あるわけないのに。
おはようございます。タナボタばんざいです。
きょうはへっぽこ内科医バージョンでお届けいたします。この頃感じる、140文字では表現しきれないモヤモヤをnoteでいっくぞー!
この頃ネット上ですごく目につく広告コピー、気になりませんか。
「〇〇分の習慣で…」
「□□にちょい足しするだけで…」
「△△人では常識!」
これらの見出しに共通するのは「すごく耳寄りな情報を、あなただけ知らずにいるんですよ」という半ば脅迫めいたあおりです。
そして、これらの広告が匂わせている「効果」は一番多い年齢層、40代から50代の悩みに集中しています。
例えば、美白。痩身。老眼。白髪。
ついクリックしたくなるのが人情というものでしょう。
わたしもしてみた。(したんかい)
そうするとどうでしょう、驚きの新習慣とやらは全く出てこないまま、ひたすら写真や余白の多い記事を読み進めつつスクロールをせねばなりません。そして、クリームやサプリや器具の広告がおもむろに始まるのです。
新習慣どこいった💢
チェックしてしまった後は延々ブラウザの隅にその広告が出続けるのでいちいち「不適切な広告として報告」するのも大変!でも俺はやりおおせたぜ…がんばりすぎて、この記事を書くに当たって例に引きたいのにぜんぜん見当たらないほどに…
さて、わずか数分の習慣で劇的改善って起こるのだろうか。
例)1分間の洗顔後の〇〇だけで、1週間後にはお肌の頑固な××がスッキリ!
〇〇が「高濃度のキッチンハイターに顔を浸す」でもないかぎり、まずない。お肌のくすみ、シミの元であるメラニン細胞は真皮の奥底、基底膜の上に存在し、そこで作られたメラニン顆粒は皮膚の浅い方へだんだん上がってくる。
ほら、よく見るこの図ですよ。この基底膜直上から表皮の角質までゆっくり細胞が上がってきて、はがれおちるまでの所要日数、28日。1週間後にこれらをごっそり消し去ろうと思うなら、皮膚をごっそり剥いでしまわないと無理。なんの拷問だよ!
ついでながら、肌に有効成分が染み込むのも、ない。
肌というのは外界の刺激から体を守る大きなバリアーだから、めったやたらなものを通さないようにできている。
皮膚でいうと、「表皮と真皮の境界あたり」とざっくりご理解を。ここに、強固なバリアーがあって体液をのがさず、外からの侵入を許さず、という「タイトジャンクション(tight junkction)があるざんす。滅多なもんが体に入ってきて、そいつに毒性があったりアレルギーおこしたりしたらシャレならんもんな!皮膚の総面積は成人で1.6㎡。結構広い。体を外界と区切るバリアである皮膚、1.6平方メートルがザルだったら困る。
ほんの数分の習慣を取り入れるだけで体重がおちる、と思わせるような(この曖昧な表現については後ほど述べます)広告も多々見る。はい、まずない。
人間の体は、基本「現生人類」として確立した石器時代以降、約5千年前の生理を未だキープしている。少々のマイナーチェンジはあるけれど(例:アゴが細くなった・親知らずが生えなくなったなど)基本的なスペックは変わっていない。私たちの体は、5千年前の暮らし向きに作られている。それはどんな暮らしかというと、
野山を走り回ってウサギやイノシシを狩り、木の実を集め、小川の水を飲む生活。そしてちょいちょい食うや食わず。
考えるまでもなく、今の私たちの生活と大きくエネルギー収支が違うことがおわかりになるだろう。特に日本人の体は(無論例外もあるけれど)この「食うや食わず生活」に特に適合した体をしているので、過食飽食にとても弱い。もちろん運動不足にも。
今当たり前にしている私たちの生活はここ30年〜50年の間に得られたものだ。自動車に乗り、洋食があたりまえになり、コンビニ、ファミレスが充実した暮らし。はい!ここで、そんな「新しい暮らし」と「糖尿病」が見事にシンクロしたこちらのグラフ、ご覧ください。
1日に摂取する総エネルギー量はここ50年余りでほとんど変わっていないことにご注目ください。何が変わったかというと内訳が変わったのだ。赤い折れ線グラフ、それは脂肪。脂肪の摂取量が格段に増えた…よく「揚げ物なんて滅多に食べない」とおっしゃる方あるんだけど、肉、洋菓子、バターにクリーム、揚げせんにおかき。これ立派なあぶらもの。
糖尿病こそ発症せずとも、ふくよかになってしまったり検診異常が出てしまったりした原因がこのように様々な生活習慣が幾重にも影響した結果なのだから、
たかが数分の習慣で改善させるのは大変難しいのは想像に難くない。
しかも原因となった生活習慣がそのまま維持されているならなおのことだ。
世の中は高齢化社会。そして、経済的に活発に活動する高齢者は「元気でありたい」同じく金銭的に余裕がある中年層は「わかわかしくありたい」そして、全体的に「やせたい」との願いを熱く胸に抱いている。
不景気の昨今、業界が新しい市場として注目するのは当然の流れだろう。そして競争が過熱する。すこしでも耳目を引くためにキャッチコピーが練られる。
「●●するだけで!」
「◉パーセントの日本人がしていない習慣!」
「キャーすごい!」
「〇〇がドバドバ出る」
本屋に行くと平積みになっている本はみんな居丈高だ。
「〇〇するのはやめなさい」
「今すぐ●●しなさい」
言霊、という言葉があるが、こんな言葉ばかり目にしていたら、ココロが一日中ざわざわして落ち着かなくなってしまう。
さて、そんな広告を見るとき、気をつけて見て欲しいポイントがある。
その1は「効く」「治る」の文字はない。行間を読んで想像しない。
効く、と言っていいのは「薬」の広告だけで、一般的なサプリは「食品」に分類されるため広告で「治る効く」をうたってはいけない。「治る効く」製品なら、薬として売らねばならない。ところが薬は厚生労働省の承認がいるし承認のために幾重にも臨床治験が必要だし開発費も莫大なものがかかる。だから、世の企業はサプリを売るのだ。サプリは治験も承認もいらない。作って、売るだけでいい。お手軽である。「効く」って言えないのに?そう、そのかわりに彼らは広告文の行間に効果を「匂わせる」。
「飲めば、すっきり!」とあるのにちっとも痩せないので問い合わせたら返答が「お財布の中身がすっきり致します」…という笑い話があるほどだ。日本人は特に自分の希望するように行間を読んで解釈する傾向が強いが、そこを広告は上手についてくる。
その2は、「愛用者の感想」が載っていればインチキ広告の証のようなもの。
もともと薬でも効果の出方は個人によって差が出る。あくまで「食品」の健康食品やサプリならなおさらのはずだ。ある人には涙が出るほどの効果があったかもしれない。そこに疑問を挟む気は無い。だけど、同じ効果が他の人にも現れる可能性は低い。そもそも、その「愛用者の感想」が実在する人物の真実の声かどうかの保証は何も無い。
その3。いっそ見ないのが一番。テレビを消して音楽を聴こう。靴を履いて外へ出かけよう(暑くない時間帯でね)。
健康への道は意外にシンプルだ。
上手に食べ、ほどほど動き、タバコはなしで、お酒はそこそこ。
そして毎年健診を。
読んでくださったあなたのご健康を、お幸せを心よりお祈りしております。