土砂降り散歩
朝五時に起きると雨が止んでいた。スマホのアプリで調べてみると、十五分後から雨が降るとあった。梅雨真っ最中の貴重な雨上がりの朝。オレは今のうちだと思い、素早く靴を履くとジョギングに出かけた。
西の空にはどんよりと分厚い雲が見えるが、真上の空はところどころ薄い雲で、青色が少しだけ見える。オレは大きめの透明ビニール傘を手にし走り始めた。
東の山は前日からの雨で洗われた空気のおかげで、くっきりと稜線が見て取れる。田植えが終わったばかりの水の張られた田圃には、青鷺や白鷺が数羽立っている。オレは傘の柄を右手首にかけ、てれてれと走っていた。
二十分くらい走るといつも折り返している場所につき、引き返す。山が薄雲に覆われてきた。それでもオレは急ぐわけでもなく同じペースで走る。
東の山を見ながら走っていると、あきらかに雨が降っているところと、降っていないところの境界線が見えた。
その境界線はこちらに向かって、どんどんと景色を飲み込んでいく。そして雨に追いつかれる。一気に土砂降りになる。傘を刺す。東の山は白い靄に包まれてほとんど確認できなくなっていた。
鷺たちは土砂降りの中、田圃に静かに立っている。
オレは一瞬にしてできた水溜りをバシャバシャと気にせず走る。
ビニール袋に当たる雨音はうるさいが、心は静かだ。