エクストリーム出社した
医療系の研究施設で働いている。僕は短期転勤族だ。今の事業所は11ヶ所目。問題なく業務は進んでいる。日々の暮らしも平穏。ライフワークとなっている写真も好調。最近になって行動範囲をさらに広げたが、それが功を奏している。
朝焼けを拝める山に登った。登ったと言っても車でだ。駐車場がほぼほぼ山頂。そこから遊歩道を10分も歩けば展望台に着く。有名なスポットだから人も多い。野生動物に襲われるリスクも低いと思われた。
だが、想定以上に人が多かった。時間は日の出前30分。展望台はカメラマンで満員。しかたなく散策路を周りながらの日の出を拝んだが、それでも最高だった。朝の早い時間に撮影した写真はどれもすばらしく、お気に入りの一枚も数多く撮れた。
長距離ドライブも敢行した。慣れ親しんだ車は処分してしまったが、新たな相棒となった車とも、だいぶ仲良くなれたと思う。いつもは下道で行くも、この日は高速道路を使った。それほど遠くへ一気に行きたかったのだ。
そこは北海道を思い出させる風景が広がっていた。僕はそこを何時間も歩き続けた。僕のカメラは67中判フィルム機。重さは軽く1kgを超える。それを抱えての散策だったが、苦にはならなかったのである。
広角レンズで引き算ができる。それが嬉しかった。天気が良い。空は青色。都合よく千切れ雲が浮かぶ。最高だ。この広い大地を撮影するには最適な日と思えた。
『死ぬまでに行きたい! 世界の絶景』で有名になった場所へも足を運んだ。たしかに絶景だった。撮影が景色に負けそうなくらい。朝焼けも撮った。すごかった。やはり日の出前がいい。僕は夕焼けよりも朝焼け派だ。しかも太陽は隠れていた方がいい。あの空のグラデーションが好きなのだ。
写真のための遠出が多くなったが、近場も攻めている。休日だけではなく、平日に出かけたこともあった。その日は夜中の1時に家を出た。空いている国道を北上して、工場が立ち並ぶ港を目指したのである。
深夜の工場はきれいだった。何枚も撮りながら、辿り着いた場所は港の埠頭。ここで朝焼けを待つ。周りには数人のカメラマン。平日の早朝でも人が訪れる人気のスポットのようだ。
撮影は終わった。太陽も高度を上げてくる。そろそろ帰らなくては。コンビニで朝食をとり、向かうは仕事場。そのまま出社した。エクストリーム出社というやつである。
さすがに午後は眠たくなった。昼休みの昼寝では足りない。なんとか午後を乗切り、無事に終業。結局、朝活をしたことは誰にも喋らなかったが、気が付かれることもなかった。そのことが楽しかったのである。
撮った写真はお気に入りの1枚になることはなかった。被写体が悪かったわけではない。僕の腕不足だ。だが撮影は楽しかった。平日の朝活は妙な楽しさがある。おそらく背徳感もあるのだろう。
『仕事は適当、遊びは本気』。これは僕のふざけた座右の銘である。この日の朝活は、まさにそれだった。僕にとって、仕事との関わり方はこれぐらいが丁度いい。またいつか、エクストリーム出社をこっそり行うと思う。