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かつて好きだった人から、唐突にLINE。

「どーもー✋元気?🍀」

びっくりして、三度見くらいした。そして、なんとも言えない気持ちのまま、未読無視し、すっと指をスライドさせてブロックした。

かつて好きだった人、といっても、まだ一年前のこと。一夜だけ関係を持った上司だった。だが、彼はそのまま転勤。私は私で転職を既に決意していて、長く続くための意思はお互いなかった。それに彼には他に相手がいた。だが私にとっては、初めて本当に好きだと思えた人だった。人生で初めて、ラブレターを渡した人だった。

当時の私がどれだけ恋に恋をしていたかは、当時のnoteを見れば一目瞭然で、私は今となっては読み返すのも恥ずかしいが、でも消去するのは当時の私を否定するような気もして、敢えて消さずにいる。

ちょうど一年前、振られたのは私の方だったはずだ。私が書いた「好きです」の手紙に、彼は「ありがとう」とLINEで返しただけだった。でも当時の私は恋に盲目だったから、彼の態度はある意味で誠実だとすら思っていた。下手に「好きだよ」とも言わず、最後まで何も言わず、私をドライブに連れ回し、帰り際には、泣きそうな顔で私の頭を撫でるばかりだった。だが、私とちゃんと付き合う気はないのにワンナイトだけはすかさずするのは、今思えばただのクズの所業で、実際彼は、どうしようもなく寂しがり屋なイエスマンなのであった。離れてからわかったことだ。いや、当時もわかっていたけれど、そんなところも好きだったのだから、どうしようもない。

そういえば、私の恋はいつも憧れから始まる。学生時代は先輩を好きになって、見れるだけで幸せ、みたいな低燃費な女だった。まだお互い大して知らない、下手したら「知人」ですらない段階から、私は「なんか良いな」と相手を気になり始めるのだ。友人には面食いだと一蹴されることもあったが、雰囲気や、言動をそれなりに見た上で、届かない恋心を持つのがセオリーだった。私のことを好きだといってくれる別の人が同時期にいたとしても、それに靡くことはなかった。それくらい憧憬は私の中で、もっとも恋心に近い位置にあると、信頼できる感情であった。

例えば美術館で、美しい絵をいつまでも目にしていたいと思う感覚。ふと読んだ小説で、ストンと言葉が心に落ちてくる感覚。あるいは初めて聴く音楽なのに、私の心の奥底の記憶と共鳴して震えるような感覚。私にとって、恋はそれらと同列のものだった。つまり、感覚や感性で、すっと、ああいいなあと思うことこそが恋だった。彼についても、ずっとそうだった。彼の癖、口癖、パーツをいいなと思ってがいたが、それを所有しようと思ったことはなかった。何時間も語り合った時間も、他愛ない互いの好きな本についての話も、ふと綺麗な景色を撮って共有したくなる気持ちも、それ自体として楽しめたなら意味があった。

重要なのは、彼は決して手に入らない、ということだ。憧れとはつまり、そういうものであるべきだ。

そんな陶酔的な恋をしていた私なのに、今、久々に彼の寒いLINEの文面を見ながら、非常に残念な気持ちでいっぱいになっている。

ふと流し聴いていたYoutubeで、最近好きなゲーム実況者が、リスナーの恋愛相談に乗っていた。「別れた元彼が1ヶ月ぶりに、フったくせに、何事もなかったかのように、元気?ってLINEしてくる。私はヨリを戻したいんですが、どうしたらいいのでしょうか?」という質問。実況者は、苦笑しながらこう答えた。

「すごく言いにくいんですけど〜…。こういう場合、大抵の男は…いけないことを考えているんですよお…」

私は笑ってしまった。間違いない。

あの時、私と一緒にいることを選択肢にも入れていなかったくせに、1年も経って連絡。ここまで残念な人にはなってほしくなかった。ここまでクズに成り下がってほしくなかった。私はもう彼に対して一睡の夢も見ていない。だから、久々のLINEに心が躍ることも、ソワソワして返信の文面を考えることも、もう金輪際無いのだ。でも彼は、今も他の女性がいながら、やはり寂しがり屋な性質を持て余し、都合よく慕っていた女に気まぐれな連絡を取ってきたのだ。私の憧れる人は、そんなことはしない…そこでハッとした。私はまだ、憧れを押し付けようとしていたのか、と。

私の憧れ。そんなものは最初から、私の幻覚で、幻想だった。だって私の憧れの上司が本当にその通りだったなら、あんなことにはならず、こんなことにもなっていない。私は私で、本当の彼を見ることも、本当の状況を推し量ることも、客観的に考えることも、してこなかったのだ。

私は今、意図的ではないけれど自然と恋愛から距離を置き、だからこそ今ようやく正当に評価ができる。ようやく向き合うのだ。

あの頃の私にとって宝物だったガラクタたち。無意味だったとは思わない。無価値だったとは思わない。でも、もう今の私には不要なものだ。

もうきっと、振り向くことはない絵だ。






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