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サピオセクシャル #街コン強化月間 箸休め
サピオセクシャル(Sapiosexual):
相手の知性や知的な会話に強く惹かれる性的指向。「サピオ」という言葉はラテン語で「知恵」や「知識」を意味し、これに「セクシャル」が組み合わさった造語。サピオセクシャルな人は、外見や身体的な魅力よりも、知的な深さや会話の質に魅力を感じる傾向がある。
omiaiで初めて出会ってランチしてきた。相手は30半ばの京大卒大手理系メーカーの開発職。初っ端から私がTOEIC帰りの電車の波に乗り遅れ15分ほど遅刻。それでも快く待ってくれていた。
私がTOEICで遅れたことを説明したので、最初の話題は英会話の勉強法についてだった。そこから発展して海外経験の話、互いの仕事内容の話に変わり、いつの間にか、キャリアや仕事観の話に。その頃には、店員さんが「ラストオーダーでーす」と軽快にやってきた。驚くべきことに、そこそこ混んでいた店内はもうまばらだった。しかし話は止まらない。
「新卒後に、退職間際の人が集まるような窓際部署にたまたま所属したせいで、身体的拘束があるのに暇すぎる経験をしたんだ。仕事において暇すぎるってことほど辛いことはないんだってわかったよ」
それで彼は、自らもっと残業が多くキャリアに優位な部署を志望し、異動したばかりなのだとか。確かに忙しくなったが前より全然ましらしい。
私もやりがい重視で転職した(給料は下がった)タイプなので、同意できる部分も多くあった。正直なところ次は給料重視で転職だな、と思っているが、すくなくとも、自分に興味がある業界や業務でないと仕事を楽しめないことは理解できた。
結局その人とは、最後の最後まで仕事観の話で盛り上がり、LINEのIDを聞かれて2回目の約束をし、サクッと解散した。
ちょっと珍しいデートだったな。正直、同僚との飲みの方がもっとよっぽどプライベートな話になる。他者とこんなに仕事の話をしたのは久しぶりだった。
「デートで仕事の話ばっかりしてくる男ってなんなの?」
ハッとして、友人の顔を見上げる。彼女は不満気にビールを飲んで開口一番、今日の話題を提供しはじめた。私はタイムリーな話題にびっくりしていた。
「せっかく仕事後にさ、ムーディーなバルでディナーしてるのに、また仕事のことなんて思い出したくもないじゃん? 取引先の上司がどうとか、次のプロジェクト前に異動したくてとか、そんなの同僚と話せばいいでしょ。愚痴なら友達とすればよくない?」
どうやら彼女は彼氏とご飯に行っても、大半が仕事の話になるのが不満らしかった。彼女は仕事嫌いな人間ではないが、オンオフには厳しい。プライベートを楽しみたいのに、ことさら仕事の会食のような会話が続けられることが我慢ならないようだ。聞いていると、彼女の恋人は、異動やスキルアップの話が好きなタイプらしい。私は「あー、そういえば」と頷いた。
「この前の初デートが、ずっと英会話と仕事観の話だったわ…」
「…え?初で?やばすぎ」
やばすぎなのか。首を傾げると、彼女は呆れたように言った。
「初デートってだいたい趣味とか生活についての話になるでしょ? あとは聞きづらくなる前に過去の恋愛とか、アプリの話とかさ。仕事トピックはあっさりでよくない?」
「まあ、たしかに…?」
たしかにそれが一般的だ、と思った。これまで会った人はそうだった。だが私は、意外と仕事観トークも楽しかった。
よく考えてみると、その彼とは、メッセージの段階で映画好きな共通点が判明したが、「SFとスリラーとホラーの差はどんな要素で生まれるのか」についてずっと意見を言い合っていた。
そもそも私はそういう概念的な話や、率直に自分の気になるトピックについて語り合うということが好きである。心を開いて語り合える相手というのは意外とすくない。片手で余裕で収まってしまう。だからとても貴重なのだ。
「悟ってるじゃん笑」とか、「考えすぎだよ〜!」と言われたり、特に何も反論されず「そうだね〜」と同意されることの方がよっぽど多いので、そもそも相手をとても選んでいる。
だが、そういう話を私とオープンにとめどなくしてくれる相手とは、長く友人関係を継続しているし、していきたいと思っている。
学生時代に、ノリが合うとか、部活が一緒とかでつるんでいた友達とは、もうめっきり会わなくなってしまった。お互い住む場所が違ったり、ライフステージが違うと、こんなにも疎遠になるのか、と身に染みて思った。
それなのに、ずっと交換ノートでいろんなテーマについて議論したり、好きなオペラのCDを回し聴いてどこがいいとかを語り合ったり、転職のためにたくさんキャリアを語り合った友人とは、住む場所が離れたいまでも季節ごとに会いにきてくれたり、会いにいくことが目的で旅行に誘ったりもする。
私は他者との関係において、概念的な話ができ、視点を積極的に共有して深める行為によって信頼や好感度が上がるタイプなのだ。わかっていたことだけど、大人になるとよりわかる。
話す内容は大それたものでなくてよく、それこそ、SFとスリラーとホラーの何が私たちに差別化意識を持たせているのか、といった、持論を展開しあったり、日頃から考え続けている自分の偏見や主観についてなんでも共有するというかたちで、まったくかまわないのだ。
サピオセクシャルは知性に「性的魅力」を感じ、サピオロマンティックは知性に「恋愛感情」を抱くそうだ。私は自分はこの両者だと思っている。
友人関係だけでなく、過去に恋愛感情を抱いたきっかけや元彼との関係においても、見た目や性格から入ることは一度もなかった。
そうではなく、話していて、「あ。この人とは語り合える」とか、「あたらしい。もっと話し合いたい」から気になり始め、気づいたら恋愛感情になっている。知識そのものだけでなく、たとえばその人の表現における感性や言葉の表現に惹かれて好きになったりもする。
私の「好き」は、いつも「もっと知りたい」だった。
最近の多様化情勢に伴って、性嗜好もやたらと細分化し、カテゴライズされるようになった。私はとくにこの名称に拘りがあるわけではないが、性自認として、ひとつ自分を理解する助けにはなる。
たとえば、婚活をしていると、自分の好きってなんだっけ、と迷う瞬間が訪れる。何を重視してたんだっけ。とか、私は何に惹かれるんだっけ。みたいな。ものすごく根本的で感覚的なところが揺らがされるような感覚に陥る瞬間があるのだ。
「でもあんたはそういう変わった人好きだよね…
昔、好きなタイプは?って聞いたとき、『深夜超えても素面で語り合える人』って答えてたもんね。合コンで、しかもよりによってザルのあんたが」
彼女がけたけた笑いながら話している。そんなこと言ってたっけ。全然覚えていない。でも、たしかにそういう人がタイプだ。
「この子よっぽど合コンやる気ないんだなって思ったもん」
合コンでその回答をするのはけっこう空気読めてないな。と我ながら思うが、たぶん、再生産される飲み会の会話に飽きていた。酔っ払って何がたのしいんだ?と、全然酔えない自分は拗ねていただけかもしれないが。
いつかタイプの人と結婚できたらいいなあ、と思いつつ。
いったん明日から海外出張なので、街コンは小休憩。