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夢の役割。心の整理・記憶、創造の種。

「そろそろ、朝。出かける時間になったから、起きて」と、私を起こしに来た夫は、うめくようなつぶやきを聞くことになった。

「レックボタンを、押し忘れた~」

(ん? 何を言ってるんだ??)

朝のひかりをものともせず、布団にがっつりと頭まで潜り込んだ私がうなり続ける。

「早く押さないと、放送時間終わっちゃうの。押して!」

えらくはっきりした言葉が布団の中から届くので、そおっと羽根布団の中を覗き込む。

ふとんの中では、しかめ面した私。目を閉じて、眠ったまま。それでも、口の中でもぐもぐと言葉を発して、必死に指示を飛ばす。

「だから、レックボタン!」

(……こりゃ、無理だ。まだ深く眠ってるから、起きないな)

出発時刻を過ぎそうだから、夫はそっと寝室を後にする。布団の中でつぶやく(叫ぶ?)私を残したままで……

いつもどおり、目が覚めて。いつもどおり、ストレッチや瞑想などのおはようの儀式をして。ちょこっと、ものを書いて、仕事の返信チェックして。
朝ごはんの前に、ちょっとだけ。ちょっとだけ、布団の中で目を閉じよう。

そう思って布団に戻ったはずなのに、気づいたらもう昼前。

夫は打ち合わせのために珍しく、朝から外出。リモートワーク続いていたから、私にとってはごほうび時間。家の中にある他の人の気配を感じずに、自宅で朝から仕事ができるチャンス……のはずが、寝過ごした。

まあいいか。ぐっすり眠ったから。

のびのび、がりがり。仕事をして、気づいたらもう夕方。打合せで外出していた夫が帰宅した。帰宅して、私の顔を見るなり思い出したように笑い始めた。

「レックボタンって、何? 今度は、何をしていたの??」

!!いや、まだ夫には話をしていないはず。
先輩の持ってるYoutubeチャンネルに追加する動画一発撮りに、急遽出演して、その緊張でじんましんを出したなんて、話をしてないぞ。
手伝いに行ったYoutubeライブ配信で機材トラブルが出て、本番が中断して焦ったなんて、話してないぞ。

「あははは。朝、自分で叫んでいたよ。布団の中で」

おう。夢の中まで内緒は難しい。かなりはっきりと寝言を話すたちだから、ほぼ、夢の中身も丸聞こえ。

心に深く残った動画撮影のこと、寝言にならないわけがない。眠っている間に、撮影の時の緊張や不安をなんとか整理しようと、脳が頑張っていたんだな。夢が寝言で口に出て来るくらい、今回の動画撮影が深く心に残ったみたい。

「ねえ、最近、私は夢の中で何かを話していた?」
「いや。今日の『レックボタンが~』てうめき声くらい」

動画の撮影は、私にとってかなりたのしかった体験だった。夢の中で、その体験を身体の中に整理していく作業が行われた。

今、私の身体の中には「緊張したけれど、それでもたのしかった。自分で何か(動画や音声の)配信をしてみようかなと思った」と記憶が残された。実際に体験した不安と焦りの感覚は、薄くなり記憶から遠ざけられた。

夢ってすごい。感情を整理して、経験を記憶するためのシステムとして、しゃんっと動いてる。

そういえば、以前に夫が、知らないはずのコンクール課題曲を口ずさんでいたときもあった。寝言で歌う私の声で、覚えたと聞いた。それくらい鮮明に、夢の中で私は課題曲を歌い続けていたらしい。けれど、私はそのことを知らない。

寝言に残る夢の姿。「私は寝言で何を話していた?」と夫に、ときどき、聞いてみようか。そうすれば、その内容で自分の心に大きく残る感情やできごとを推し量ることができるから。

「じゃあ、眠っている間に俺は何かしゃべってる?」と、夫も自分のことが気になった様子で、私に聞いてきた。

「話はしていないけれど、ごわーっとものすごいいびきが聞こえるよ」
「それは、いびきじゃないよ。きっと、眠っている間に怪獣にとり憑かれてるんだよ」

怪獣にとり憑かれて、朝になったら人間に戻る説を、あれやこれやと理由つけて説明し始める夫。

まあ、いいか。たのしそうだから。

夢は感情を整理して経験を記憶するシステムであると同時に、創造のはじまり・インスピレーションの機能も持つ。そのこと、改めて感じたのでした。


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