マシマシ
近頃、二郎系のラーメン屋さんをいたるところで見かける。
雨後の筍のように、あっちにもこっちにも二郎系が続々と出店しているのだ。
数ヶ月前までは、よくもまあそんなに客が集まるものだなあ、と半ば呆れるような気持ちで店舗脇の行列を眺めていたものだ。
私が二郎を知ったのは高校生になってすぐの頃だ。インターネットで「こんなの動物の餌だろ」みたいに言われているのを見かけた。
画像を見て思った。
うわぁ……。
やがて冷静になってからは、大食いの人とかが食べるチャレンジ系のメニューなのだろうな、などと推測していた。
10分で完食できたらタダ! みたいなやつでしょう、と。
そんな風に捉えていた私だったが、ここ数年での二郎系ラーメン屋の盛り上がりを見て、とあることに気がついた。
なんか普通に、女性もお店に並んでいるのだ。
え、いけんの?
あれって女子供の食い物なの?
そこから気になり、ネットで色々調べたところ、どうやら店舗によっては少ない量でも注文ができるらしく、女性ファンも一定数いるとのことだ。
とはいえ……ね。
だって、ねえ?
──アレっしょ?
なんて、敬遠していたのだが、先日ひょんなことから二郎系ラーメンを食べることになった。
列の最後尾に並んでから着丼までには1時間弱ほどかかった。常連である同伴者曰く、平均的な並びらしい。(ラーメン1杯に、とんでもない)
席に座ってから数分が経ったころ、寡黙そうな店主に尋ねられた。
「ニンニクはー」
もちろん予習済みであった私は、それがコール(=トッピングの受付)なのだと知っていたので
「普通でお願いします」
と堂々と伝えた。
するとどうだろうか、店主はこちらをみて顎を振るではないか。
「普通とかないんで」
いや、めーっちゃ怖い。
"この世界に、普通の人なんていません"
とか、そういう多様性の話をしているのかと思ってしまった。
まさか二郎で、自らの無意識下にある偏見が暴かれることになろうとは……と、呆気に取られてる私に、店主は続けて尋ねてくれた。
「入れるか、入れないかなんで。入れますか?」
「あ、い、い、入れます…お願いします」
といった緊張的な一幕はありつつ、やがてカウンターに届けられたそれは、私が思っていたよりもずっと小さかった。
わずかに盛られたもやしとキャベツを崩して、まずはスープを啜ってみた。
うーまっ!!!!!????!?!!
続けて、ゴワゴワとした太麺を恐る恐る啜ってみた。
うーまっ!!!?!?!!!!!!!!!
そのとき食べてみて、初めて知ったことが、二郎系ラーメンは写真からもわかるそのボリュームよりも、よっぽど味付けの方にインパクトがあるということだ。
醤油系のキレのある塩味と、豚骨系の野生味溢れるコクが、ダブルパンチで舌を襲ってくるのだ!
量が多いだけなら、普通のラーメンでも大盛りを頼んだり、極端な話2杯頼んだりすればよいだけだ。
しかし、これほどの凶暴な旨みは、確かに普通のラーメンからは得ることのできないものだろう。
量がたくさん!
ニンニク〜!
呪文がどうのこうの〜!
じゃないんだよ。
普通に味がめちゃくちゃ美味いってことを、どうして誰も教えてくれなかったんだよ。
いや、しかしこれだけ美味しい食べ物となると、誰かに秘密にしたくなるのも無理はないかもしれない。
私も今後誰かに二郎系の味を問われることがあったら、独占欲を抑えられずに、こんなふうに言ってしまうかもしれない。
「あんなのは動物の餌だよ」
なんてバカな話もあったもんで…(落語家民子)
まあなんにせよ、二郎系というのは美味しさがマシマシなのだということを、私は大人になってようやく知ったのです。
そんな気持ちを歌にしました。
それでは聴いてください。
向田民子で「マシマシ」
https://vt.tiktok.com/ZSYnMRXUW/
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