
2.お忍びで訪れ、
3.その感想を自分のメディアで、
5.紹介したくなる、
5.逸品
だったということですね。ノンペイドパブに載るための5つの必要条件を教えてくれています。
アンジャッシュの渡部さんも、この伝で、芸能界のグルメ王と呼ばれるようになりましたよね。
伊勢うどんのことではありませんが、これ(著名人の紹介)を意図して用いるプロモーションは、日常的といってよく、
特産品や無料券を著名人へ贈ったり、ペイドパブ(記事体の有料広告)として広告代理店へ依頼することがあります。
プロダクト プレイスメント(商品配置広告)なんか典型的な例ですな。
「人の和」 地元出身のコラムニストが友の会を結成して伝播をフォロー
それを、三重県出身のコラムニストで「伊勢うどん大使」の石原壮一郎さんが、
http://www.otonaryoku.jp/iseudon.html
伊勢うどん友の会を結成して、丁寧に、フォローなさっていること。
永六輔さんによって、メディアに取り上げられた波及効果を受け継ぐ強い味方が、地道に、広報活動を続けています。
天地人の「人の和」ですね。
こう書くと、町おこし責任者は、
「わが町における永六輔さんになってくれそうな著名人を探そう」
「わが町における石原壮一郎さんになってくれそうなコラムニストを探そう」
とハッスルしがちですが(苦笑)違いますよ?
メディア(特にテレビ)は、エ(映像、画像 = ビジュアル)ありき。
食べ物でしたら、いま風にいえば、インスタ映えしなければなりません。
その点、伊勢うどんは、讃岐うどんや水沢うどんとは異なり、麺の太さと黒いたれのインパクトが大。
よって、プロモーション(売り込み)よりも、伊勢うどんに相当する商品開発が先。
埼玉うどんに欠けているのがコレでしょう。各個(各市)がバラバラに戦っている。
意外に見落とされがちですケド、売るよりも、売れる商品が先。
当り前なことのように思えますが、この商品は売れると思い込んで、売れない商品を作り、売りまくって、ぜんぜん売れなくて、在庫の山を抱えて倒産する小企業は、枚挙に暇がありません。
どんなにプロモーションしようと、売れる商品でなければ、売れませんよね?
半分まで読みました
伊勢うどんの脅威(SWOT-2)博多うどんの強襲
うどんは、コシがなくて、スープがなくて、具はネギのみが普通だったらしく、
地元の皆様は、わざわざ「伊勢」を付けず、単に、うどん、または、素うどんと呼んでいたことには前編で触れました。
近ごろ売り出し中の博多うどんも、そうですね。博多っ子に言わせると、
「これが、うどんばい。固かとは、うどんやなか」
博多っ子は、せっかちだから、茹で置きしておくので、柔らかくなるんだとか。
柔らかい理由が、せっかちだから(笑)とは、伊勢うどんとは、異なりますね。
福岡北部の博多のみならず、南部の久留米にしても、宮崎県のうどんにしても、
九州のうどんは、総じて、柔らかいような気がするのは、筆者だけでしょうか?
(長崎県の五島うどんを除く)
その感想が当たっているとしたら、福岡県と長崎県以外(佐賀、大分、鹿児島、宮崎、熊本)のうどんを、ご当地うどんとして売り出すには、
1)とんこつスープにフィーチャー(特徴づけ)
して、
2)博多うどんと差別化
すれば、東京都民や北海道民に分かりやすく、受け入れられやすくなります。
多くの都道府県民が、たぶん、とんこつラーメン = 九州ラーメンだと思っていますので。
個人的には、とんこつラーメンの白濁したスープで食べるうどんが、美味しいと思います。
(よく合うのは、五島うどんのような、丸くて、細くて、こしのある麺でして、
手延べならではの、縒り(より)=ねじりが、こってりしたとんこつスープによく絡み合います)
極めつけは、そんな(とんこつスープで食べる)うどんを出す所が、知る限り、無い。
需要が無いから、無いのかも知れませんが(苦笑)
博多ラーメンの代名詞になっている、とんこつラーメンは、新しい造語らしいので、
http://www.raumen.co.jp/rapedia/trivia/02.html
とんこつスープを、うどんスープに、福岡県以外が使っても、構いませんよね。
むしろ、早い者勝ち♪
ご当地B級メニューの開発に苦慮なさっている〇〇県の皆様、いかがです?
単なるうどんを、伊勢うどんに。ネーミングから始まった「天の時」
伊勢うどんは、茹で上がるまで一時間かかるため、家庭で茹でる機会は少なく、うどん店で食べるのが普通だったそうです。
この(うどんはうどん店で食べる)習慣こそ、伊勢の地で、うどん店が、繁盛する下地(うどんは外食するもの)になったのだとしても、
専門店が軒を連ねると、元祖や、本家を名乗る店舗が現れるのは、どこの土地も一緒。
そこで、うどん店同士が、伊勢うどんの元祖争いにならないよう、伊勢うどんという名前を、飲食業組合で共有した説が一つ目。
なるほど、うどん店が軒を連ねている状態(ご当地うどんになる環境)が必要だったんですね。喜多方ラーメンと似ていますね。
こうして、伊勢うどんという、ご当地うどん名がデビュー。
もう一つは、全国各地のうどんが、伊勢市内でも販売されるようになったから。
昭和40年代になると、流通が向上し、食品も豊富になり、うどんの乾麺や冷凍うどん、玉うどん(チルド麺)等、
伊勢市民にとっての素うどんとは異なる、こしの強いうどんや、細いうどんが、近所のスーパーで売られるようになり、
それらのうどんと差別化するために、伊勢うどんという名前をつけたという説が二つ目。こうして、
・1972年に、伊勢市の麺類飲食業組合が「伊勢うどん」と呼ぶことに決めた
↓
・その「伊勢うどん」という名前を、永六輔さんが、メディアで紹介した
↓
・伊勢うどんが、全国に知られるきっかけとなった
という、時の流れ。天地人の「天の時」です。
この時のネーミング(単なる、うどん → 「伊勢」うどん)が、
・伊勢市民のみ食する、ローカルうどんのまま
か、
・全国区の、ご当地うどんになる
か、
たかがネーミングが運命の分かれ道になったことは、お分かりになるでしょう。
「ネーミングは、コンパクトなマーケティング メッセージ」と、筆者が説いてきたように、それだけ、ネーミングは、重要なんですね。
ネーミングは、天の時を捉えます。
町おこしするなら、ネーミングに、こだわりましょうね。(企業おこしも、ね)
「地の利」うどん店、メーカー、市民が一体となったプロモーション
それ(伊勢うどんを名乗って)から約30年後、伊勢うどんは、天地人の「地
の利」を得ます。
伊勢神宮がある「地の利」です。
2005年(平成17年)から2013年まで、8年間にわたる、伊勢神宮の式年遷宮を契機に、
テレビの旅番組、雑誌の特集、インターネットの口コミなどで、伊勢うどんは、全国へ広がっていきました。
ひと口に、契機といっても、8年間ですからね。
8年間もニュース・バリュー(メディアが取り上げる理由。報道する価値)が続くなんて滅多にありません。
そして、2016年。G7、伊勢志摩サミットが開催。
伊勢うどんは、サミットの開催地という「地の利」を得ます。
開催の何ヵ月も前から、伊勢の名が、連日、ニュースで報じられました。
一方、伊勢志摩と並称された隣の志摩市には、伊勢うどんのような志摩〇〇がありませんでした。
(あったのなら、調べが足らず申し訳ありません。志摩の皆様、教えて下さい。
萌えキャラは、見かけましたが)
https://www.huffingtonpost.jp/2015/11/05/aoshima-megu-unofficial_n_8477178.html
しかし、サミットが「開催されるから作ろう」といっても、一朝一夕にはムリ。
メディアは、どうしても、ネタがある伊勢市に偏ります。
TVクルーだって、雑誌記者だって、仕事ですもの(撮れ高が要りますから)
ネタが無いとわかっている所へ、交通費等の経費を使って、行けませんよね?
こうして、宣伝が不可能なNHKの番組内で、伊勢うどん屋さんのスタッフがインタビューを受けたり、
http://netgeek.biz/archives/74212
伊勢うどん「食べ放題」を企画する企業が現れたり、
海外メディアを対象としたプレスツアーが22回も開催されたり、
メディア、うどん店、メーカー、市民、伊勢市が一体となったプロモーションを展開。
こうして、今に至る伊勢うどんの名声が築かれました。
天地人を活かしたマーケティングは「一日にて成らず」ということのようです。
長年、続けてきたから、永六輔さんが取り上げてくれる等、想定外の出来事が起きたというもの。
ご当地グルメ作り及び町おこしは、ヒトモノカネを動かす意味で、経営と同じ。
時間をかけて、人と、うどんと、予算をコントロールする、戦略です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?