「映画日記#2」〜変わらないけど変わりゆく日常〜Perfect days
どうして、日本をこんなに綺麗に撮れるのだろうか。
外国の監督が描く日本の風景には独特の色合いを持った作品がある。
古くは惑星ソラリスだったりブラックレインだったり、やはり感じ取る
ものが違うのだろうか。
ヴィム・ヴェンダースの描く東京はどこか無機質だけど美しい。
象徴的に描かれているのは何度も登場する首都高速。
日常の象徴のように何度も出てくる。
僕がヴィム・ヴェンダースに出会ったのはもう30年以上前のこと。
当時僕はアメリカに語学留学をしていた。どうせなら日本人がいなさそうな
ところを選んだつもりが、まあ考えることは同じで結構な日本人がいた。
人口1万人、そのうち学生が5千人というテネシーの片田舎。
それなりに英語を勉強しようと意気込んで出かけたが、
いろいろと嫌なことが多く半年で街を出た。
南部の田舎町ということでかなり閉鎖的なところだった。
表立っては差別を受けるわけではないが、やはり感じてしまう。
そうなると日本人同士で集まることになり、さらにその中で
差別の生け贄が生まれるわけです。小さなことがきっかけで
日本人社会から無視される日々が続いた。
結構きつかったけどいいきっかけと考えて他の国の留学生と仲良くしたり、
最初からそういう日本人社会と距離を置いていた人たちに可愛がってもらってなんとか過ごすことができた。
その辛い日々を支えていたのは、旅の計画。学期の合間にニューヨークに
長距離バスで行こうと計画をしていたのだ。そしてニューヨークで
やりたいことの一つがなぜか映画を観ることだった。
インターネットがない時代の情報収集は当然紙媒体になる。大学のと図書館には
アメリカの有名新聞が揃っていた。その中にThe Village Voiceという週に一度発行される新聞も含まれていた。グリニッジビレッジをベースにニューヨークの最新カルチャーシーンなどを得意としていた有名な新聞だ。
郵便で数日遅れで届く新聞を開いて映画のページを探す。いろいろな映画の広告が掲載されていたが、僕の目を引いたのは”Wings of Desire”という映画だった。派手な広告ではないけど毎週のように「公開何周目!」という文字が踊っていた。なぜかこの映画を見たいと強く惹かれて、毎週まだ広告が出ているかなとドキドキしながらページをめくっていた。
ドイツ語音声、英語字幕だったはずでほとんど内容はわからなかったけれど、
Perfect Daysにも通じるとても静かで印象に残った映画だった。
日本でも「ベルリン・天使の詩」としてロングラン上映されたこと、監督がヴィム・ヴェンダースと知ったのは日本に帰国してからだった。
ずっとヴェンダースは気になる監督で何度か旧作を含めて見に行こうと試みたがなぜか縁がなかった。なので、ビデオで見たブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
を除けば2作目の彼の作品となる。
前置きが長くなり過ぎたが、映画は非常に良かった。
とにかく役所広司が話さないと聞いていたが開始後1時間ほとんど喋らない。
多分まともに他人と意思疎通を試みたのは迷子の子どもに声を掛けた時だけでは
ないだろうか。
彼の日常と彼のそばを通り過ぎる人たちがただスクリーンに映し出されていく。
先ほど挙げた子ども、神社の境内でお昼時によく出会うOL、柄本佑演じる若い同僚、姪、妹、行きつけの小料理屋の元夫、ただ通り過ぎていく
物事の説明はほぼ何もなく、何かが解決することもない。ただ日々が流れる。
そんな毎日を印象的な音楽と役所広司の圧巻の演技で見せていく。
しかし同じように過ぎる毎日も少しずつ変化はある。
ほとんど人と会話をすることのない役所広司演じる平山にも喜怒哀楽や
今まで生きてきた過去があることを観客に伝えていく。
それがラストシーンにすべて集約されている。
見終わってからもじわじわとと心が暖かくなるそんな映画でした。
考察やネタバレも出回っているので幾つか読んでみました。
なるほどと思うことや気が付かなかったことも多かったけど、
観る人の数だけ感じ方があるそんな映画だと思います。
アカデミー賞逃しちゃったので、終映になっちゃうかも分かりませんが
暗い映画館でまったりと鑑賞するのが似合うそんな映画でもあります。
アカデミー賞は残念だったけど、受賞した「関心領域」のことは今回
初めて知ったのでこちらが公開されるのも楽しみに待ちたいと思います。