見出し画像

映画ができるまで 〜アイデアの集め方2〜

記事を見ていただきありがとうございます。
前回に引き続き、映画「冬のほつれまで」のアイデアの集め方について書いていきます。

まだ前回の記事を見ていない方は下のリンクからご覧ください↓

前回は日常の観察をすることでアイデアのもとを集めることを紹介しました。今回は前回の内容に付け足す形で、社会を知ることでアイデアを集める方法を紹介します。

世の中の出来事をきちんと自分なりに調べ、知った上でそれを表現に落とし込むと、自分の作る作品や映画がより奥深いものになります。
より多くの人にメッセージを発信したいと思うのであれば、社会のことを知っていて損はないかと思います。

1.なぜ社会を知るべきなのか

ところで、みなさんは何か創作をしたことがありますか?
映画はもちろん、イラストや漫画、音楽、映像、ジャンルはなんでも構いません。一度くらいは誰しもやったことがあるのではないでしょうか。
その場合、創作を始めたきっかけの多くは、好きなアーティストへの憧れだったり、純粋に絵を描いたり楽器を弾いたりするのが好きだったからだと思います。

僕もその一人でした。
僕は小学生の頃、漫画を描くことがすごく好きでした。そのきっかけになったのが、小学生男子なら誰もが読むであろうコロコロコミックに連載されていた「絶体絶命でんじゃらすじーさん」です。

画像1

この漫画は、主人公のじーさんが世の中の危険から孫を守ろうと奮闘する、はちゃめちゃで破天荒なギャグ漫画です。
この作品を読んで僕は漫画を描きたい!漫画で人を笑わせたい!と本気で思うようになりました。
それからというもの、じーさんそっくりのキャラクターを主人公にしてオリジナル漫画を描き続けました。小学生ながら単行本に製本して30巻分ほど描いていました。とんでもない熱量です。

この頃はもちろん、既存の作品を真似しても誰かに作品を販売したりするわけではないので全然問題ありませんでした。自分の思うまま、自己満足で描いていけば良かったのです。

ですが歳を重ねるにつれ、世の中に作品を発信していきたいとなった時、弊害が生じてきます。
例えば既存の作品の真似をすることは、作品を作る上でタブーになっていきます。著作権の問題です。
ここでは詳しくは語りませんが、誰かの著作物を盗作して世に出すと、法的にも裁かれますし、現代だとSNSなどで社会的にも裁かれてしまいますね。
そこでオリジナルの作品を作ろうということになるのですが、なかなかアイデアが浮かばず思い通りに作れなかったりします。

その原因として、自分の人生経験だけで考える作品の内容、テーマ、コンセプトには限界があることが挙げられます。
例えば大学生がなにか作品を作ろうとしたら、たった20数年間の中から作品の種となるものを見つけ出さなくてはいけません。家族や恋愛、友情など色々あると思いますが、なかなか学生という枠からはみ出すのが難しいと思います。

そのためにも社会のこともきちんと知り、それを作品の中に少なからず取り入れる必要があるのです。


ここで皆さんに質問です。
かの有名な画家、ピカソの「ゲルニカ」は何を題材に描かれていますか?
おそらく小学校や中学校の美術の教科書でさらっと聞いたことはあると思います。

画像2

そうです。戦争です。
ピカソはこの絵を通じて、ゲルニカ市で起こった爆撃の悲惨さを伝えようとしました。初めゲルニカはなかなか評価されませんでしたが、第二次世界大戦後に再評価されています。

他にも社会情勢や社会問題を取り入れた作品は世の中に数え切れないほどあります。
例えば、是枝監督の「万引き家族」では日本の貧困問題を題材にし、それを家族という普遍的なものに置き換えて丁寧に描いています。

こうした有名なアーティストや映画監督たちも社会との関わりの中で見つけた疑問をアートや作品、映画という形で表現しています。

だからこそ作品を作る土台として、社会のことを知るべきなのです。

ここまで作品を作る上でなぜ、社会を知ることが大切なのか説明してきました。ここからは僕が社会の中でどのような出来事を知り、学んでいったのか書いていこうと思います。

2.きっかけは身近な人の死

まずはじめに僕は人の死について漠然と考えるようになりました。
そこから社会で起きた様々な事件のことを調べ始めました。

なぜ考えるようになったかというと、身近な人たちの死を体験したからです。大学時代、特に20歳を超えてからいままで大切にしていた人たちが次々と亡くなりました。
4歳の頃から一緒に暮らしていた愛犬が亡くなり、また遠く九州で暮らしていた祖母も亡くなりました。子供の頃、毎年家族旅行で九州に行くと祖母は愛情深く接してくれました。
自分自身は子供のままのつもりでしたが、死を実感するにつれ知らずのうちに成長してしまったのだと現実を突きつけられました。
身近な人の死を実際に経験した事で、死とどう向き合うか、どうやって受け入れて生きていくか、そんなことを考えるようになりました。

この経験から人の死を題材に短編作品を制作しました。「かたちなき唄」というタイトルで、大学学部時代の卒業制作として発表したものです。

この短編映画は、おばあちゃんの歌が入ったカセットテープを失くした小学3年生の亜希が、夕方に懐中電灯を持ってお父さんと一緒に探しに行く物語です。
「ここにはないけど確かにある」をテーマに掲げ、たとえ何かを失ったとしても人との思い出だったり経験が心の中にあればそれでいいじゃないかという事を作品に込めました。
しかしこの頃はまだ身近に起きた出来事を中心に作品を構成したため、納得のいく作品とはなりませんでした。作品と社会とのつながりを考えていなかったのが原因の一つだと思います。

この作品を作ったことで、死とどう向き合うのか、どう受け入れて生きていくのかということを自分の考えだけで結論づけるのは非常に困難であると痛感しました。

そのこともあり、大学院に進学してからは世の中の事件やニュース、出来事を意識的に取り入れるようにしました。
それらの問題を受けて自分自身はどう考えるのか、自分なりの解釈に落とし込んでいきました。

3.社会を知る手段

そこで僕は主に3つの手段を使って情報を取り入れました。
・インターネットを見る
・本を読む
・直接現地に行く

3-1.インターネットを見る

まずはインターネットで興味のあるものをひたすらネットサーフィンしました。僕はもっぱらYouTubeでインプットしました。YouTubeにはニュース動画やドキュメント映像、政治系のYouTuberがいたりするので情報収集するのに十分活用できます。
映画の企画を考えている当時は、ちょうど元号が平成から令和に変わる時期だったので天皇制度に強い関心を持ちました。そこからYouTubeで関連する動画を見始めていくと、天皇が神として崇められていた第二次世界大戦のことにたどり着きます。
動画を通じ、日本国を守るために自らの命を捧げた人たちのことを知ると、とてもやるせない気持ちになりました。死ぬことが誇るべきことなんて想像を絶することです。特攻隊や原爆についてのドキュメンタリーを見て、その時代に生きていた人たちの言葉を聞くことで、死との向き合い方はもちろん、そこまで突き進んでしまった世の中の体制そのものに問題があったのではないかと考えるようになりました。以降、様々なニュースを見ていくのですが、それについては次回の記事で詳しく書いていこうと思います。

3-2.本を読む

次に興味のある本を読み漁りました。ジャンルは問わずに小説から経済学、心理学と自分が読んでみたいと思ったものを買って読んでいました。そこから参考になりそうな言葉や考えを吸収していきました。
その中でも今回の映画を制作する上で多少なりとも影響を受けた本が、宇宙学者カール・セーガン博士著書「cosmos」です。

画像3

この本では、セーガン博士が初期から取り組み続けた太陽系惑星の探求がつづられています。また相対論、恒星や銀河の成り立ち、ブラックホールなどに触れながらビック・バン宇宙論についても書かれています。
僕がこの本を読んで心惹かれたのは、「自然には循環がある」というヒンドュー教の考えをもとに宇宙の誕生以前には宇宙の死があったのではないか、そのような無限の繰り返しが起きているのではないか、という記述でした。
死をマイナスとして捉えるのではなく、次の生命に繋ぐための原動力としてプラスに捉えているところに非常に感動しました。
宇宙やボイジャー計画に興味を持って読み始めた本でしたが、結果的に輪廻転生という死生観の考え方に出会い、僕にとって大切な1冊となりました。

3-3.直接現地に行く

続いて僕は、直接現地に行って確かめることをしました。「百聞は一見にしかず」という言葉があるように、自分の目で見たほうがより直感的にその出来事と向き合えると思ったので、行動にうつすことにしました。
2019年の夏、僕は初めて広島の原爆ドームに行きました。学校の教科書やテレビで何度も目にしたことはありましたが、やはり一度は日本人として見ておかなければという想いがありました。インターネットで戦争のことを調べていくうちに使命感に駆られたというのも現地に行った理由の一つです。

実際に原爆ドームに行って感じたことは、本当の当事者にならないとその人達の苦しみや悲しみを完全に理解してあげられないということです。平和記念資料館で見た遺品や画像の情報はとてつもない重みを持っていました。ですが頭では戦争は良くないことだと思っているにも関わらず、どこか他人事のように感じている自分がいました。そんな考えを持つこと自体に恐怖を感じたりもしましたが、そこに人間の脆弱性があるのかなと考え方を改めました。私たちは醜くて欲望的で弱い生き物なんだと認める。それでも考えることを続けていけば、少しは世の中が良くなるのではないかと結論づけました。

その当時の映像をYouTubeでアップしているのでもし興味があればご覧ください。概要欄にその日書いた日記も掲載しています。

4.まとめ

このようにして僕は社会の出来事を知り、自分なりの解釈で考えを蓄えるようになりました。初めは自分の身近なところで起きた出来事からのスタートでしたが、興味のあることに対して深く掘り下げていくと予想もしない発見があったりします。そのため知りたいという欲求に素直に従い、行動することが大切ではないかと思いました。

しかし初めから完璧に実践していくのは難しいことかもしれません。だからこそ前回の記事にも書いたように、毎日コツコツと日記を書くなり記録を残すなりしながら、続けていくことが大切なのではないでしょうか。地道な努力こそ、アイデアを生み出すための一番の近道だと思います。
僕もまだまだ半人前ですが、この記事を読んで少しでもタメになっていただけるようにこれからも頑張ります!


次回はアイデアの集め方の【全てを疑う】について書いていきます。アイデアの集め方シリーズの最後になりますので是非お楽しみに!


p.s.
今回の記事に書いている、映画「冬のほつれまで」が武蔵野美術大学優秀作品展にて上映されています。

上映の詳細は以下の通りです。↓
令和元年度 武蔵野美術大学 卒業・修了制作 優秀作品展 【一般公開】
会期 2020年7月5日(日)
   2020年7月12日(日)
   2020年7月19日(日)
   2020年7月26日(日)
時間 11:00~17:00 (日曜日のみ)
入館料 無料
会場 武蔵野美術大学美術館 展示室1・2・3・4・5、アトリウム1・2
参加方法 「ご来館の方へのお願い」をご覧ください。

この記事を踏まえて観ると、また違った視点から映画を楽しめるのではないかと思います。是非ご覧ください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?