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信じないでください、嘘っぱちです【ショートショート#60】

「あなたは何歳ですか? え? 一九八四年の三九歳ですって? それって本当ですか? もっと若く見えますけど。もしかして親が言った生年月日を間に受けて信じていませんか? 戸籍を信じているんですか? それって真実なんですか? それが真実ってどうやって証明するんですか? 私はそんなもの信じていませんよ。親の言ったことも、お上が言ったことも、何もかも信じていません。まったくもって疑わしい限りです!
 古事記が史実かどうか、聖書が史実かどうかってのと同じくらいに疑わしい。いえ、別に古事記や聖書を疑っているわけではありません。たとえとして言っているだけです。確かに私は無宗教だし、日本人なのに古事記も日本書紀もマンガですら読んだこともありませんがね、あ、でも、ブッダの話は手塚治虫のマンガで読みましたよ。ああ、そんなことはどうでもよくて、いや、手塚治虫のブッダの本は素晴らしくてどうでもいいものではありませんよ、本当に。話が進みませんね、すみません。
 え? 親や国があなたの生年月日を偽ってどんなメリットがあるのかですって? あなた、わかっていませんね。メリットがあるとか、ないとかそんなことはどうでもいいのです。メリットがある、ないで動いていないんですから。あなたも含めそんな単純なもので人は動いていないのですよ。自分でもまったく気づいていないかも知れませんが、そんな単純なものではないんですよ、というか、単純すぎて単純じゃないんです。単純すぎるっていうのは、全てのやることなすことに意味なんかないのに、意味があると勘違いしているから、勘違いしてしまうんです、これがまた。
 私の言っていることが支離滅裂で理解に苦し見ますか? もちろんそうだと思います、だって、私もそうですから、でも、そうなんですよ、これが真実なんですよ。いや、この世に真実なんてありえないんですが、間違わないでください、信じないでください。それでも確かに言えることは、あなたの生年月日は嘘っぱちということです」

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