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存在しうる意思【ショートショート#71】

 「おはよう!」
 「おはよーう」
 挨拶してきた貞子に私の口が応えた。僕は「よーう」と伸ばしたくなかったが、口はそうは言わなかった。いつも僕の身体は僕の意思とは関係なく反応した。僕はこの身体にいるのにいないようなものだった。僕とは違う意思があって、身体は毎回そいつの考えや感情を採用していた。僕とは違う意思を感じたことはなく、会話もしたことがなかった。だからこの身体に僕以外の意思があるのかは、本当はわからない。ただ、この身体が僕の意思とは全く関係のないことを言ったり、行動したりしていた。
 これは僕だけの話なのだろうか? もしかしたらみんなそうなのかもしれない。僕の身体と挨拶した貞子にも、実は僕のような意思がいるのかもしれない。もしそうだとしてもそいつとコミュニケーションが取れないから、お互いの存在を確かめることはできない。
 意思は僕以外にも存在しているのだろうか? 僕には僕以外に意思が存在していると確認が取れない。この世界の意思は僕だけなのだろうか。

「この文章を呼んでいるあなたの中に、もしかしたら僕のような意思が存在しているのかもしれない。でもあなたはその意思を確認することはできない」

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