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「建築本あるある」のオンパレードでぜひ参考書にしていただきたい -長谷川堯 『神殿か獄舎か』 : まったり建築論批評 #4

まったり建築論批評の第四弾は、長谷川堯の『神殿か獄舎か』である。

え、やっぱり知らない?前回に引き続き?まぁそれもそのはず、とうとうこのシリーズに建築評論家なる人が登場したのだ。これまでの作家はどちらかといえば建築設計を自身の仕事の中心においていた人たちであるのだが、今回批評させていただく長谷川堯はもっぱら評論活動を中心にしている人であったようだ。これは建築学科を卒業していても、知らない人は多いと思われる。

じゃあなんでこの本を選んだのか。その答えの一つ目は、著者が日本人だからである。これまで、コルビュジェ、ルドルフスキー、ロバート・ヴェンチューリの著作について批評してきたが、さすがにそろそろ日本の建築論についても批評したい。それにはやはり日本人の著書を対象とするのがベストだろう。そしてこの著書はもちろん日本建築を対象としている。

次に考えたのは、歴史的にこれまで論じてきた著作と同じくらいの時期に出版されたものがいいだろうということだ。つまり近代であり、近代建築を扱ってくれていると、これまでの著書と比較できてありがたい。あまり近代から離れてしまうとこれまでやってきたこととかけ離れすぎるので、ちょっとそれは避けたかった。

さらに、この著書の中にこれまで扱ってきたコルビュジェの『建築をめざして』を引用している部分があるのも見逃せない。日本建築において「抽象芸術論」が展開されていることに対し、

「これはいわば建築のキュビズム論であり、セザンヌの造形理論の建築論への転化である。しかもこれは一九二〇年から二一年にかけて、ル・コルビュジエが自分の主催する雑誌”レスプリ・ヌーボー”において展開し、後に『建築へ』(VERS UNE ARCHITECTURE 1923)と標題をつけた著名な本の中にまとめた新しい建築論、つまり「ピュリスム」の極東におけるほとんど同時的な展開になっている。」

pp. 53-54

と、日本近代建築史におけるその立ち位置も論述している。これまで扱った文献を引用しているのには、個人的にとうとうここまで来たか感がある。

そして最後の理由は、この本がこれまでこの「まったり建築論批評」で扱ってきた問題点的要素をいくつも含んだ作品だったからである。ただ、本音を言えば最初はそうでないことを期待したのだ。なぜなら先ほども述べたが、これは今まで貶してきた「建築家先生」の書いたものではなく、建築評論家なる人が書いたものだからだ。個人的にはあの「何言ってるんだコイツは」って思う人は、大学にも属している「建築家先生」が多く、その学生にしたり顔で授業をしていることがそもそもの引き金になっている可能性があると踏んでいる。ただ、それはすごいと言われている建築設計作品を残しているからこそ起こり得ることかとも考えられた。というか私が学生の頃はそのような教授が人気で、熱心な信奉者がいたものだ。今回検証したいのは、そうでなくてもあんなよくわからない言論は許されているのか、ということである。ちなみにこの本の著者である長谷川堯は武蔵美の教授であったようだ。

この『神殿か獄舎か』は、その長谷川堯の著作の中でも初期のものを3つ含めたものである。それぞれの題名は以下の通りだ。

  1. 日本の表現派 ー 大正建築への一つの視点

  2. 大正建築の史的素描 ー 建築におけるメス思想の開花を中心に

  3. 神殿か獄舎か ー 都市と建築をつくるものの思惟の移動標的

これまで通り題名からはなんのことやら良くわからないが、ちょっと詳しくしていこうという意気込みは感じられる。まあまだふんわりとはしているが、これはこれで論文のタイトルになりそうなものである。明らかにこれまでの『建築をめざして』や『建築の多様性と対立性』なんかとはまず異なる。また、このSD選書の題名ともなっているものは3であり、その前に何やら「大正建築」について書かれたものが2つあるということが読み取れる。実際に読んでみると、この「大正建築」に関する2つと「神殿か獄舎か」では少し方向性が異なるので、その部分においては本文で説明することにしよう。

さあ、それではいつも通り批評を始めるとしよう。これまでは海外の言語で書かれたものの翻訳本を使っていたために、最悪「それって翻訳揺れでしょ」とか言われる可能性はあった。批判しているところが小さいところだと尚更だ。しかし、日本語で書かれたものを扱う今回はもうそんなことは言えないはず。ぜひ楽しみにしてほしい。

この書評は、長谷川堯著の『神殿か獄舎か』SD選書247、2007年第1刷、2009年第二刷、鹿島出版会 を文献とする。本文中において引用ページしか書いていないものに関しては、すべてこの本からの引用である。


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