ご当地グルメ003 『満』
詳しくは知らないが、僕の祖父母は戦時中満州にいた。戦後、命からがら日本に引き揚げて来たらしい。それ故に、我が家で餃子といえば『水餃子』であった。食卓の真ん中に大鍋を置き、茹で上がった手作りの餃子をオタマで掬い取りポン酢につけて食す。餃子の本場、中国では焼き餃子よりも水餃子が主流らしい。満州で倣ったこの水餃子が我が家における餃子であった。ただ、日本人の主流である焼き餃子も満州からの引き揚げ者によって水餃子をアレンジして作られたものらしい。我が家ではそのままストレートに水餃子だったわけだ。初めてお店で焼き餃子を食べた時は衝撃的であった。
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満州由来のグルメとしては、前回ご紹介した『盛岡じゃじゃ麺』も実はそうらしい。( https://note.com/tamon_tamon/n/nf5b5a526e802 )
満州で食したジャージャー麺を白龍創業者が日本人仕様に改良したものが盛岡じゃじゃ麺だそうだ。
今回、ご紹介するご当地グルメも満州由来のものである。その名も『満州にらラーメン』。
モロである。「あれって実は満州から日本に持って来たものらしいよ」などとうんちくを挟む余地なきモロである。競泳用のパンツを履きながらBOKKIしているようなものだ。「なんかBOKKIしてるらしいよ」ではない。BOKKIしているのである。くっきりと。突き破る勢いで。
岩手県花巻市にある『元祖満州にらラーメン さかえや本店』。1960年創業の老舗である。
「花巻」と聞いて「野球」を思い浮かべる人間も多いだろう。菊池雄星選手、大谷翔平選手と高校野球界を賑わせ、プロ野球界を賑わせ、今や世界を賑わせているメジャーリーガーを二人も生み出した『花巻東高校』。今年も2年生にしてプロ注目のスラッガー佐々木麟太郎選手擁する本チームの活躍に期待してならない。春の王者大阪桐蔭高校を倒して、岩手県に東北初の深紅の大優勝旗を持って帰って来てほしい。
しかし、もう少しコアな野球好きであれば、『花巻』『野球』と来たら『花巻東』だけではないはずだ。そう。『富士大学』である。
西武ライオンズの山川穂高選手(2018、2019本塁打王)、外崎修汰選手(2020ゴールデングラブ賞)をはじめ、他にも多くの若手有望株を送り出している名門野球部である。2014年から2018年秋にかけて北東北大学野球リーグ10連覇、明治神宮大会でもベスト4に入るなど大学野球界にその名を轟かせている北東北の雄。その富士大学も花巻なのである。
『さかえや』はそんな富士大学のほぼお隣。ある意味、富士大生にとっては学食のような存在である。メニューもガッツリのスタミナ系が多く、種類も豊富。学生にはたまらないお店だ。
しかし、ここは量のみで勝負しているお店ではない。むしろ、質の高さこそが魅力のお店なのである。
今回、僕が注文したのが『満州にらワンタンラーメン(しょうゆ)』の『肉増し』と『半ライス』である。本当ならば、『満州にら餃子ラーメン』を注文したかったのだが、残念ながら餃子は品切れとなっていた。富士大生に先を越されてしまったのだろう。もしかしたら未来のホームラン王かもしれない。何れにせよ若人の胃袋を満たしたのならば仕方ない。
それならば定番の『満州にらラーメン』で良かったのだが、気づけば『ワンタン』を注文していた。しかも『肉増し』で。己の食いしん坊万歳的気質にやられてしまった形だ。幾つになっても我が胃袋的思考は学生時分そのままである。余裕なんてありゃしない。いつだってカチカチでギンギンのチェリーボーイそのままである。
コク深く酸味の効いたスープに、にらとニンニクの芽のスタミナ感溢れる力強き風味とシャキシャキとした食感、そして豚肉のジューシーな脂身の甘さとが絡み合い、見事な連携プレーを魅せ、細めの麺をガッチリ援護。さらにピンチヒッター的要員であったワンタンのモチモチとした食感がきっちりと追加点を叩き出す。細かく刻まれた紅生姜の風味も確実に仕事をこなしている。見事なチームワークである。高級食材という名のエリートプレイヤーは存在しない。だからこそ、一枚岩となった団結力はまさに全員野球を体現し、エリート集団の六大学や首都大学と遜色ないどころか五分以上のパワーを発揮しているのだ。しかも一度だけでなく常連的に。
満州にルーツがあるものの、北東北の誇りを感じる唯一無二の逸品。それが『まんにら』こと『満州にらラーメン』なのである。
しかし、盛岡じゃじゃ麺にしろ、今回のまんにらにしろ、餃子にしろ、なぜ満州由来のグルメはこうも中毒性が高いのだろうか。恐るべき満州。敬意を込めて『お満州』と呼ばせていただきたい。いや、敬意プラス親しみを込めて『おまん』と呼ぼう。一度知れば即中毒。おまん。恐るべし。